大雨被害発生1カ月
被害総額いまだつかめず
支援進むも人手不足が不安
7月25日の大雨被害から1カ月が経ち、罹災証明書の発行も始まり、住宅被害の概要が見えてきた。一方、農業被害などは、稲の刈り取り時期が近付く中、まだまだ状況をつかみ切れていない。被害が大きかった八幡地域の大沢地区では、やっと土砂の撤去が始まり、自宅に近づけるようになった住民もいる。これから人手が必要となる中、ボランティア不足や関心が薄れることへの不安も募っている。(本紙取材班)
酒田市 20日現在、避難者54人
八幡地域と西荒瀬地区を中心に甚大な被害が出た酒田市では、大雨の発生から1カ月以上経った今も、指定避難所の西荒瀬、一條、大沢、日向、松嶺、内郷の6コミュニティセンターに、20日午前8時現在で計54人が避難している。北青沢では女性1人が死亡した。
八幡地域で最大1011軒に上った断水は、20日午前8時現在で約98%に当たる995軒で解消した。断水は計252軒で続いていたが、常禅寺地区と麓地区の一部は16日までに解消し、残る大沢地区(大蕨、上青沢、北青沢、下青沢)は31日までに解消する見込みとなっている。断水地域には、市上下水道部が24時間給水を行っている。
住宅被害認定調査は終わり、対象軒数は市街地の一部、西荒瀬地区の一部、八幡、松山、平田3地域のそれぞれ一部の計2268軒。内訳は19日現在、▼全壊(50%以上)12軒▼大規模半壊(40%以上50%未満)20軒▼中規模半壊(30%以上40%未満)38軒▼半壊(20%以上30%未満)179軒▼床上浸水(準半壊)31軒▼床下浸水(一部損壊)459軒▼被害無し1094軒▼その他(不在など)435軒となっている。
罹災証明書の申請件数は19日現在、476件に上り、うち調査済み件数は506件。同一所有者または同一敷地に住家が複数あったことで、調査済み件数が申請件数を上回った。証明書の発行は13日から始まった。申請件数は今後増える見通しで、おおむね10月末ごろまで受け付ける。
災害対応に13億8千万円
市は大雨で住宅の使用が困難になった市民に対し、入居後1年以内(最長2年間)を期限に市営住宅などを無償で提供しているが、第1弾、第2弾の募集を終え、20日午後3時までに計39戸の入居が決まった。第3弾の抽選会(募集戸数は21日現在調整中)を31日に行う。
住宅に対する応急修理費用の支援は、住宅を自らの資力では修理できない世帯に対し、日常生活に欠かせない台所やトイレ、床など最小限の応急修理に要する費用を助成するもの。被災者が依頼した修理業者と市が契約し、市が工事費を修理業者に直接支払う。
上限額は大規模半壊・中規模半壊・半壊の場合が71万7千円、半壊に準ずる程度の損傷を受けた場合が34万8千円。20日から市建築課と市八幡総合支所で受け付けている。
災害ボランティア活動では20日、ボランティア希望者の受け入れや調整を担う「酒田市災害ボランティアセンター」を、市社会福祉協議会(同市新橋2丁目)から八幡タウンセンター(同市飛鳥)に移した。
災害ボランティアによる活動は7月30日から始まり、同日以降19日までに延べ1080人が、八幡地域を中心に作業に携わった。
一方、酒田市議会は9日、24年定例議会8月臨時会を開き、大雨災害対応事業費13億8336万9千円などを盛り込み、総額を594億6886万8千円とする24年度一般会計補正予算を原案通り可決した。
大雨災害対応事業費の主な内容は▼土砂崩れや浸水などで側溝閉塞などの被害を受けた市道の修繕費2億150万円▼被災した住宅の応急修理に要する修繕費1億7350万円▼災害援護資金貸付金1億1千万円▼八幡保育園の床暖房や壁、プール、遊具、園庭フェンスなどの修繕費1億420万円▼賃貸型仮設住宅の借上6940万円▼災害廃棄物の処理6150万円▼公営住宅・賃貸型仮設住宅入居者への生活家電補助2808万円▼住宅被害認定調査用レンタカーや応援職員宿泊施設などの借上1千8万円―などとなっている。
鶴岡市 被害額は約9億円
鶴岡市のまとめによると、8月16日現在の被害額は、総額8億8150万円となっている。農作物の被害額が調査中のため、今後、被害総額は大幅に増える可能性がある。
被災した施設の内訳は▼農業用施設が188件で3億7765万円▼林道関係が97件で2億6570万円▼道路・河川が89件で1億5500万円▼観光施設が1件で3千万円▼公園が4件で375万円。
農作物は1985・8ヘクタールが被災した。大豆が最も広く975・1ヘクタール、次いで枝豆516・0ヘクタール、水稲428・8ヘクタール、そば52・7ヘクタール、その他13・2ヘクタール。
住家は109棟が浸水した。内訳は床上浸水が14棟、床下浸水が95棟。非住家は119棟が浸水した。
道路や農地などの災害復旧のために、市は3億2850万7千円の予算を8月9日付けで専決処分した。9月3日から開く市議会9月定例会にも、別途補正予算を計上する。
遊佐町 住宅は半壊多く
遊佐町総務課危機管理係によると、罹災証明書は21日現在、申請受付件数167件、調査実施済み166件。結果は中規模半壊1件、半壊110件、準半壊5件、一部損壊50件。罹災証明書の交付は161件となっている。
避難者は22日午後4時45分現在、町の宿泊施設「鳥海温泉遊楽里」に同町遊佐と吹浦の住民6世帯23人。県営住宅等への入居申請は無く、町の移住者お試し住宅に1世帯が申し込んでいる。
