庄内の人手不足[下]
農業 農地集約の次の手必要
漁業 就業者6割減り新規就業は1人
農漁業では後継者不足、担い手不足が一層深刻な課題となっている。農業は規模拡大や担い手への集約で何とか農地を維持してきたが、高齢化は進む一方でさらなる対策が必要となっている。漁業も就業者の高齢化率は6割以上で、新規就業者も少なく、漁業の維持に危機感が高まっている。(本紙取材班)
販売農家が20年で半減
農家はそれぞれが経営者で、企業のような人手不足とは違うものの、後継者の減少と高齢化が進んでいる。何とか持ちこたえている面もあるが、今後、深刻さが増していくとみられている。
2020年の農林業センサスなどによると、鶴岡市の総農家数は4238戸、販売農家は3115戸。20年前の00年と比べると総農家数は39・0%減、販売農家数は49・3%減となった。
同じく農業就業人口は4640人で25・2%減り、60歳以上の高齢者は3571人で全体の77・0%を占めた。特に朝日地区では高齢者が92・2%、温海地区では92・8%となっている。
経営面積が5ヘクタールを超える農家数は増え、担い手への農地の集約が進んでいる。一方で高齢化がさらに進むことで、鶴岡市では離農農地が増えていくと予測している。
鶴岡市農協によると、農家数は減っているが、水稲と園芸の複合経営をしている農家には後継者がいる。高齢でリタイアしても近くの農家や集落内で受託して、何とか農地は荒らさずに営農している例は多い。しかし、その担い手も40歳代、50歳代だったのが、いつの間にか60歳代になり、年齢構成は上がってきた。
担い手に集中してきた農地の作業効率を上げることでさらに集積を進めるため、点々としている農地を交換するなどして面化を図ろうと、今年から農協の支所単位で地図を見ながら状況を把握している。
同農協営農販売部生産振興課では「収益の上がる持続可能な農業を作ることが後継者を生む。園芸品目を含めた複合化や米を中心にした大規模化、水田は地域で法人化して園芸は個人でやるなど、いろいろなやり方があるが、農協は販売に力を入れて農家の収益を上げていく。一方で機械や資材を含めてコスト低減を進め、技術革新やスマート農業にもコストを見ながら取り組む必要がある」と話す。
条件の良い平地では、農地をぎりぎり荒らさずに保っている間に次の手を考えていく。だが大型機械が入れない、水管理が大変などの条件の悪い中山間地では委託が進まず、耕作できない農地も出てきている。
だだちゃ豆の収穫期など農繁期の労働力の確保には、農協が10年ほど前から無料紹介事業「農業サポートセンター」を開設している。22年の紹介実績は、求人362人に対して求職者は186人で、採用は152人と充足率は42・0%だった。コロナ禍の時には求職者が増えて充足率は約60%のときもあった。
資材高騰や制度変更も影響
酒田市の販売農家は1826戸で、20年前の00年に比べ59・2%減。農業就業人口は2789人で同61・8%減った。このうち高齢者は1792人で全体の64・3%を占めた。20年前の高齢化率は48・7%だったが、高齢化率はどんどん進み、15年からの5年間で約10ポイント増えた。
農業経営体1950経営体のうち経営耕地面積が5ヘクタール以上は551経営体と28・3%を占め、05年の12・8%を大きく上回り、規模拡大が進み、担い手への農地集約は進んでいる。
庄内みどり農協によると、高齢化と後継者不足から、管内では集落営農などの大規模化と集落営農組織の法人化を進め、持続可能な農業を目指してきたが、法人化しても後継者がいない状況になってきた。
米価の下落や肥料高騰など、経営を圧迫する要素が大きくなっていることも影響している。
今は後継者不足の中でも何とか回っているが、1人で水田5ヘクタール前後を耕作している中規模クラスの人が高齢化でリタイアすると、受け手の確保が難しく一気に回らなくなる可能性がある。
また、主食用米からの転作を進めるために、飼料用米や大豆、そばなどの作物を植えた際に交付してきた「水田活用の直接支払交付金」が、5年間水を張っていない農地を対象外とする制度に変更されたことから、特に中山間地の農地には作物が作付けられなくなり、荒れていく心配もある。
同農協営農販売部では「農協としても危機感を持っている。法人同士の合併を進めてさらに広域化を図らなければ、受け皿が無くなるのではないか。農協が法人の運営をさらに支援せざるを得ない。今後の担い手を確保して継続できる農業をどう作っていくか、正念場はここ5年ではないか」と話している。
割高な外国人には難色
県の農林水産統計によると、海面漁業就業者数は1992年の1100人から2018年には368人へと、732人66・5%も減っている。さらに18年の漁業就業者数のうち60歳以上は227人と、全体の6割以上を占めた。
県漁協によると、近年の新規就業者は昨年の1人だけ。その前は4、5年前までさかのぼる。人手不足は深刻で、このままでは本県の漁業が維持できなくなる可能性すらある。
県漁協ではインドネシア人の外国人実習生16人を受け入れているが、受け入れは順調に進んでいない。理由は高額な受け入れ費用。外国人実習生は給料、家賃、食費の全てを船主が負担するため、1人当たり年間250万円ほどかかる。
国内の高卒者は年間150万円の最低保障に漁獲量に応じて歩合制の報酬を加えるのに比べ、外国人実習生は割高と捉える船主が多い。実習が終わると母国へ帰るので、船の後継者になってもらうのも難しい。
県漁協の西村盛専務理事は「高齢者が多い船に若い外国人実習生が乗れば、日本の若者もなじみやすくなると思う。最低賃金や休日などの待遇を改善しつつ、採用活動を継続していきたい」と話した。