郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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酒田市
県営スケート場は村山前提で推進
矢口市長の政策判断に批判の声

 酒田市の矢口明子市長は4日の定例記者会見の席上、山形県が整備を検討している県営屋内スケート施設の立地場所に関し、県が8月下旬の県屋内スケート施設整備検討会議(会長=山田浩久・山形大学人文社会科学部教授、委員8人)で、村山地域の都市部を前提とする方向性を示したことを問われ、「大変残念。市の仮設屋内スケート場については、これから検討していきたい」と述べた。市は6月、県に県営屋内スケート施設の同市への整備を要望。同施設が整備されるまで旧松山中学校体育館(同市字総光寺沢)に仮設屋内スケート場を整備して使う方針も示していたが、施策の前提が崩れた形。市民からは「矢口市長の政策判断は、明らかな誤りだった」「大雨災害からの復旧・復興を最優先するべき」などと批判の声が上がっている。(編集主幹・菅原宏之)

仮設スケート場は今後検討

 定例記者会見で本紙は、8月22日の県屋内スケート施設整備検討会議・第2回会合の際、県が立地場所に関して「村山地域の都市部を前提に、自動車でしか行けないところではなく、公共交通機関を利用してアクセスできる場所が望ましい」との方向性を示したことから、市に今後の進め方をただした。
 矢口市長は「大変残念だと受け止めている。市では7月25日の豪雨による災害復旧に全力を挙げて取り組んでおり、本市の(整備する)仮設屋内スケート場については、これから検討していきたい」と語った。
 なぜ県が酒田市に県営屋内スケート施設を整備する可能性があると考えたのか、と問うと▼市には、市体育館の廃止に伴い3月末で閉館した県内唯一の屋内スケート場「スワンスケートリンク」があり、運営しているスケート関係者がいる点は、山形市には無い利点となる▼県営スポーツ施設が庄内地区に無いことは、スケート関係者に限らず、全庄内住民の声になっている―と考えた、と説明した。
 そして「市なりに情報収集もした上で、県に『県営屋内スケート施設の整備を考えているのであれば、庄内に造っていただきたい』と要望すれば、酒田市への整備の可能性もあるのではないかと判断し、一旦そういう決断をした」と述べた。
 これを受け(県の方向性を見る限り)市長の判断は間違い、ミスだったということにはならないのか、と矢口市長の認識をただした。
 これに対し矢口市長は「(県の方向性は)中間報告で、県として決めたわけではないと思うので、まだそこまでは言えないのではないのか」との考えを示した。
 県営屋内スケート施設の立地場所については、8月23日の定例記者会見で吉村美栄子県知事が「酒田市から要望を受けた時も、県屋内スケート施設整備検討会議委員の意見を踏まえながら進めていくと答えている。いろいろな意見があってこういう(村山地域の都市部を前提とする)方向になりそうですと申し上げていきたい」と述べた。
 また山形市の佐藤孝弘市長は8月30日の定例記者会見で、老朽化が進む山形市総合スポーツセンター屋外スケート場の再整備に向け「市が抱える課題を県とすり合わせ、話し合っていきたい」と述べ、県と密接に連携する考えを示した。

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会見する矢口市長(9月4日)

設計委託費は執行済み

 仮設屋内スケート場を旧松山中学校体育館に整備する事業費は、同校体育館の改修に向けた設計委託費が1100万円(議決済み)、駐車場を整備するための校舎解体費が2カ年で5億8千万円(うち2億3200万円は議決済み)、同体育館の改修費が2億9800万円の計8億8900万円と試算できる。このうち校舎解体工事には、発行額の7割が後年度に交付税措置される過疎債を活用する。
 これを踏まえ定例記者会見で本紙は、事業費のうち本年度に予算を計上している設計委託費と校舎解体費の執行状況もただした。
 前田茂男市総務部長は「設計委託業務を請け負う地元業者とは5月24日に契約を終えており、ある程度作業は進んでいる。今回の大雨災害で地元業者が災害対応を優先していることから、校舎解体業務は入札日を8月から3カ月延期している」と説明した。
 酒田市は2025年度市重要事業要望全45項目(重点11項目)をまとめ、6月24日に「県営屋内スケート施設の酒田市への整備」を重点11項目の1番目に挙げた要望書を、吉村県知事に直接手渡した。
 その際、市は14年3月に閉校した旧松山中学校体育館を改修し、県営屋内スケート施設が(同市の庄内空港周辺に)整備されるまで、暫定的に仮設屋内スケート場として活用する方針などを記した資料も提出した。
 これを受け吉村県知事からは「立地場所は、施設の性格や事業性に大きく影響することから、極めて重要な要素。県屋内スケート施設整備検討会議の中でさまざまな角度から幅広く意見を頂き、立地条件についても丁寧に検討を重ねていきたい」との考えが示された。

八幡体育館の改築は推進

 同市では、市八幡体育館(同市観音寺)を市国体記念体育館とともに主要体育館として整備する方針で、耐震改修工事が必要とされる八幡体育館を23~26年度に建て替える。
 これに基づき市は、24年度一般会計当初予算に、八幡体育館改築事業費5億1714万円を盛り込んだ。24年度は現体育館の解体工事を行い、25年度まで2カ年の予定で行う改築工事に着手する。26年度は外構工事と修道館の解体工事を行うことが予定されている。
 これを踏まえ定例記者会見で本紙は、八幡体育館の建て替えについても、今後の考え方を聞いた。
 矢口市長は「現在のところ議論はしていない。これまでと変わりなく、進めていく」との考えを示した。
 前田市総務部長は、24年度予算の執行状況について「入札を経て解体を請け負う業者とは6月18日に契約し、8月に着工予定だった。しかし大雨災害で業者の対応が難しいことから、3カ月程度作業を中断している状況」と説明した。

箱物整備は凍結するべき

 市の政策判断や今後の方針に対し、一部市民の間からは批判や問題点を指摘する声が上がっている。
 県政に詳しい70歳代のある政党関係者は「大雨災害による甚大な被害状況を考慮すれば、復旧・復興が最優先の課題。箱物を造っている場合ではない。仮設屋内スケート場の整備と、市八幡体育館の建て替えは、どちらも今すぐ凍結するべき」と厳しく批判する。
 行政の事情に通じた70歳代の建設関連会社の経営者は「矢口市長の政策判断は、明らかな誤り。県が立地場所の方向性を示してから、仮設屋内スケート場の関連予算を計上するべきだった。施策の前提が崩れた以上、市長の責任は問われる。体育施設は多くの市民が利用できるものを整備した方が良く、特定の利用者しか見込めない仮設屋内スケート場と市八幡体育館は、造る必要がない」と指摘した。
 市民からはほかに―
▼矢口市長は市長選当選後に『人口減少を少しでも穏やかにする施策に力を入れていく』と述べていたが、県営屋内スケート施設の誘致と仮設屋内スケート場の整備は、人口減少対策としても中途半端。税金を使う優先順位が違う。
▼大雨災害を踏まえた防災対策の充実や産業振興の推進など、市が取り組まなければならない課題は多い。仮設屋内スケート場の整備と市八幡体育館の建て替えが、財政難の酒田市に必要な事業なのかどうか疑問だ。
▼単に『県営スケート施設を酒田市に整備してほしい』と要望しただけでは、吉村県知事を動かすことはできない。地元選出の県議会議員は、矢口市長と吉村県知事との間に入り、酒田市が有利になるよう、一定の役割を果たしてほしい。
▼旧市内から八幡体育館に通うとなると、市民の利用率は低下する。投資するのであれば、人口の多い旧市内にするべき―といった声が聞かれた。

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