郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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羽越・奥羽新幹線整備
単線、盛り土で効果が費用上回る
庄内の関係者は「アメ玉」とやゆ

 羽越、奥羽両新幹線のフル規格での早期整備に向け、沿線6県でつくる「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム(PT)」は6月下旬、単線と高架ではなく盛り土構造などの整備手法を採用すれば、所要時間の短縮効果や利用者増などの便益が費用を上回る、とする調査結果を公表した。山形県では「整備の妥当性を確認できた」と評価している。しかし調査結果に対する庄内の関係者たちの反応は冷ややかで、「調査結果はアメ玉のようなもの。両新幹線の実現は限りなく不可能に近い」「羽越新幹線より奥羽新幹線の優先順位が高いように映る」いった声が上がっている。(編集主幹・菅原宏之)

鶴岡―東京間72分短縮

表

 PTは費用対効果を算出するため、事業費の積算に際して▼複線か単線か▼高架整備か盛り土構造か▼費用を抑えた建築構造の駅舎を導入するかどうか―の条件を設定。これに基づき、専用線の用地買収費を含め①複線・高架構造②単線・盛り土構造・駅舎―の2種類で試算した=表1参照=。羽越新幹線の事業費は①が3兆4400億円、②が2兆6千億〜2兆7100億円とした。
 一方、所要時間の短縮効果や需要予測として、人口推計・経済成長・運行速度を基に試算した利用者などの便益(効果)は、貨幣換算ができる国土交通省の手引き書に沿って算出した。
 所要時間の短縮効果は、新潟駅で乗り継ぎが必要な鶴岡駅―東京駅間が3時間33分から2時間21分に1時間12分短縮、山形駅―東京駅間が2時間26分から1時間40分に46分短縮されるとした=表2参照=
 羽越、奥羽両新幹線とも、基本計画や既存新幹線などを参考に路線・運行計画を設定。1日の運行本数は片道32本、運行開始は2045年などと仮定した。
 路線計画のうち羽越新幹線は起点を富山駅とし、新潟、秋田両駅を経て終点を新青森駅とし、新設延長を486・1キロ、北陸、上越両新幹線を共有すると仮定して、既設区間を170・2キロと試算した。
 その結果、得られる便益を投資した事業費で割った費用対効果は、羽越新幹線、奥羽新幹線、両新幹線同時整備のいずれも、②の整備手法を採用すれば、分岐の目安となる値「1」を上回る結果が得られた=表3参照=。羽越新幹線の費用対効果は最小値が0・53(①で経済成長率が低めの場合)、最大値が1・21(②で同高めの場合)となった。
 PTはさらに、観光、産業・経済、暮らし・生活、都市機能・防災の4分野を柱に、両新幹線を活用した地域ビジョンも策定した。
 そして両新幹線の整備により、日本海側を走る新たな国土軸や東北の中央部を貫く大動脈が形成され、他の新幹線とつながることで全国の新幹線ネットワークの充実が図られると指摘。
 国土形成の観点からも、大規模災害時の冗長性機能の確保や、集中型ネットワークから分散型ネットワークへの転換、新たな広域交流圏の形成といった役割が期待される、と強調した。

6県合同で費用対効果算出

 PTは17年8月、山形県の呼び掛けで青森、秋田、福島、新潟、富山の沿線6県の課長級職員で設立。各県内の機運醸成を図るため▼両新幹線の費用対効果の算出▼新たな整備手法の研究▼両新幹線を活用した地域ビジョンの策定―の3項目を検討してきた。
 背景には、羽越、奥羽両新幹線と同じ1973年に、全国新幹線鉄道整備法の基本計画路線に位置付けられた四国(大阪市―大分市)、山陰(大阪市―下関市)、東九州(福岡市―鹿児島市)の各新幹線が14年3月以降、費用対効果を調査・公表していることがある。それらの3新幹線と同じ土俵で政府に要望していくためには、費用対効果の調査が必要不可欠と判断した。
 伊藤淳一・山形県総合交通政策課長は1日、本紙の取材に「フル規格新幹線整備の妥当性を確認できた。両新幹線の整備実現と奥羽新幹線の足掛かりとなる『福島―米沢間トンネル』の早期事業化に向け、JR東日本などと引き続き調整を進める」と強調した。
 そして「コロナ禍で落ち込んだ山形新幹線や羽越本線の利用回復・新規需要創出が目下の最大の課題なので、それに向けた取り組みに注力していく。調査結果は、今後の政府などへの提案や要望活動に反映させていきたい」と話した。
 今回の費用対効果の算出に、福島―米沢間のトンネル事業は含めなかった。

