郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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洋上風力発電 現状と課題㊦
住民理解や合意はあるのか
山形、秋田両県の住民が反発

 秋田県では、産業振興や雇用創出などを目的に洋上風力発電を積極的に推し進め、同県内の4海域と2港で事業化に向けた計画が進んでいる。これに対し反対する住民は「県が説明する経済効果は希望的観測に過ぎず、公平であるべき自治体は事業者側に立っている。住民と向き合う気持ちが見えない」などと批判している。一方、山形県が遊佐町沖合に導入を進めている洋上風力発電事業に対しても、同町住民などの間に県の姿勢や進め方への強い不信感が広がっており、「意見を述べる機会が少ない」「山形県と遊佐町は、一度立ち止まってほしい」と訴える声も出ている。(編集主幹・菅原宏之、土田哲史)

秋田、能代両港では建設中

 秋田県エネルギー・資源振興課によると同県の洋上風力発電事業は①由利本荘市沖北・南側、発電規模計約70万キロワット②能代市、三種町と男鹿市沖、同40万キロワット③八峰町と能代市沖、同36万キロワット④男鹿市、潟上市と秋田市沖、同20万キロワット―の4海域で計画が進んでいる。
 国は①②を再エネ海域利用法に基づく促進区域に2020年7月に指定し、11月に事業者の公募を始めて21年5月に締め切った。事業者は年内にも決まる可能性がある。21年9月には③が促進区域に、④が促進区域の前段となる有望な区域に、それぞれ指定された。
 秋田、能代両港では、秋田県内外の計13社が出資した秋田洋上風力発電㈱(岡垣啓司代表取締役社長)が、商業用としては国内初の大型洋上風車を建設中で、22年末の運転開始を予定している。洋上風車は海面からの高さが150メートルで出力4200キロワット。秋田港では13基で発電規模は計5万4600キロワット、能代港では20基で同8万4000キロワットを計画している。

経済効果は試算の3割だった

 山形、秋田両県の考え方を比べると、山形県はエネルギーの安定供給と供給基地化に重点を置いているのに対し、秋田県は産業振興や雇用創出などの経済効果を第一の目的にしている、という違いがある。
 秋田県が16年に策定した「第2期秋田県新エネルギー産業戦略」の基本方針では、同県の再生可能エネルギー発電事業を、豊富な自然エネルギーを活用した同県ならではの産業と位置付ける。そして建設工事による設備投資が見込め、発電施設の運営、保守点検、部品供給などへの県内企業の参入を進め、「経済効果の最大化を図る」としている。
 洋上風力は投資額が特に大きい。同県エネルギー・資源振興課によると、国が示す風力発電事業1キロワット当たりの経済効果額56万5千円に基づき試算した投資額は、4海域と2港の事業で計約9千億円。このうち、県内企業の受注額は約2400億円と見込んでいる。加えて固定資産税や法人住民税、法人事業税などの税収も増えるとみている。
 同県では、県内企業の洋上風力発電関連産業への参入可能性を探るため、14年に聞き取りした。それによると、風車本体の建設工事、ケーブル敷設などの環境整備、保守点検、資機材調達、部品交換作業、撤去工事などに参入の意思を確認した一方、部品の製造ができるとした企業は無く、県内企業の受注は建設工事が大部分を占めた。
 売電収益を使った地域への還元策も検討している。促進区域の①②③では国、県、市、漁業者、学識者などによる法定協議会の中で、事業者に売電事業の利益を、同市町が設置する基金へ寄付することを求める意見をまとめた。内容は20年間の売電収入の0・5%を目安に基金を積み、地域や漁業者に還元するというもの。
 これに対し同県の市民団体「由利本荘市・にかほ市の風力発電を考える会」(佐々木憲雄代表、会員43人)と「AKITAあきた風力発電に反対する県民の会」(金森信芳代表、会員347人)は本紙の取材に「経済効果は希望的な観測に過ぎない。中立的な立場にあるべき国、県、市などの自治体全てが事業者側に立っており、健康被害の実態など客観的なデータを示して意見を述べても、ほとんど意見は通らない」と批判する。
 両会は21年6月2日、県などに要望書を出し、秋田港と能代港に建設中の洋上風力発電の経済効果と、基礎工事の杭打ち時の打設音への苦情などの情報開示を求めた。
 佐竹敬久県知事が同月18日に回答した文書によると、県は20年6月の試算では県内企業の受給率は25%で受注額を257億円と見積もっていたが、事業者への聞き取りでは受給率12%、受注額約85億円と試算を下回ったことを明らかにした。
 打設音では、能代市の工事で市役所に複数の苦情が寄せられたことなどを指摘した。県は能代市に騒音の問い合わせがあったことを確認して、事業者に配慮を求めた、と回答した。
 佐々木代表と金森代表は「オーストラリアの行政控訴裁判所では、風車の稼働による低周波音と超低周波音は公害であると認めている。しかし、県は健康被害の実態調査もしない。風車と景観の合成写真も事業者が作るものとして、県は作らなかった。県や自治体からは住民と向き合う姿勢が見えない」と厳しく批判した。
 こうした声に同県エネルギー・資源振興課の石山聰副主幹は「県民の理解を得る努力がさらに必要と認識している。事業者には環境影響評価を順守し、住民の懸念材料に配慮するように求める」と話した。

