津波被害と対策シンポ
洋上風力発電は日本仕様の設計に
津波工学と地震工学の専門家が対談
遊佐町沖と酒田市沖で洋上風力発電の事業化に向けた国の手続きが進む中、日本海東縁部で起こる地震や津波について学ぶ「日本海沿岸地域の津波被害と対策シンポジウム」が14日、酒田市総合文化センターで開かれ、洋上風力発電施設の建設では、損傷はするが倒壊はしない設計で対応する部分と、危機管理・マネジメントで対応する部分の二つが必要との見解が示された。また、日本海東縁部で起こる津波はロシアや朝鮮半島との間を継続して行き来することが報告され、避難行動では知識として学んだことを、避難訓練の際に体で確認することの重要性を指摘する意見もあった。(編集主幹・菅原宏之)
洋上風車は壊れると凶器
シンポジウムは、行き過ぎた国土開発やエネルギー開発などを踏まえ、自然環境・景観の維持や健康の確保、生物多様性・自然資本の保全を目的に7月1日に設立した「一般社団法人日本国土・環境保全協会」(代表理事=鈴木猛康・山梨大学名誉教授)が、同協会の設立を記念して主催した。
酒田、鶴岡、遊佐の庄内2市1町の住民を中心に、宮城県加美町や秋田県由利本荘市の住民など、県内外から約250人が参加した。
津波研究の第一人者で「日本海沿岸地区の津波避難計画」の作成を指導している今村文彦・東北大学災害科学国際研究所教授が、基調講演「日本海側での地震と津波―能登半島地震での経験・教訓も含めて―」を、その後、今村教授と地震工学が専門で耐震設計に詳しい鈴木代表理事による対談「庄内地方は津波にいかに対処すべきか」を行った。
このうち今村教授と鈴木代表理事による対談では、遊佐町沖と酒田市沖で事業化に向け発電事業者の公募・意見交換が進んでいる洋上風力発電施設に対する地震や津波の影響が取り上げられた。
鈴木代表理事は「能登半島地震でも東日本大震災でも津波によって大型船が陸に打ち上げられ、引き波の際にビルの上にそのまま乗ってしまうということがあった。洋上風力発電施設も津波を受けて壊れると凶器になってしまう。こうしたことが起こらないような対策は講じておかなければならない」と問題を提起した。
そして、1978年の宮城県沖地震を教訓に81年に施行された新耐震設計法に言及し「同法は橋梁や超高層ビルなどの建物が『壊れるけれども倒壊しない、人を殺さない設計』になっている。洋上風力発電施設もこれと同じような設計にしないとどうなるか分からない」と危機感を訴えた。
さらに一般社団法人沿岸技術研究センターの清宮理参与(早稲田大学名誉教授)に触れ、「同参与は、風車は欧州で開発されるので、設計のためのプログラムまで欧州製になっている。日本は地震国であり、いろいろな工夫をして自国歴の地震を解析するが、欧州型のプログラムは組み込めないので、どうすればいいか検討している」と説明した。
その上で「水深10~30メートルの洋上に大規模な大型の構造物を造る場合、津波の専門家として何を求めるのかを聞きたい」と、今村教授に見解を求めた。
意見を交わす今村教授(右)と鈴木代表理事
津波は浅いと強くなる
これに対し今村教授は―
①洋上風力発電施設のような円柱の建物・構造物は、一般的に津波の力を受けにくいが、規模が大きくなると外力を受けやすいため、強度があり、壊れず、漂流物にならないことがとても重要。津波は水深が深いと波高は小さく、力も相対的に弱いが、浅いと波高は大きく、流れが強くなるので、水深に合わせて設計をしてもらわなければいけない。
②円柱の建物・構造物は、外力に対して大丈夫であっても、陸側から漂流物が引き波で戻ってきて衝突すると衝撃を受ける。これは次段階の安全レベルとして、考えなければならない。
③円柱の建物・構造物自体の強度は設計で対応したとしても、海底で洗堀(潮の流れによって、海底の土砂が削られる現象。洗堀が進むと、本来埋設されるはずの箇所が露出して設備の安定性が失われたり、損傷したりする恐れがある)が起こると聞く。そこは確かめておかないと影響が大きい―の3点を挙げた。