県の負担額は公表せず

 羽越、奥羽両新幹線の早期整備に向けた動きは、72年に基本計画路線に位置付けられた東北、北海道、北陸、九州の4新幹線がすべて開業し、完成にめどが立ったことから加速した。
 しかし整備には多くの課題が横たわる。その一つが開業時期を見通せないこと。
 完成にめどが立った4新幹線のうち、北海道新幹線の新函館北斗―札幌間は、開業を今から約10年後の2031年3月と想定。最も遅い北陸新幹線の敦賀―新大阪間は、同25年後の46年の開業を見込んでいる。
 すでに着工している中央新幹線(リニア)を除き、1973年に基本計画路線に位置付けられた新幹線は、先の5新幹線を含め計10路線。これら10路線の着工時期は、この46年が一つの目安となるが、それには10路線内での整備の順番を巡る競争も加わることになる。
 伊藤課長は「国の判断なので断定的には言えないが、現在の九州、北陸、北海道、リニアの各新幹線のように、同時並行で整備する形も十分あり得る。そうした観点から羽越、奥羽両新幹線の着工が、四国、山陰、東九州3新幹線の後になるとは考えていない」と話す。
 巨額の事業費も課題。PTの調査では、羽越新幹線の事業費は最も安価な整備手法を採用して、2兆6千億円かかると試算した。
 現行の整備新幹線の枠組みでは、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が施設を整備・保有し、JRに貸し付けている。その貸付料が事業費の財源に充てられ、これを除いた分の3分の2を国が負担し、地元の都道府県に3分の1の建設負担金が求められている。
 この都道府県の建設負担金は90%まで起債を起こすことができ、財政力に応じで70〜50%が国から地方交付税で措置される。国からのこうした支援はあるが、建設負担金が県の財政を圧迫するのはほぼ間違いない。
 伊藤課長は「都道府県の建設負担金は、その都道府県内を通る路線延長に応じて負担するのが基本的な考え方。羽越、奥羽両新幹線の整備に伴う山形県の負担額は試算済みだが、公表はしていない」と話した。

米沢のトンネルも課題

 フル規格新幹線が走る区間の並行在来線は、開業時にJR各社から経営が分離され、沿線自治体が運営を担うという課題もある。並行在来線の運営に伴う地元負担や、羽越本線の停車駅が通過駅になることに関する議論・検討も不可欠だが、こうした「負の要素」となるような問題は、取り上げられずにいる。
 福島―米沢間トンネルの早期事業化も課題となっている。同トンネルの整備構想は、JR東日本が表明し、急浮上した。降雪や大雨、動物との衝突などで同区間の輸送障害が、山形新幹線全体の4割強を占めることが背景にある。
 JR東日本は15年5月から約2年間かけて、抜本的な防災対策を目的に現地を調査。17年11月に「概算事業費は1500億円で、トンネル断面をフル規格仕様にするとさらに120億円増額となる。全長は約23キロで、工期は着工から約15年間かかる」との調査結果を県に示した。
 これを受け、県とJR東日本はフル規格仕様によるトンネルの早期事業化に向け、財源の枠組みを含めた協議を進めている。
 伊藤課長は「JR東日本からは、収支採算性の観点で『地元を含めた公費負担が必要』と言われている。県と同社は、どういう整備の在り方や財源構成が良いのか、どういった負担の考え方ができるのかなどを協議している」と話した。