一部町民の声しか聞いてない

秋田港北側の沖合約1キロに建設中の洋上発電用風車の支柱部分
秋田港北側の沖合約1キロに建設中の洋上発電用風車の支柱
部分。全高150メートルになる予定。沖合1キロは遊佐町
沖の計画と同じ距離

 山形県が遊佐町沖合に導入を進めている洋上風力発電でも、町民の間には県の姿勢や進め方に対する強い不信感が広がっている。
 県が11月9、16、18日に町内6地区で開いた住民説明会のうち、町内外から約20人が参加した9日の同町役場吹浦防災センターでの説明会では、髙梨和永・山形県エネルギー政策推進課長が、遊佐町沖で洋上風力発電を検討している理由の一つに「導入可能性の検討を行うことに、遊佐町から理解が得られていることがある」と説明し、住民から異論が相次いだ。
 住民は「町民が意見を述べる機会は少なく、町内6地区の代表者など一部の意見しか反映されずにきた。知らないうちに有望な区域になり、洋上風車を建てます、と言われても誰も納得しない。町民が我慢をして受け入れるしかないような構造を県が自らつくっている」と不信感を露わにした。
 髙梨課長は、原発1基分の再生可能エネルギーを導入し、45・8万キロワットを風力発電で賄うことを目標に掲げる県エネルギー戦略を取り上げ、「山形県は風力発電の潜在力が高い。こうした理由から(洋上風力発電に)取り組んでいることを理解してほしい」と説明した。
 しかし住民は「そもそも山形県に原発1基分の再生エネルギーが必要なのか、という議論がなされないまま一部の人たちだけで決めているのは問題。なぜ風力発電の導入にこだわり、無理に推し進めようとするのか」と批判した。

県が主導し推進、と批判

 16日の同町役場稲川まちづくりセンターの説明会には、町内外の約30人が参加した。県樹木医会樹木医で酒田市景観審議会委員の梅津勘一氏は「国は合意形成、住民理解が進んでいるという前提の下に、遊佐町沖を有望な区域に指定した。ところが住民の感覚からすると、(洋上風力発電を)受け入れるのかどうかという議論の段階」と指摘した。
 その上で「合意形成が無いままに事業を進めてしまえば将来に禍根を残す。県と町には、ここで一度立ち止まってほしい」と訴えた。
 これには飯澤秀洋・山形県エネルギー政策推進課エネルギー政策推進専門員が「再エネ海域利用法の下で政府が主導し、海域を選定して進めていく中で、地域の皆さんの意見も聞きながら、国の取り組みに協力して進めていこうと考えている」などと回答した。
 東北公益文科大学元教授で庄内地域史研究所の三原容子氏は、エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長で、山形県エネルギー政策総合アドバイザーと山形県地域協調型洋上風力発電研究・検討会議の遊佐沿岸域検討部会アドバイザーなどを務める山家公雄氏に言及した。
 エネルギー戦略研究所は日本風力開発㈱のグループ企業で、日本風力開発は遊佐町沖の洋上風力発電事業に名乗りを上げている9事業者の一つ。9事業者の中で最初に環境影響評価方法書を提出している。
 三原氏は「洋上風力発電を国が進めているように説明するが、山家氏を県のエネルギー関連のリーダー的なポストに迎え、県が自ら推進しているのではないのか。県が国の言いなりになっているというよりも、県が注力してきたからここまで進んだ」と反論した。
 そして「秋田県では、低周波音による健康影響など被害が確認されている。そうした状況を調べようと思えば調べられるはずなのに、山形県は全く動いていない」と批判した。

基金、出資は迷惑料

 住民からは、地域への経済波及効果や売電収益を使った還元策などにも、意見や質問が出ている。
 9日の説明会では、県が過去に「出力30万キロワット規模の洋上風力発電を導入した場合、経済波及効果は約370億円、雇用創出効果は約2800人が見込まれる」などと文書で回答している根拠を問う声が出た。
 髙梨課長は「経済波及効果は産業連関表などで試算した。雇用創出効果は、特定の数式に当てはめて算定した人数と理解してほしい」と説明した。
 これには一部の遊佐町民や酒田市民から「県が示す金額や人数は机上の数値でしかなく、実際にそれだけの効果があるのかどうかは疑問」との声が聞かれる。
 売電収益を使った地域への還元策では、9月22日に県庁で開いた遊佐沿岸域検討部会の21年度初会合で、山家氏が秋田県の売電収益の0・5%を基金にする案に触れ、「基金という形がいいのか、出資と配当という形で所有権を持つのがいいのかなども、今後の論点になる」と述べた。
 これに対し複数の酒田市民らは「基金も出資も洋上風力発電の迷惑料。金で住民を黙らせようとしているように見える。原発の立地地域に多額の交付金が出ている構造と、根本の考え方は変わらない」と指摘した。


訂正 前号2面の図中「既存風車宮海・比子100~200メートル」を「同100~120メートル」に訂正します。

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