郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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仮設屋内スケート場
市民の中から疑問の声
酒田市 旧松山中に8億円強で整備

 酒田市体育館(同市入船町)の廃止に伴い3月末で閉館した屋内スケート場「スワンスケートリンク」(同)の代わりに仮設屋内スケート場を、旧松山中学校体育館(同市字総光寺沢)に整備する市の方針を巡り、市民の間に波紋が広がっている。整備費は分かっているだけで8億8900万円に上る。市は、4日に開会した市議会6月定例会の本年度一般会計補正予算案に、仮設屋内スケート場の駐車場を整備する同校校舎の解体工事費2億円超を盛り込んだ。これに対し一部市民の間からは「市の考え方は見通しが甘く、計画性が無いと言われても致し方ない」「財政難の酒田市に必要な事業なのかどうか疑問」といった声が上がっている。(編集主幹・菅原宏之)

優先順位が違うのでは

 スワンスケートリンクは、1994年度から冬季間のみ、市体育館のアリーナ部分に仮設する形で開設してきた。しかし、市体育館が72年3月の完成から50年を超えて老朽化が進み、耐震性の低さや、津波ハザードマップの浸水想定区域内に位置することなどもあって、23年度末で閉館した。
 市スポーツ振興課の樋渡隆課長などによると、市が旧松山中学校体育館にスワンスケートリンクに代わる仮設屋内スケート場を整備する方針を固めたのは、3月末のこと。
 庄内スケート協会(富樫惣一会長)から昨年12月末、スワンスケートリンク事業の継続を求める要望書が市に提出され、公益財団法人市スポーツ協会(齋藤隆会長)からも、同主旨の要望が同年10月に出されていたことが背景にある。
 加えて冬季間の子どもの遊び場の確保と、アイススケート愛好者の健康増進を図ることも、整備を判断する大きな要因になった。
 これに基づき市は、4月15日に開いた市議会4月召集議会に、同校体育館の改修に向けた設計委託費1100万円を盛り込んだ、本年度一般会計補正予算案を上程し、議決されている。
 整備するスケート場は、面積が675平方メートル(横25メートル縦27メートル)と、スワンスケートリンクの1080平方メートル(横27メートル縦40メートル)の3分の2ほどの大きさ。26年2月の開設を目指し、初年度は2~5月、その後は10月~翌年4月の営業を予定する。改修に要する事業費は2億9800万円を見込んでいる。
 市はさらに、4日に開会した市議会6月定例会の本年度一般会計補正予算案に、同校校舎の解体工事費2億3200万円を計上した。2年間をかけて解体し、総解体費は5億8千万円。同工事には、発行額の7割が後年度に交付税措置される過疎債を活用する。
 市は、松山体育館(同市字内町)の老朽化による廃止を見据え、機能を同校体育館に移転する方針を打ち出している。こうした事情もあり、改修工事では重機を使用する際に支障が生じることなどから、同校校舎を解体し、跡地を約80台が収容できる駐車場として整備することにした。
 市は同校体育館を仮設屋内スケート場に選んだ理由に、▼市が所有する遊休施設で延べ床面積が千平方メートルあり、耐震性を有する▼都市計画法上(用途地域)の規制が無く、最短期間でスケート場を再開できる―ことを挙げる。
 樋渡課長は「市内にある民間施設の借り上げや購入なども検討したが、市の所有する遊休施設の活用が検討の前提にあった。旧市内からの距離を懸念する議論もあったが、『あくまで仮設での整備なので、多少の不便は致し方ない』という考え方だった」と説明する。

写真
仮設屋内スケート場の駐車場となる旧松山中校舎

初年度の26年は市が直営

 スワンスケートリンクの23年度の利用者数は1万8196人と、コロナ禍前の19年度の1万7729人を467人2・6%上回った。20年度は1万2338人、21年度は9560人、22年度は1万6688人だったので、コロナ禍による落ち込みから順調な回復を見せていた。23年度は酒田、鶴岡、庄内、三川の2市2町の幼稚園・小学校・高校の40クラス以上が課外授業で利用してもいる。
 しかし、市が直近の資料として公表している、22年度分の公共施設のコスト計算書を見ると、スワンスケートリンクは収入合計から支出合計を差し引いた収支が、1304万3千円の赤字となっている。
 これは、使用料収入の全額が指定管理者の市スポーツ協会の収入になっていた上に、さらに光熱水費を含む指定管理料や修繕費などは市が支払っていたため。市の持ち出し分とほぼ同額が赤字となった。
 市スポーツ協会は、スワンスケートリンクの設置・解体業務を酒田市の(株)菅原工務所に、製氷を含めた管理運営業務を富樫・庄内スケート協会長が代表取締役社長を務める同市の(株)アイスクリエイトにそれぞれ委託していた。23年度は委託料として菅原工務所に1163万8千円、アイスクリエイトに824万9千円を支払った。
 スワンスケートリンクに代わる仮設屋内スケート場を同校体育館に整備した場合、収支はどうなるのか。
 市スポーツ振興課によると、同校体育館に整備する仮設屋内スケート場は、スワンスケートリンクと異なり、夏場に施設を解体しない考え。このため設置・解体業務の委託料は約500万円減り、支払いは500~600万円になるため赤字幅は縮小する、との見通しを示している。
 樋渡課長は「開設初年度の26年は市で直営するが、それ以降を市の直営にするのか、それとも指定管理にするのかは、26年度当初予算の編成作業の中で決めることになる」と話した。