羽越本線の線形改良進まず

 庄内の鉄道網高速化では、羽越新幹線のフル規格による整備のほかに⑴新潟―酒田間をつなぐ在来線の羽越本線の高速化⑵在来線の陸羽西線を使って新庄と酒田を結ぶ山形新幹線の庄内延伸―の二つの事業計画と一つの地域要望が併存する。
 段階的に整備が進んできたのが⑴の計画。背景には、山形県が06年3月に公表した羽越本線高速化調査と山形新幹線機能強化調査の比較結果に基づき、山形、新潟両県とJR東日本が⑵より⑴を優先して進めていることがある。
 羽越本線を高速化する手法はⒶ新潟駅で特急「いなほ」から上越新幹線に対面乗り換えができる同一ホーム化Ⓑ在来線の曲線区間を直線に改良するなどして速度アップを図る線形改良Ⓒいなほへの高性能な新型車両の導入―の3事業。
 このうちⒶは18年4月15日に始まり、19年3月のダイヤ改正で、いなほ全便が同一ホームで乗り換えられるようになった。JR東日本、新潟県、新潟市が総事業費15億円を3分の1ずつ負担して整備した。
 羽越本線高速化調査の結果では、同一ホーム乗り換えによる東京―酒田間の時間短縮効果を6分と試算していたが、実際の短縮効果はほとんどない状況。
 Ⓒは13年9月に導入済みで、東京―酒田間の所要時間は下りで4分、上りで1分短縮した。
 しかし山形、新潟両県とJR東日本の3者によるⒷの検討は進まず、事業化のめどは立っていない。羽越本線高速化調査の結果では、線形改良に要する事業費を189億円、東京―酒田間の時間短縮効果を約10分と試算している。
 伊藤課長は「羽越本線の利用が落ち込む中、事業主体のJR東日本に投資をしてもらうのは厳しい状況。引き続き(線形改良による高速化を)JR東日本に要望していくが、まずは利用拡大に注力し、投資につながる環境を整えていく必要がある」との考えを示す。
 そして22年度庄内地方重要事業要望にも盛り込んでいる速達型いなほの新設に触れ「県でもJR東日本に要望しているが、停車駅を飛ばせば時間は短縮できるものの、飛ばした駅の需要は拾えなくなる。そこのバランスが難しく、(新設には)問題が多い」と話した。
 一方、山形新幹線の庄内延伸については「バスや自家用車のほか、将来的な自動運転といった総合的な交通網を考えていく中で、どのようにしていくのかを考えていく」と話した。

庄内の地域力高め高速化

 こうした現状に、庄内の関係者の間からは、羽越、奥羽両新幹線の整備に冷ややかな声が相次いでいる。
 丸山至酒田市長は6月28日、本紙の取材に「人口が減っていく中、羽越新幹線が開業したころに人口が5万人台になっていたということになりかねない。そうしたことを考え、まずは短期間に環境を変えられる山形新幹線の庄内延伸を訴えてきたが、県は聞く耳を持たなかった。羽越本線の高速化にしても、JR東日本は投資をするつもりはないようだ。庄内延伸を含め、県にモノ申しているのは、その根底に県政が内陸偏重になっていることがある」との見解を示した。
 そして「庄内の鉄道網高速化に向けては、庄内の地域力を高めていくことが大事。産業を興し、観光客を誘致して羽越本線と陸羽西線の利用者を増やしていかない限り、JR東日本自体が投資に前向きにはならない。同時に内陸にも庄内の存在意義を訴えていかなければ、県庁はこちらを向いてくれない」と話した。
 鶴岡市区選出の志田英紀県議は「PTの調査結果にも出ているが、県内鉄道網の利用回復・新規需要創出に向けては、沿線自治体のまちづくりなどと一体で進めていくことが求められてくる。それをJR東日本と一緒に取り組んでいくことも方法の一つ」と提言した。

中速鉄道などで庄内延伸を

 酒田市・飽海郡区の佐藤藤彌前県議は9日、本紙の取材に「PTの調査結果はアメ玉のようなもの。実際問題として羽越、奥羽両新幹線の実現は限りなく不可能に近い。両新幹線の整備について賛否を問われれば、大多数の人は賛成と答えるが、できると思っている人はほとんどいない。福島―米沢間のトンネル整備は、JR東日本が現地調査を行うなど本気度を見せている。まずはトンネル整備を進めるべきで、フル規格新幹線はそれから考えてもよい」との見方を示した。
 そして「酒田駅から山形駅まで乗り換え無しでつなぐことが最も大事。整備手法としては、山形新幹線を延伸するほかに、中速鉄道を整備することなどが考えられる。財源は新過疎法の支援を使う方法もある」と話した。
 同じく酒田市・飽海郡区選出の梶原宗明県議は「県議会は国に対し県と一緒に両新幹線の早期整備を要望している。ただ県ではこれまでの対応から見て、奥羽新幹線の優先順位が高いように映る。羽越本線の高速化は、JR東日本が投資する事業で、現状では難しい。庄内はこのままでは鉄道の高速化から取り残されてしまう。鶴岡市との協議は避けて通れないが、中速鉄道を使った庄内延伸も訴えていくべき」と話した。


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