そして「この3点に関して、技術的な整理をしてもらい、それを受けた後でリスクの評価をしないと、住民や行政は安心できない。行政には新しい施設ができた時に、何に注意しなければいけないのかについて、事業者と意思疎通を図ってほしい。住民には『どんな構造物にもリスクがある』ことを理解し、どういうところに危険性があり、どこに行けば大丈夫なのかについて、行政や我々専門家と会話をしてもらい、確認をしてほしい」と述べた。
関連して鈴木代表理事は、タワー(支柱)の基礎は海底の岩盤に固定されなければならないが、地震力によって周辺の土と砂が弱くなってしまい、タワーの基礎を全く補助してくれなくなる現象がある、と指摘した。
その上で「この研究は1964年の新潟地震を受けて始まり、日本の研究者が力を入れて究明しているもの。このモデルを作って検証し、安全を確認して進めてほしい。(我々専門家は)地震力、津波、風といった外力が一緒に働くことを前提に設計をするが、想定以上の外力が一緒に働くことも考えなければいけないと思っている」と語った。
倒壊しない風車の議論を
これを受け今村教授は「それを考えることは必要。ただ我々が社会インフラを造る場合は、設計で抑える部分と、それを超えた場合に危機管理・マネジメントで対応する部分と二つがあると思う。洋上風力発電施設では、そこを整理してもらわないといけない。設計で事前にどこまで評価し、信頼性を高めるのか。もしそれを超えた場合は、どのような対応がマネジメントとしてできるのかということを、ぜひ関係者と議論してほしい」と提言した。
鈴木代表理事は「住民も行政も経済的なメリットがあるので、洋上風力発電の事業化には期待をしているが、安全面については、皆で監視をしてほしいと思っている。そうすると事実が明らかになり、事業の推進を止める場合があるかもしれないし、事業の推進を遅らせることもあるかもしれない」と指摘した。
その上で「日本の耐震設計の技術は最高だが、洋上を含む風力発電施設に関しては、超高層ビルと同じような設計になっているのかというと疑問符が付く。特に(能登半島地震で見られた)ブレード(風車の羽根)がボキッと折れてしまうような現象は、新耐震設計法では許さない」と述べた。
そして「洋上風力発電施設にも『損傷は受けるが倒壊はさせない』という新耐震設計法による性能を求めるのかどうかを、関係者で話し合ってほしい。今後、導入に向けた動きは進んでいくだろうが、ぜひ今村教授のような人を検討会に加えてもらいたい」と訴えた。
海底活断層の連動性が重要
日本海沿岸には日本海東縁部地震帯と呼ばれる地震の巣があり、能登半島地震を発生させた沿岸地震断層を含め、新潟県から山形県、秋田県、青森県、北海道沖では、数多く海底活断層が確認されている。
文部科学省の地震調査研究推進本部では、地震の発生可能性に関する長期評価を進めているが、新潟県~北海道の海底活断層については、これから調査が行われることになっている。
これを踏まえ鈴木代表理事は、日本海東縁部で2014年に行われた海底活断層の調査と、これから行われる調査との違いについて、今村教授に説明を求めた。
今村教授は「前回調査のきっかけは東日本大震災。国は文部科学省を中心に、宮城県沖で起きる地震のマグニチュードを7・5または8・0と想定していたが、実際に起きたのは9・0の巨大地震だった。当時は過去400年程度の履歴を調べていたが、さらに年代をさかのぼり、それを全国に展開していかなければならないという方針の中で、日本海東縁部の調査も行われた」と解説した。
その上で「前回はまず海の底に残っている地震の爪痕の断層を測定した。今後はいつ地震が起きて、現在どのくらい発生の可能性があるのかを明らかにすることが一つ。もう一つは、それぞれの活断層がどこまで一緒に動くのかという連動性の問題。これは、今後の調査の重要な課題として、できるだけ答えを出していく」と語った。
鈴木代表理事はさらに、この調査に基づいて行われる海底活断層地震に関する長期評価の精度は、どの程度向上するのかを尋ねた。
