郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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遊佐町沖風力発電
住民団体が県知事と町の回答書を批判
建設想定海域の設定根拠を問う

 遊佐町沖で計画されている洋上風力発電事業を巡り、事業化想定海域を海岸から1~5キロに設定した根拠などを問う公開質問状を、吉村美栄子県知事と時田博機町長に提出した庄内の住民団体が、県と町の回答書には「説得力が無く、容認できない」と反発している。同団体は回答書への反論をまとめた見解書を吉村県知事と時田町長に再度提出し、意見や補足があれば文書で提出するよう求めた。一方、県は酒田市沖への洋上風力発電の導入に向け、次回の酒田沿岸域検討部会(以下酒田部会)に事業化想定海域案を示す方針で、回答書の内容は酒田部会の議論に影響を与えそうだ。(編集主幹・菅原宏之)

県の許認可権及ぶ区域に設定

 公開質問状を提出していたのは、計画に疑問や不安を持つ庄内住民でつくる「遊佐沖洋上風力発電を考える会」(菅原善子、本間淳子、佐藤秀彰共同代表)。文書は8月26日付。
 これに対し町からは9月16日付、県からは同月21日付で回答書が届いたが、同会は県と町の回答内容には納得できないなどとして、県には郵送で、町には直接手渡しで見解書を提出した。文書は10月11日付。意見や補足があれば、今月4日までに文書で提出するよう求め、両者から回答を得た。
 吉村県知事に対する質問項目①~③と、県知事からの回答の要旨、同会の見解書の内容は次の通り。
質問①=県はどのような根拠と経緯をもって、海岸から洋上風車までの距離を1~5キロの海域を適地とし、事業化想定海域として国に情報提供したのか。また沿岸域に暮らす地域住民、景観、自然環境に対する配慮はどのようになされたのか。
回答=海域の先行利用者である漁業者などの利害関係者が特定可能で、県知事が許認可権を持つ共同漁業権設定区域内で、事業化想定海域を設定した。ただし、沿岸から1キロ沖合の鳥海国定公園区域は除いた。
 そして遊佐町と漁業関係者、有識者、経済団体、地元住民代表者などでつくる「遊佐沿岸域検討部会」(以下遊佐部会)や、漁業関係団体と県内産学官金の団体、有識者が参画する「山形県地域協調型洋上風力発電研究・検討会議」(以下全体会議)でも了解を得ている。
 その上で▼年平均風速が毎秒7・6メートル以上と風況が良好▼沿岸海域の海底環境がおおむね水深40メートル以下の砂地と推測される▼地域として比較的早い時期から風力発電を受け入れてきた歴史がある―などの理由を付して情報提供を行った。
 沿岸域に暮らす地域住民、景観、自然環境に対する配慮については、国に情報提供を行った事業化想定海域に洋上風力発電が導入された場合の地域に与える影響や課題について、遊佐部会や全体会議で議論を重ねており、出された意見や懸念事項は、9月2日に開いた「山形県遊佐町沖における協議会」(法定協議会)の第2回会合に提示している―などと述べていた。

遊佐検討部会は根拠にならない

 これに対し考える会は見解書で「回答は遊佐部会や全体会議で了解を得たことを基調にしているが、遊佐部会は議論をする場であって、意思決定の場ではない。それにもかかわらず、山形県は遊佐部会を意思決定の根拠、いわばアリバイとして使っている」と批判した。
 さらに遊佐部会には、地区住民代表として各地区のまちづくり協議会長が入っていることは事実としながらも「会長は部会の内容を地区住民に報告していないことから、地区内ではその情報が共有されず、議論の場が設けられることも無かった。加えて山形県と遊佐町はともに、地区内で議論するよう、促すこともしてこなかった」と指摘した。
 そして「会長の発言が地区住民の意思・意見を反映したものと見なすことはできず、従って山形県も遊佐町も、遊佐部会を意思決定の根拠とすることはできない」と反論している。
 沿岸域に暮らす地域住民、景観、自然環境に対する配慮については「遊佐部会で議論をしたといった趣旨の回答しかなく、配慮したことを読み取ることはできない。考える会では、山形県が各分野の専門家の意見を聞くなどの科学的、客観的な検討はせず、配慮をしなかったととらえざるを得ない」と結論付けた。