県の施設が酒田以外なら再検討

 市が仮設屋内スケート場を整備しようとする背景には、山形県が新たな屋内スケート施設の整備を検討していることがある。
 市では、県営屋内スケート施設を庄内空港周辺に整備するよう求めた重点11項目などを盛り込んだ2025年度酒田市重要事業要望を、24日に吉村美栄子県知事に提出する。
 同じ主旨の要望は、これまでも庄内開発協議会(会長・矢口明子酒田市長)の重要事業要望を通じて県に提出しており、本年度も2025年度山形県庄内地方重要事業要望に掲載している。
 一方、新たな県営屋内スケート施設の整備の方向性などを県に示す「屋内スケート施設あり方検討会議」(会長=山田浩久・山形大学人文社会科学部教授)は22年7月に初会合を開き、23年3月に報告書をまとめた。
 それによると、想定される設置形態では、スケート場として通年使いつつ、リンクの上に移動式断熱フロアを設置して催事などにも使えるようにする案と、冬季のみ氷を張り、それ以外の季節は催事などに利用する案の二つを示した。
 これを踏まえ県は23年度に民間調査会社に委託して、屋内スケート施設の利用者数や経済波及効果などを試算する基礎調査を実施した。同調査の結果を受け、本年度は有識者や県内市町村の意見を聞きながら、施設の立地場所や機能などを検討する考えを示している。
 樋渡課長は、県営屋内スケート施設の設置場所が本年度内に決まる見通しとの見方を示した上で「県が本市(庄内空港周辺)に県営屋内スケート施設を設置すると判断した場合は、施設が開設するまで旧松山中学校体育館に整備する仮設屋内スケート場を継続していくことになる。しかし県が本市以外に設置すると判断した場合は、その判断が出た時点から(市が整備する)屋内スケート場をどうするのか再検討することになると思う」と話した。

財政難の酒田に必要なのか

 スワンスケートリンクに代わる仮設屋内スケート場を、同校体育館に整備する市の方針に対し、一部市民の間からは批判や問題点を指摘する声が聞かれる。
 仮設屋内スケート場の整備に要する費用は、分かっているだけで設計委託費が1100万円、同校体育館の改修費が2億9800万円、校舎解体費が5億8000万円の計8億8900万円と試算できる。
 行政の事情に詳しい70歳代の建設関連会社の経営者は「酒田市は、県が酒田以外に県営屋内スケート施設を設けると判断すれば、そこから対応策を再検討する考えのようだが、整備に9億円近くかけるのに、県の意向によって市の方向を決めるという発想自体がおかしい。そもそも要望すれば『県は酒田市に県営屋内スケート施設を整備してくれるのではないのか』という希望的観測の下に、仮設での整備を進めようとしているように見える。これでは見通しが甘く、計画性も無いと言われても致し方無いのではないか」と厳しく批判した。
 同じ建設関連会社の60歳代の役員は「アイススケートリンクの利用者と、フィギュアスケートの競技人口は少ないため、投資するのであれば、スポーツ以外の分野か別のスポーツにしたほうが良く、税金の使い方の優先順位が違うのではないのか」と指摘。
 そして「防災対策の充実や産業振興を図るなど、スケートリンクを造るよりも先に、取り組まなければならないことは多い。市は先にアランマーレのホームアリーナ建設を断念したが、工事が進む八幡体育館の建て替えと仮設屋内スケート場の整備が、財政難の酒田市に必要な事業なのかどうかは疑問」と話した。
 子育て団体の40歳代の役員は「仮設屋内スケート場を松山地域に造ることは、小学生などの保護者の間でも話題になっている。スワンスケートリンクは市街地にあってアクセスが良く、混み合って滑れない時は交流ひろばや商店街で『遊びの振り替え』ができることも行きやすさの一つだった。しかし、松山地域に冬場に行くかと考えると、たぶん行かなくなる」と言う。
 さらに「市街地にあるならありがたいが、そこまで費用をかけて松山地域に造るのはどうか。費用をかけるなら、通年で遊べる屋内の遊び場を造ってほしい。酒田市内には交流ひろばはあるが、手狭な感じで秋田県や鶴岡市の屋内施設に行く親子も少なくない」と話した。

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