郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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スマート農業庄内で始まる②
生育データの「見える化」進む
通信技術やドローン画像で省力・増産化

 庄内では大規模化や省力化、若手育成などを視野に、情報通信技術(ICT)やロボットを活用するスマート農業の必要性が増している。ドローンや人工衛星で水田を遠隔観測して稲の生育状況を診断し、土作りを進めて収量増を図ったり、観測機器でハウスなどの生産環境を観察して作物の生育状況や栽培技術をデータで示したりと、さまざまな場面で「見える化」が進められている。(本紙取材班)

田畑の気温を今スマホに 鶴岡高専が観測装置開発

育苗ハウスに導入している冨樫さん
育苗ハウスに導入している冨樫さん

 鶴岡工業高等専門学校の金帝演准教授は、気象情報を遠隔観測して農家に知らせる装置「ウェザーステーション」を開発した。県内で12台が試験運用中で、量産できる企業があればすぐにでも実用化できる。
 同装置は、気温・湿度・日射量・気圧・風向・風速・雨量・二酸化炭素濃度・土中の水分などを定期的に観測し、携帯電話の電波とインターネットを使って農家に伝える。同装置を使えば田畑の局所的な気温や湿度を正確に把握できる。
 田畑を何度も見回ることが不要になり、農家の経験や勘が頼りだった収穫時期の予測や病害虫の予防にも応用できる。1日や1週間ごとの細かい記録を過去の記録と照合できるため、新規就農者でもベテラン農家と同等の栽培ができる。
 金准教授は「大量生産のアメリカ型農業に比べて日本の農業は質が勝負。日本の質の高い農業技術を後継者に伝えていく必要があるが、後継者不足で技術の受け手がいない。ICTを使えば農業技術を見える形にして情報を蓄積できる。ICTで数値化した農業技術を新規就農者に提供する仕組みを作りたい」と話す。
 鶴岡市播磨の冨樫英司さん(31)は、同市立農業経営者育成学校を今春卒業し、実家で就農した。ウェザーステーションを、稲の育苗やミニトマトを栽培するハウスで21年4月から使っている。ハウス内が35度以上になると、スマートフォンに通知が来るように設定してある。夏の高温で栽培に失敗することが無くなり、ハウスに行く回数が減った。
 同市湯野沢の木村日出夫さん(63)は就農40年以上のベテラン。枝豆の育苗ハウスで21年4月から使っている。導入前は、ほかの農作業に集中して温度管理を忘れることがあったが、現在は通知が来てからハウスに行けば間に合うので、育苗の失敗が無くなった。
 冨樫さんと木村さんは同装置を増やしたいと考えているが、装置には携帯電話の通信費が月千円かかる。ハウス1棟に1台必要だが増台すれば通信費がかさむ。
 木村さんは「スマート農業で発生する費用は、今までの農業には無かったもの。農家の収益を高められるかは使い方次第。全体としてはまだ費用が高い。普及できる価格帯に落ちれば使いやすくなるのではないか。情報端末の操作に不慣れな農家でも簡単に扱えるようにすることも必要」と話す。


アスパラ多収技術を共有化 観測機器で測定・解明し

 県庄内総合支庁酒田農業技術普及課では、酒田市と遊佐町のアスパラガス多収生産者のハウス2カ所に、栽培環境を観測する温室環境観測機器「あぐりログ」を設置して、収量を上げる技術の「見える化」に取り組んでいる。21〜23年度に実証実験し、多収技術を数値化して、生産者全体の収量向上と省力化につなげる。
 あぐりログは、温度・湿度・二酸化炭素濃度・土壌水分・土壌溶液EC(電気伝導度)・日射量などを測定し、データをスマホなどでいつでも確認できる。生産者だけでなく、農協の担当者も情報を共有している。
 この観測で多収生産者のハウスの土壌水分量の推移などが数値で示され、水やりのタイミングが見えるようになった。
 さらに経験の浅い生産者の畑にも、簡単に土壌溶液を採取できる「ミズトール」を設置して、週に1回、土壌溶液の酸性度とEC、硝酸イオン濃度を測定して、追肥のタイミングなどを確認しながら栽培管理に生かしている。
 現状では、標準的な目標収量は10アール「当たり2トンだが、約3トンの多収を実現している生産者もいる。多くの生産者が多収技術を身に着けることで収入増につながる。酒田農業技術普及課管内では、近年アスパラガスに取り組み始めた生産者が約20人と多く、多収生産者の技術を分かりやすく伝えることは大きな支援となる。
 あぐりログの導入には100万円弱が必要だが、アスパラガスは経営的に安定している作物のため、実証実験を進めた。酒田農業技術普及課では、どの作物でどの技術を取り入れるのか、さまざまな検討が必要としながらも「農家の経験値や技術を観察して数値化していくことは、新規に取り組む人への目安を示すことになり、今後どんどん大事になってくる」と話す。
 同様の取り組みは、庄内たがわ農協管内でも始まっている。同農協と県庄内総合支庁農業技術普及課が連携して、櫛引地区でキュウリの団地化を図ろうと、ベテラン生産者と新規参入者の栽培環境を観測している。


