夏の決算[下]
記録的猛暑が各地に悪影響
農産物減収に熱中症大幅増
今年の7、8月は記録的な猛暑となり、特に8月は高温と少雨で統計開始以来の1位を更新した。月山山頂の神社や鳥海山の山荘では水不足で一部業務を縮小か休止した。農業では野菜や果物の収量が減り、主力の米は品質低下の恐れが出ている。漁業では高海水温の影響かスルメイカが記録的な不漁になっている。酒田と鶴岡の消防では熱中症の救急搬送が大幅に増えた(本紙取材班)
天候・気温 高温と少雨で記録を更新
山形地方気象台の統計によると、山形県は7月22日に梅雨明けしたとみられ、梅雨明け後は特に太平洋高気圧に覆われて、晴れて気温の高い状態が続いた。8月はフェーン現象の影響もあり、記録的な高温・少雨となった。
酒田の8月の平均気温は30・1度と平年を4・6度も上回り、階級区分は「かなり高い」となった。降水量は13・0ミリで平年比6%の同「かなり少ない」。日照時間は322・5時間で平年比162%の同「かなり多い」となった=表参照=。
最高気温が35度を超えた「猛暑日」は18日あり、最低気温が25度を上回った「熱帯夜」も24日を数えた。
1937年の統計開始以来、8月の月降水量の最も少ない値を更新し、通年でも2番目に月降水量が少なかった。また、月平均気温の高い月も更新した。
日最高気温は23日に38・8度となり、日最高気温の高い方から3位を記録。日最低気温は9日に28・0度、24日に27・7度、23日に27・7度で、日最低気温の高い方から3位までを塗り替えた。月間日照時間も最も多い月を更新した。
酒田以外の地域気象観測所でも、浜中、鶴岡、狩川、櫛引、鼠ケ関で8月として降水量が最も少ない値を更新した。月平均気温も、浜中、鶴岡、狩川、鼠ケ関で高い方から1位を更新。日最高気温も飛島と浜中で1位を更新。日最低気温も飛島、浜中、鶴岡、狩川で高い方から1位を更新した。
水不足 月山神社本宮が業務縮小
月山山頂にある月山神社本宮職員の生活用水となる神饌池の水が、積雪の少なさと猛暑の影響で8月下旬に干上がった。そのため職員を通常の10人から3人に減らして、お祓いや御祈祷をやめて御朱印とお守りの受け付けのみにし、閉山は予定していた9月18日から4日に早めた。
吉住登志喜・出羽三山神社参事は「料理やお風呂、洗濯に使う水が無くなり、体調不良で下山した職員もいる。今後は池が干上がることも考えて対策を考えなくてはいけない」と話した。
鳥海山4合目の大平山荘では、近くの沢水を食事や風呂、トイレなどに使っているが、積雪の少なさと猛暑の影響で8月上旬に水不足になった。給水車で対応したものの、日帰り入浴と立ち寄り客のトイレ利用、食堂営業を休止した。8月中は宿泊者のシャワー利用も休止していた。
農水産物
野菜減収、米の品質心配
異例の高温少雨は、農作物にも大きな影響を及ぼしている。鶴岡市農協によると、だだちゃ豆の収量が、7月下旬からの高温続きで計画を下回る見通し。
過去には長雨や豪雨、低温の影響を受けたことはあったが、今年ほどの高温少雨は経験したことが無い。水を掛けることができる農地には水を掛けるなどして対応したが、できない農地もあり、対応が難しかった。収穫適期は例年3~4日間だが、今年は1~2日間と短く、収穫遅れになる例もあった。
ほかの園芸作物は調査中だが、8月に種をまく秋冬物野菜と花は、種をまいても発芽しない発芽不良があり、夏場に株を養成する作物は十分育たないなど、今後の影響も心配される。ミニトマトは受粉するハチが飛ばなかったり、高温障害を受けたりで収量減の見通し。
米は、もみをむいてみないと分からないものの、出穂時期の高温の影響で、胴割れや白未熟が多くなるのではないか、と危惧される。収穫適期が早まっていることから、乾燥調製施設の稼働を早めるとともに、刈り遅れのないように呼び掛けている。
庄内みどり農協によると、園芸品目には軒並み影響が見られる。和梨は小玉傾向で、果実の成熟が早い「果肉先行」となった。刈屋地区でも、史上最も早い8月20日に選果場の稼働を始め、早めの収穫となった。
庄内柿には日焼け果が見られる。日焼け果は、脱渋した後に果肉が柔らかくなるなど品質低下につながるため、摘果して落としている。このため収量の低下が見込まれ、農家の減収につながる可能性がある。
