郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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洋上風力発電 現状と課題㊤
遊佐町民が地区説明会で反発
秋田県では反対運動が展開

 遊佐町沖合に発電用大型風車を設置しようとする計画が相次いで表面化する中、同町住民の間から「山形県と町は地域の声に耳を貸さず、強引に事業を推し進めようとしている」と反発の声が挙がっている。背景には、低周波音による健康被害や景観への影響、環境影響評価に対する県の姿勢などを問題視していることがある。一方、山形県に先行する形で洋上風力発電の導入が進む秋田県では由利本荘、にかほ両市の住民らを中心に計画への反対運動が展開されており、両県の住民が懸念している問題には共通点も多い。(編集主幹・菅原宏之、土田哲史)

低周波音の健康被害を懸念

 山形県が遊佐町沖合に導入を進めている洋上風力発電事業に対し、遊佐町住民から反発の声が相次ぎ挙がったのは、県が9、16、18日の3日間に町内6地区で開いた住民説明会でのこと。同町役場吹浦防災センターであった9日の住民説明会には、町外も合わせ約20人が参加した。県は2018年度から地区別に住民説明会を開いており、今年度が4回目となる。
 この日、髙梨和永・山形県エネルギー政策推進課長は、経済産業省と国土交通省が9月13日に、遊佐町沖合を再エネ海域利用法に基づく「有望な区域」に選定したことや、県が独自に、出力が最大で1万4千キロワットの風車26基を設置した場合と、出力8千キロワットの風車を最多の53基設置した場合の2通りの合成写真を作成したことなどを報告した。
 国が中心となって法定協議会を設け、事業者の公募や建設工事などを経て、運転開始は8~10年後になる、といった今後のスケジュールも説明した。
 その後の質疑応答では、複数の住民が騒音や低周波音(周波数1~100ヘルツの音)と、超低周波音(人の耳には聞こえにくい周波数20ヘルツ以下の音)による健康被害を最も懸念している、と話した。
 そして過去に、低周波音による影響の有無を聞いた町民の質問に対し、県が「環境省では、私たちが生活している環境の中で発生している程度の大きさの低周波音では、直接的な生理影響を生じる可能性は少ないとしている」と文書で回答していることを問題視した。
 住民からは▼洋上風力発電施設が海上に多数並んだ時の低周波音がどうなるのかを心配しているのであり、こうしたいい加減な回答では次の段階に進めない。誠実に向き合ってほしい▼具体的な数値を出してほしい。そうでなければ「説明会を開きました」というだけのアリバイづくりと言われても致し方ない―などと厳しい批判の声が出た。

欧州は20~30キロ沖に建設

 住民からは、県が設定している風車設置の想定海域が陸地から最短1キロ沖になっていることに対し、「欧州では洋上風力発電施設を陸地から20~30キロ離して建てている。これは景観への影響のほかに、人体への影響が大きいことを心配しているためと考えられる。陸地から1キロ離せば大丈夫という科学的根拠を示してほしい」と県側に迫る声も出た。
 これに対し髙梨課長は「着床式の場合、風力発電施設が建てられるのは水深10~50メートルといわれている。欧州は遠浅の海が続いているが、日本海域は沖合に行くとすぐに深くなることから、技術的に水深の合致するところが設置場所となっている」などと説明した。
 これに対し住民は「健康被害や景観への影響よりも、(事業者の)採算が取れなくなるから1キロに設定したということなのか。遊佐町沖合の風況は良いのだろうが、海底の地形は大規模な洋上風力発電の設置には向いていないということではないか」と反論した。
 また、県が作成した合成写真に対し、一部の遊佐町民や酒田市民からは「酒田市の民間人が作成し、ネット上で公開している合成写真に比べ、全体的に色が薄い」「風車の輪郭がぼやけている」などと分かりづらさを指摘する声が出ている=写真参照=

県が作成した8,000キロワット53基の西浜海水浴場からの合成写真
県が作成した8,000キロワット53基の西浜海水浴場からの合成写真

県と同程度の高さの風車を想定した西浜海水浴場からの合成写真(菅原正氏提供)
県と同程度の高さの風車を想定した西浜海水浴場からの合成写真(菅原正氏提供)