今村教授は「今回の調査が進んだとしても、精度の向上はあまり期待できないのではないかと思う。とにかく低頻度であり、100年や40年に1度起きているものとは全く違う。ただ連動性の面では、さまざまな知見が得られるのではないのか」との考えを示した。
津波シミュレーションの精度がどの程度向上するのか、との問には「地震による海底の上下動が正確に求められれば、津波が伝わる様子や陸上への影響は、信頼性が高まる。この初期条件が分からないと、その後の精度には疑問符が付いてしまう。リアルタイムで津波の情報を得ながら、初期条件を修正していくことができれば、少なくとも津波の第1波や、どこまで浸水するのかという状況を、かなり正確に皆さんに提供できるのではないかと考えている」と述べた。
避難は体で確認しよう
鈴木代表理事の津波ハザードマップ通りに津波は発生するのか、との質問に今村教授は「(津波ハザードマップは)信頼性が高いものではあるが、その通りに津波が必ず発生するのかと言われると、必ずではないという答えになる。我々は『目安』という言葉を使うが、あくまで参考、目安にしてもらい、いろいろなケースを頭に描いてもらうのが最も望ましい」との考えを強調した。
津波に対する避難行動で最も大切な点については「地震、津波警報と最初に接するので、そこで避難行動を取ってもらえば一番いいが、津波ハザードマップや避難訓練に基づいて対応してほしい」と語った。
そして学校で津波ハザードマップの勉強会や学習会を開き、学んでもらっても、地震の際に避難行動が取れないことを紹介した上で「その理由の一つに、人間の脳の仕組みがあるのではないのかと言われている。脳の中には認知するマップがあり、生活をする中で地図情報が作られているが、正確な地図とは違っているので、間違いもある。このため理解していたつもりでも、実際に経験する中での認知とは違っていたりするので、学んだことを体で確認すること、体で覚えることはとても重要になってくる」と指摘した。
鈴木代表理事は「東日本大震災では、津波ハザードマップで色が塗ってある津波浸水エリアの外側で亡くなった人も見受けられた。こうしたことも起こっているので、例え津波ハザードマップで白くなっていたとしても、安全だと思わないでほしい」と話した。
訓練から復興まで再点検
対談では、庄内・最上を中心に甚大な被害が出た7月の大雨災害と津波被害の関係にも議論が及んだ。
鈴木代表理事は、今村教授に大雨災害と津波災害の共通点と相違点をただした。
今村教授は「共通点は両方とも〝水〟だということ。水は低い土地に移動していくので、そこが危険になる。もう一つ〝流れ〟という特性もある。流れることによって破壊し漂流物を生じさせたりするので、そこは洪水も津波も同じ。違うのはソース(出どころ)。津波は海側から押し寄せるが、豪雨は基本的には陸側で、雨の降り方によってどこから来るかが違う。ただ最終的な影響はかなり近い範囲に出てくる」と解説した。
鈴木代表理事は「土砂も共通点。水流に加え、砂や石の威力もかなり大きい」と指摘した上で、今回の大雨災害の教訓をどう生かすべきかについて、今村教授に見解を求めた。
今村教授は「事前の避難訓練から災害発生時の情報入手、避難行動のタイミング、何が課題だったのかなどを、時系列的に確認することが一番の教訓になる。雨の降り方が分からない状況の中、何に困ったのか、最終的に被害を受けた場所とその後の対応、復旧・復興までを含め、ぜひ確認をしてほしい」と提言した。
そして「個人や家族で振り返ることに加え、それを地域の人たちと共有してもらうと、それまで知らなかったことを発見し、今後の対応のヒントになることもある。そうして共有したことは、それぞれを記録に残してもらいたい」と述べた。
鈴木代表理事は「住民の皆さんも行政も、今回の大雨災害と同じような状況は、津波でも起こり得るので、自分の目で確かめる機会にしてほしい。(大雨災害は)庄内では起こらないと思っていたかもしれないが、同様のことは今後も発生すると考えるべき」と話した。
今村文彦教授の基調講演
津波はロシア、朝鮮半島を往来
日本海東縁部の地震を解説
海底活断層について語る今村教授