先進諸国の距離基準と比較せず

日本海病院の市町村別延べ入院・外来患者数

質問②=欧州や中国に比べ、あり得ないほどの至近距離での設定をするに当たり、具体的にどのような検討をしたのか=表参照=。海外の洋上風力発電先進地における海岸からの距離、健康被害や漁業への影響について、どのような情報収集、調査研究をしたのか。
回答=欧州や中国における海岸から洋上風車までの距離との比較検討は行っていないが、日本と海外では地理的条件や法制度、漁業権に対する考え方などが異なることを国にも確認しており、海岸からの距離だけを取り出して区域設定の適否を判断することは難しい。国内外で同様の海岸からの距離を設定している案件もあり、遊佐町沖が突出して近接しているものではない。
 健康への影響については、2016年11月の環境省報告書では、1キロ程度離せば低周波音を含む風車の騒音は減衰し、健康被害の可能性は低くなるとされている。そして不安がある場合には、住民は環境影響評価手続きの中で意見を述べることができるし、山形県でも公募で決定された事業者に詳細な調査の実施と住民への丁寧な説明を求めていく。
 漁業への影響では、漁業者などの利害関係者に、遊佐部会や全体会議で「今後開催される法定協議会で、漁業影響調査の在り方を協議し、漁業関係者の意見が反映されることになる」旨を説明し、了解を得ている―などと述べていた。

秋田では次々に反対する会結成

 これに対し考える会は見解書で「海外と地理的条件や法制度などが異なるのは当然のことだが、各国でも風力発電による健康被害があることは事実。遠浅であっても、なぜケーブル敷設や維持管理のコストのかかる数十キロ沖合に離しているのか。なぜ英国では段階的に海岸からの距離を大きく取るように変化していったのか」と畳み掛けた。
 そして「それを調べずに『国内でも遊佐町沖が突出して近接しているというものではない』と述べている。そう述べるなら、国内外で同様の海岸からの距離を設定している案件の現状はどうであるのか、それを検討してどのような結論を導き出したのかを述べなければならない」と反論した。
 さらに北海道、東北で計画されている洋上風力発電は全て着床式であるとし、「隣の秋田県でも遊佐町沖と同様の計画が進んでおり、9月に既存風車による健康被害者の会・風車だめーじサポートの会も設立されている」と指摘した。
 秋田県では「由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会」「能代山本洋上風力発電を考える会」「AKITAあきた風力発電に反対する県民の会」、その全県組織の「風車はいらないネットワーク@秋田」が設立され、計画に異を唱えている。
 5月には風力発電問題に関する全国ネットワーク「風力発電を地域から考える全国協議会」が設立され、情報共有がなされている、とも主張した。

県 事業者の責任が前提

質問③=経済効果や雇用が生まれたとしても、健康被害や環境破壊が生じては、事業は公害となる。各地の陸上風車でも「風車病」と呼ばれる健康被害があることは事実。山形県知事は、沿岸域に暮らす県民の安全安心な暮らしと、貴重な環境を守る責任を負う覚悟で国に情報提供したのか。
回答=健康や環境・景観、漁業などへの影響については、海域の先行利用者である漁業者などの利害関係者や、地域住民代表を含めた関係者と、遊佐部会や全体会議の場で丁寧に意見交換を行い、了解を得られたことから、事業化想定海域を国に情報提供した。
 事業の実施に当たっては、事業者が責任を持つという前提がある。しかし山形県としても、遊佐部会などで出された意見の内容を踏まえ、事業者に求める内容を法定協議会の中で関係者としっかりと議論し、環境への負荷をできる限り回避・低減するよう進めていく。
 さらに法定協議会は、事業者が選定されて以降も事業が終了し、撤去が完了するまで事業者が参画した形で継続するので、計画通りに事業が実施されるよう、法定協議会の一員として進ちょくを管理していく―などと述べていた。

責任持つのが筋と反論

 これに対し考える会は見解書で「事業者は、山形県が国に情報提供して設定された事業化想定海域の中で事業を計画しており、事業者説明会で海域の設定や海岸からの距離に関して質問をしても、『答える立場にない』との立場だった。もし稼働後に健康被害や海底地下水脈の破壊、魚類への影響などが生じた場合、責任は事業者だけでなく、区域を指定した国、国に情報提供した山形県にもあるのは当然のこと」と指摘した。
 その上で「公共事業ではないにせよ、山形県エネルギー戦略を進めるために、これだけの大規模事業を推進しようとするのならば、『責任を持って推進します』と回答するのが筋ではないのか」と反論した。
 さらに吉村県知事の姿勢に言及し「県知事は、出羽三山や宮城県側蔵王山での風力発電計画には懸念を表明する一方で、庄内海岸では県民の声に耳を貸さず、自然や景観を大きく改変し、地域住民の健康被害のリスクのある風力発電事業を強引に推し進めている。県民の安全安心な暮らしを守ることが行政の一番の仕事でありながら、誰も責任を負う姿勢の無い当事業に対する疑念は増すばかりだ」と厳しく批判した。