住民投票で決めるべき

遊佐沖洋上風力発電事業 計画風車 高さ比較模式図

 遊佐町沖の洋上風力発電事業では、これまでに①中部電力(株)②加藤総業(株)/コスモエコパワー(株)③日本風力開発(株)④関西電力(株)/丸紅(株)⑤九電みらいエナジー(株)/石油資源開発(株)⑥SBエナジー(株)⑦住友商事(株)⑧インベナジー・ジャパン合同会社⑨東京電力リニューアブルパワー(株)―の9事業者が環境影響評価配慮書を作成した。③は次の段階の環境影響評価方法書も提出している。
 しかし9事業者は、いずれも配慮書だけでなく、方法書でも発電機の配置計画や設置基数、出力の大きさなどを含めた事業計画を示していない。
 住民説明会に参加した県樹木医会樹木医で酒田市景観審議会委員の梅津勘一氏は「計画段階配慮書手続きは、事業の位置や規模などに関する複数案を比較検討することによって、早期の段階で柔軟な計画変更を可能にするのが肝のはず。複数案を示さない場合はその理由を明らかにして単一案を示すべきで、これでは議論にならない」と指摘する。
 そして「県が不備な配慮書を次々に受け付け、遊佐町と酒田市に意見照会を求めているのは問題。こうした県の姿勢は不誠実で、環境影響評価法の抜け道を県が率先して認めているようなもの」と批判した。
 この問題では、③の方法書について意見を交わした10月1日の酒田市環境審議会でも、NPO法人パートナーシップオフィス理事で同審議会委員の金子博氏が「方法書は、対象事業に係る計画策定が終わり、それに対して事業評価を行うための方法論を掲げる手続きになる。その事業計画が未確定なまま方法書を出すことには疑問がある」と指摘していた。
 梅津氏は「私の周りで洋上風力発電に賛成という声は聞いたことがなく、知らない町民も多い。このまま進めば取り返しのつかない事態になる可能性があり、住民投票で事業の是非を決めるくらいの問題ではないかと考える」と話した。

秋田県南で反対署名1万人

 秋田県では山形県より、洋上風力発電の計画が先行している。秋田県エネルギー・資源振興課によると、同県では①由利本荘市沖北側・南側、発電規模計約70万キロワット②能代市、三種町及び男鹿市沖、同40万キロワット③八峰町及び能代市沖、同36万キロワット④男鹿市、潟上市及び秋田市沖、同20万キロワット―の4海域と、⑤秋田港、同5万4600キロワット⑥能代港、同8万4000キロワットで計画が進んでいる。
 これに対し一部の秋田県民からは、洋上風力の計画中止を求める声が出ている。市民団体「由利本荘市・にかほ市の風力発電を考える会」(佐々木憲雄代表、会員43人、以下考える会)と「AKITAあきた風力発電に反対する県民の会」(金森信芳代表、会員347人)は20年2月、由利本荘市沖の洋上風力発電の計画中止を求める要望書を、国、秋田県、両市などに提出した。
 両会が集めた中止を求める署名は、県内外から1万305人分に上った。両会では、洋上風力の是非を問う住民投票の実施を目指している。
 両会は中止を求める理由に▼市民の健康被害が増える▼自然景観に壊滅的な打撃を与える▼鳥類の調査が不十分▼漁業資源への影響が甚大―など10項目を挙げる。
 考える会では、既存の陸上風車による健康被害の聞き取り調査を18年11月〜21年7月に行い、由利本荘市の17人と、にかほ市の4人から被害の訴えを確認した。被害の原因は風車の騒音や羽根の影のちらつきなどによるもので、めまい、不眠、耳鳴り、難聴、頭痛などの症状があった、と報告している。
 考える会では、健康被害を示すもう一つの根拠として、日本科学者会議北海道支部が18年10~12月に、由利本荘市西目町海士剥地区の住民に行ったアンケート調査にも言及している。
 同調査は、回答26人、有効回答率3・5%のため「適切な回答率とは言えない」と前置きした上で、睡眠障害を診断するアテネ問診票の結果が「医師に要相談」となった回答者が38・5%に上ったことから、風車が大型化し、数が増えるほど低周波音の影響は強くなるため、洋上風力は広範囲に健康被害をもたらす可能性があるとし、県や市による大規模な実態調査が必要、と結論付けている。

弁護士会が景観面から苦言

 秋田弁護士会(山本隆弘会長)は景観面から、20年10月、洋上風力発電に関する要望書を国、秋田県、沿岸市町に提出し、洋上風力の公募に参加する事業者に風車の合成写真の公開を義務付けるように求めた。
 要望書では、洋上風力は秋田県沿岸全体の景観が一変する可能性が高いとし、海洋の景観が損なわれて圧迫感を感じさせることになる、と指摘した。
 一方で県民には、景観の変化を示す分かりやすい情報が提供されていないと指摘し、景観に関する情報提供は不均衡と断じた。そして景観の変化に県民の意思が十分に反映されることは、憲法の住民自治の理念や景観法の基本理念から明らかであるとして、事業者に合成写真をホームページなどで公開することを要望した。

1キロ沖は住民軽視の表れ

 考える会の佐々木代表と県民の会の金森代表は「欧州の30~50キロ沖に建っている洋上風力を、秋田のように陸地から1キロ沖に持ってくることには無理がある。日本海は欧州のように遠浅の海ではなく、沖が急に深くなるから陸から離して建てることはできないというのは、事業者の理屈であり、住民を軽視している」と指摘した。
 行政の対応にも問題があると言い、「行政は公平中立であるべきなのに、事業者側に立っている。健康被害は行政が調査することが公平であり、実態を調査しなければ予防はできない。秋田県はエネルギーの自給率が190%あり、電力は余っている。なぜ都会のために地方が犠牲にならなければいけないのか。秋田の問題はいずれ山形でも問題になる」と訴える。

◎洋上風力は酒田、鶴岡両市沖でも今後計画が進められる見通しです。ご意見をお寄せください。編集部

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