ネギは高温で生育が止まり、太くならないだけでなく、枯れて無くなるなど、例年の半分しか収穫できない事態も想定している。細いと単価も安くなるため打撃は大きい。
パプリカは水不足で果肉が軟化して腐れるなど、出荷できないものもあり、収量は3割減の見通し。ミニトマトも収量は3割減、アスパラも2~3割減の見通しで、8月の野菜類は全体で出荷量が2割落ち、そのまま販売額にも影響してくる。
米は、日中の気温が35度を超え、夜温も25度を超える日が続いたことから、米粒が白く濁る乳白や腹白など品質面での懸念が大きい。
刈り取りをしてみないと分からない部分もあるが、既に刈り取ったエサ米でも乳白の米が多い、という声も聞こえてくる。農地で稲刈り後半のような濃い茶色になり、つぶれてワラのようになっている稲もある。
例年より1週間から10日ほど稲刈りを早めて対応しているが、一等米と三等米では仮払い金額も大きく違うため、品質検査を注視している。
県農業技術環境課の資料によると、登熟期全般で異常高温だった1994年と99年は、乳白粒や白未熟などが多発し、一等米比率は50%をわずかに上回る程度だった。
スルメイカが記録的不漁
本県の小型イカ釣り船による沿岸スルメイカ漁の5~7月の漁獲量は、約1万6500キロで前年同期比29万8500キロ94・8%減となった。記録が残る1990年以降で最も少ない。船凍イカ漁の中型イカ釣り船では、まだ水揚げが無い。
県水産研究所では、産卵海域の東シナ海の水温が上昇して産卵が遅れ、幼体が育つ時期には冬季を迎えて水温が低下して育たず、資源量そのものが減っている可能性や、海流が変わって朝鮮半島やロシア沿岸にいる可能性があると予想する。
槇宗市郎同研究所研究員は「スルメイカ漁は12月ごろまで続くが、見通しは良くない。山形船友漁撈長会に所属するイカ釣り船団から、どの海域に行ってもスルメイカがいないという声を聞いている。漁業試験調査船・最上丸で11日から試験操業をして、見つけ次第漁師たちに情報提供する」と話した。
西日本でよく獲られている高級イカのケンサキイカや、キジハタ、タチウオが、水温が上昇した影響で庄内浜でも獲られるようになってきている。
熱中症 高齢者多く9月も注意
酒田地区広域行政組合消防本部救急課によると、熱中症の搬送件数は7月が24件で前年同月比7件41・2%増、8月が67件で同58件644・4%増と大きく増えた。前々年と比べてみても26件63・4%増だった。7月と8月を合わせると91件で前年同期比65件250・0%増えた。
今年1~8月の熱中症搬送件数97件を年代別に見ると、0~6歳の乳幼児は0人で0%、7~17歳の少年は5人で5・2%、18~64歳の成人は23人で23・7%に対し、65歳以上の高齢者は69人で71・1%と大多数を占めた。
昨年の乳幼児0%、少年13・3%、成人20・0%、高齢者66・7%に比べ、少年の割合が減り、高齢者が増えた。
男女別では男性が58人で59・8%、女性が39人で40・2%だった。
程度別では入院の必要が無い軽症が66人で68・0%と圧倒的に多く、入院1~3週間未満の中等症が29人で29・9%、入院3週間以上の重症が1人で1・0%、死亡が1人で1・0%だった。
今年は8月末までの救急出動件数が4262件で前年同期比531件増と、救急出動自体が増えている。事故の種別で見ると、急病が3130件で同513件増えた。ほかの交通事故や一般負傷などは前年と大きく変わらない。
急病の中には、外で運動や仕事をしていたということではなく、高齢者が突然具合が悪くなるというケースで、結果的に熱中症だったということもあった。
鶴岡市消防本部警防課によると、同本部管内の熱中症の搬送人数は7月が40人で同13人48・1%増だった。8月は72人で同61人554・5%増。7、8月とも前年同月を上回った。
65歳以上の高齢者が、搬送された人の6割以上を占めた。高齢者は2~3日前から体調が悪かったという人が多く、エアコンも使っていなかった。
一方で、買い物などで外出したが暑さで動けなくなったり、屋外で仕事をする工事現場の作業員や、駐車場の誘導係などが熱中症になったりする例も目立った。
同警防課では「熱中症対策は個人での対策が重要になる。まだ気温の高い日がある9月中は注意が必要。のどが乾く前に水分を補給するようにしてほしい」と呼び掛けている。