町の容認根拠の説明無く

 一方、時田町長に対する質問項目①~③と、町長からの回答の要旨、同会の見解書の内容は次の通り。
質問①=事業化想定海域は、山形県が国に情報提供した海域がそのまま認められたものだが、町長はどのような根拠と経緯から、事業化想定海域を容認したのか。
回答=遊佐部会で委員の皆さんから、住民生活や自然環境への影響に十分配慮していくことを前提に、事業を進めていただきたいという意見をもらっている。
 山形県からは、これまでも町内での事業説明会の開催や関係者との調整など、丁寧に対応してもらっており、今後も関係者の意見をしっかりと聞きながら取り組んでいくことを明言していただいている。町としてもしっかりと意見を述べていく―などとしていた。
 これに対し考える会は見解書で「この回答では、事業化想定海域を町がどのように判断して容認したのか、という根拠や経緯が説明されていない。遊佐部会は、地域住民なども含めて具体的な議論を行うためのものであり、住民の総意の決定、合意形成を図る場ではない。それにも拘わらず、町の回答では遊佐部会で議論したことが意思決定の根拠として扱われていると思われる」などと反論した。

町民への配慮は無かった

質問②=山形県が欧州や中国ではあり得ない海岸からの距離1~5キロの事業化想定海域を国に情報提供する際に、遊佐町は沿岸に暮らしている住民がいることについて、山形県に対してどのような配慮を求めたのか。
回答=遊佐町ではさまざまな懸念事項に対し、国、山形県、町、事業者の各々が真摯に受け止め、対応していくための体制を構築できるよう強く求めていく。
 また法定協議会はもちろんだが、遊佐町と事業者間で、そうした影響に対応していくための協定を締結するよう求めていきたい―などと述べていた。
 これに対し考える会は見解書で「体制の構築・協定の締結は、あくまで当事業化想定海域で事業を実施する前提での未来形の話であるに過ぎず、どのような配慮を求めたかという質問に答えていない」と批判した。
 そして「各国でも風力発電による健康被害があることは事実。それを検討せず、1~5キロの海岸からの距離でも良しとして容認することは、町民に対する配慮はしなかったととらえざるを得ない」と指摘した。

事業進めない判断を

酒田沿岸域検討部会第2回会合(9月13日)
酒田沿岸域検討部会第2回会合(9月13日)

質問③=経済効果や雇用が生まれたとしても、健康被害や環境破壊が生じては、事業は公害となる。各地の陸上風車でも「風車病」と呼ばれる健康被害があることは事実。遊佐町長は、沿岸域に暮らす県民の安全安心な暮らしと、貴重な環境を守るという責任を負う覚悟で容認したのか。
回答=町民の暮らしや地域社会、遊佐町の自然環境を守りつつ、町を含め事業に関わる全ての関係者が責任を持って取り組んでいくべき事業であると考えている―などと述べていた。
 これに対し考える会は見解書で「遊佐町が責任を持って取り組んでいくべき事業である、という認識を持っていない、と解釈せざるを得ない。町民の安全安心な暮らしを守ることが町政の一番の仕事であるはずであり、町長がよく唱える予防原則に立つならば、例え科学的因果関係が十分に証明できなくても、重大な影響を生じるリスクがある場合、事業を進めないという判断をしなければならないのではないか」と指摘した。

酒田部会の議論に影響も

 考える会は、参入を希望する事業者説明会や県の地区別住民説明会、国の住民説明会などに参加し、超低周波音による健康被害や景観の改変、鳥海山からの海底地下水湧出への影響などの懸念が、事業化想定海域に起因していることから、事業者、山形県、国に繰り返し質問したが、明確な回答を得ることはできなかったため、公開での質問に踏み切った、と説明している。
 酒田市景観審議会委員で同会事務局の梅津勘一氏は「回答書は届いたものの、今回も明確な回答は得られなかった。吉村県知事、時田町長のいずれの回答も、質問にまっすぐ答えず論点をずらし、長々と述べるものであり、全く説得力が無く、到底容認できるものではない」と怒りを隠さない。
 そして「事業化想定海域は、直接の利害関係者が明確な共同漁業権区域と、着床式可能深度が最優先で決定され、景観や自然環境への影響、健康被害のリスクへの配慮は二の次だった。そして不安があれば、環境影響評価の中で対応するので選定事業者に意見を述べよと言う。事業化想定海域を設定した責任には触れず、責任は事業者か関係する皆が負うというように、山形県や遊佐町は責任を負う覚悟が無いことを露呈した」と厳しく批判した。
 酒田市沖に洋上風力発電施設を導入できるかを地元の関係者らで協議する、酒田部会の第2回会合が9月13日に同市であり、次回会合で県が事業化想定海域案を示す方針を明らかにした。
 県エネルギー政策推進課の担当者によると、次回の酒田部会の日時は今のところ決まっていないが、酒田市の環境問題に詳しい複数の関係者は「山形県と遊佐町が考える会に示した回答内容は、酒田部会の今後の議論に影響を与える可能性がある。酒田市沖の事業化想定海域について、県がどのような根拠を示すのかを待ちたい」と口をそろえる。

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