孤立集落は無いが、一部スクールバスが通れない所があり、住民と相談の上、各家庭で学校に送迎している例もある。
上下水道などのライフラインやインフラの復旧には、予備費1千万円で対応した。さらなる復旧事業や支援策等は今後、補正予算を組んで町議会に諮る。
農道の崩落や水路・水田が土砂で埋まったなどの農業被害は300件以上。1件で3カ所の被害がある例などを細かく数えると600を超える。
大雨被害から1カ月が経つが、毎日のように町に連絡が来ている。水田の被害が最も大きく、すべて土砂で埋まった所もあるが、一部が埋まった所は、土砂を取り除いて刈り取りができるように対応している。まだ被害額はつかんでいない。
同町総務課では「こまごまとした住宅の修繕に、町独自の補助が必要かと考えている。被災者の事情に寄り添って対応していきたい」と話した。
遊佐町災害ボランティアセンターによると、同センターは7月26日に開設し、28日~8月20日の活動状況は延べ78件。21世帯から複数の依頼があった。災害ごみの搬出や家屋・庭からの泥出しの依頼が多かった。
ボランティアに参加した人は町内7割、町外3割ほど。過去に遊佐町社会福祉協議会がバスを出して災害ボランティアに訪れた自治体の社協が、ボランティアバスで駆けつけてくれた。
8月21日以降は町内だけでの対応に切り替えた。マッチングできるものはすべて終え、残っているのは床板を剥がさないとできない作業など。
被害大きい大沢地区
固定電話が使えずチラシ配布
酒田市大沢地区の地域おこし協力隊を経て今年3月末まで同地区集落支援員を務めていた、合同会社COCOSATOの阿部彩人代表に、大雨被害から1カ月経った現状を聞いた。
国道344号は大きく壊れた場所にう回路などができ、7月30日には大沢コミセンまで車が通れるようになった。8月9日までにはさらに奥の青沢まで復旧車両が行けるようになった。ようやく道路の土砂の撤去が進み、住宅周りの土砂の撤去はこれから本格化しそうだ。
8月26日現在、大沢地区のほとんどで電気と水道が復旧してきた。
一方で地区のほぼ全家庭で固定電話を使えない状況。携帯電話はあるが、家の電話番号しか知らない人は、大沢地区の人に連絡が取れず困っていると聞く。
大沢コミセンの電話もつながらず、地区住民への情報発信はチラシを配るなどしている状況。地区内の会社なども固定電話が使えず、仕事に差し障りが出ている。
有線の固定電話や光ファイバーなどは全く復旧していない。国道344号沿いの一番太い光ファイバー線は、早ければ9月末までに復旧するのではないかという情報があるという。
スマートフォンでLINEアプリを使っている若い世代などは、ライングループで情報をやり取りし、自治会でライングループを作る例も出てきている。
道路脇に寄せられた流木など(8月26日)
田植え可能な水田は2割
水田や畑には土砂と流木が折り重なっている。地区の8割の水田が被害を受けた。水路が壊れて全く水が来ない田もある。刈り取りができる田は何とか刈り取るが、来年以降に田植えができるのは2割程度しかない。もう農家をやめると言っている人もいた。
阿部さんのホップも、3年ほどかけてやっと収穫が見込めたものや、今年植えた1年目のものなど50本すべてが、流されたか泥に埋まっているかで何も見えなくなった。ジュンサイも収穫時期だが、沼までの道路が山崩れで通れないため収穫できなくなった。
地区内の5本の橋が崩落などで通れない。通れる橋まで細い道路を通ってう回するしかないが、冬場は除雪をしていない道路のため、冬季間への不安も募っている。阿部さんも自宅近くの橋が崩落したため、遠回りをして国道344号に出るしかない状況が続いている。
電気と水が復旧すれば、そのまま自宅に住んでいられる人が多い一方で、被害が大きくて家に住めず、既に観音寺地区などでアパートを借りたという人もいる。
青沢は22軒で自治会を作っているが、被害がひどくてもう住めない家も多い。小屋渕はもう住めないと判断している人も多く、青沢で確実に残れるのは4軒のみ。自治会をどうするかも今後考えていかなければならないと言う。
寸断された橋と崩れた山(8月26日)
人手がいっそう必要に
大雨から1カ月が経ち、土砂の撤去が進んで、ようやく家にたどりつける状態になった今からが、ボランティアの人手が必要になってくる。
まだまだボランティアが足りず、援助の依頼は120件くらいたまっている。家に入り込んだ土砂の排出などに、1件当たり10人を要すると仮定すると、1200人が必要になる。しかし、盆休みが終わり、ボランティアの数は減っている。今からこそ人手が必要、という情報発信をしてボランティアに来てもらいたい。
大沢地区は、人口が減る中でも一つにまとまって頑張っていこう、と大沢コミセン前の山の斜面に「大」の字をライトアップするイベントや、ジュンサイ取りの復活などに取り組んできた。この大雨被害に遭っても何とか前を向いて一歩一歩進むしかない、協力してやっていこう、という声が上がっている。
阿部さんは「若い世代で地区から離れてしまった人も心配して、何か協力したいと言ってくれる。外から関わってくれる人を増やして、若い力も結集して皆で復興していきたい。かなりの長期戦になる。どうやってみんなで立ち上がっていけるか考えていきたい。大沢地区と酒田市街地とは、車で30分しか離れていない。同じ酒田市内のこととして、大沢の状況をもっと知ってほしい」と話した。