ドローン画像で土壌改良 (株)ファーム・フロンティア

ドローンで稲の生育状況を観測
ドローンで稲の生育状況を観測

 (株)ファーム・フロンティア(酒田市大宮町、中山由紀代表取締役社長)では、ドローンに付けた特殊カメラで水田を撮影し、生育状況を分析して土壌を診断する、遠隔観測による土づくりを進めている。
 同社取締役会長で技術顧問の藤井弘志元山大農学部教授が、撮影した画像を解析して、各水田でどう対応すればよいか処方箋を作って生産者に伝え、施肥管理などに役立てる。
 酒田市と連携して、20年度は同市本楯地区の水田約50カ所計20ヘクタールで、21年度は本楯地区と西荒瀬地区の水田約50カ所計20ヘクタールで実証試験を行った。22年度から事業として本格的に始める。
 この技術は、植物は生育が進むと葉色が濃くなり、赤の光を吸収して近赤外の反射率が強くなるという、反射の大小を数値化したNDVIを画像にして見える化したもの。その画像を、長年蓄積した水稲生育状況のデータと重ね合わせるなどして、高い相関性があることを解明した。
 例えば「青色で示された場所は生育不良で地力が低い」「黄色で示された場所は生育良好で地力が高い」など、画像の色の違いから生育状況や食味の診断などもできる。情報はスマホなどで簡単に見ることができる。
 特にドローンの画像は解像度が高く、水田1筆の中でどこの地力が高く、どこが低いかが詳細に分かる。地力の低い部分にだけ肥料を入れるなど、水田全面に肥料を入れる場合と比べ肥料代を減らせる。
 地力の低い部分や水田に肥料を入れることで、収量のばらつきを無くし、収量増につなげることもできる。遠隔観測を活用した土づくりをした結果、10アール当たりの収量が700キロを超え、多収となった水田もあった。
 藤井会長は「遠隔観測の画像はレントゲン写真のようなもの。それを基に診断し対応する技術が必要。画像で得た情報を理解し、活用できる生産者をいかに育てるかが大切。規模拡大を進めていく上で、スマート農業の導入は必要不可欠となるが、自分の農業経営で何をどこに導入するかを、一人一人が考えて判断していくことが重要。さまざまなことに対応できる人材を育成していきたい」と話す。


米作りの技術と収量向上 本楯新ブランド米研究会

会員が育苗の状況を巡回して確認
会員が育苗の状況を巡回して確認

 酒田市本楯地区の「本楯新ブランド米研究会Sanzyu」(小野貴之会長、会員10人)は、ドローンによる遠隔観測などスマート農業の実践と低コスト省力化、土作りや新しい施肥体系作りなどに取り組み、付加価値の高い米の生産、販売を目指している。
 同会は本楯地区の30~40歳代の生産者が20年12月に設立した。各会員が自分の水田の地力や酸性度の数値を見える化して把握し、水田ごとの稲の生育状況と作業情報、アメダスの気象情報などを一元管理している。
 水田の状況や作業管理データを蓄積することで傾向が分かり、田湧き(土中ガスの発生)や稲の倒伏などのリスク管理に役立てている。遠隔観測も見える化の一環として導入している。
 会員同士で互いの水田の情報を交換し合っているため、受託している水田を交換して団地化し、作業効率を上げることもできる。
 小野代表は「遠隔観測だけでなく、種まきの際に新しい肥料を使ったり、田植え機に苗の株元に施肥する機械を取り付けたりと、コストを減らして効率的な施肥体系を取り入れている。実際に収量も上がり、経費も抑えられている。できるだけ初期投資を抑えて、作業分散や経費削減を図る。そのために新しい技術を導入することもスマート農業。プロの稲作農家としてこだわって、欲しいと言われる米を作っていきたい」と意気込んでいる。


つや姫の収量向上目指し 衛星画像で生育を診断

 県庄内総合支庁農業技術普及課によると、県と庄内5市町、5農協などは、衛星画像を活用して生育診断などを行う「スマートつや姫広域実証研究会」を21年5月に設立した。つや姫の生育状況を診断する実証実験を行っている。
 庄内産つや姫の品質・食味の維持と収量確保を図り、生産者の所得向上につなげる。22年度は庄内のつや姫マイスター24人に使ってもらい、声を聞きシステム改善につなげる。24年に庄内全域での実用化を目指す。
 衛星画像を基に広範囲に水田1筆1筆を生育診断し、スマートフォンなどで迅速簡単に情報提供する。生育診断を基に精密な穂肥診断を行うことで、良食味を安定的に保つことにつなげる。
 同課では「水田ごとに品質を管理して収量の低い水田の収量を上げる。つや姫の場合、庄内全体で収量を1%上げるだけで7千万円の産出額増になる。このインパクトは大きい」と話す。
 タンパク質含有量や収量の推定、刈り取り適期診断などにも活用し、雪若丸とはえぬきの診断にも広げて汎用化を図りたい意向。生産者個人ではなく農協単位などでの導入を働き掛けていきたいと言う。

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