庄内の松林
松くい虫被害、今年も拡大か
伐採追い付かず立ち枯れたまま
林野庁のデータによると、2023年度の松くい虫被害量(被害材積)は県全体で過去最大の5万9千立方メートルと、前年比136%増となった。その9割以上は庄内の被害となっている。あまりに被害量が多いため伐採の対応が追い付かず、国道112号沿いや砂丘地の畑の近くには、伐採の印の赤いビニールテープを巻いた松が点在したまま。県庄内総合支庁森林整備課では、今年度はまだ未調査だが「被害は拡大していると予測している」と話す。限られた予算と人手不足の中、庄内の先人の遺産でもある松林をどう保全していくのか、大きな課題となっている。(編集委員・戸屋桂、編集部課長・土田哲史)
23年は前年比2倍の過去最大
林野庁のデータでは、松くい虫の被害量5万9千立方メートルのうち、民有林は4万900立方メートル、国有林は1万8100立方メートルで、それぞれ前年比138%増、131%増と2倍以上に増えた。
今年2月に開かれた「2023年度第2回庄内海岸林松くい虫被害対策強化プロジェクト会議」の資料によると=上表参照=、24年1月末現在の暫定値だが、松くい虫被害の発生状況は庄内で12万9035本、5万5644立方メートルとなり、前年の6万1344本、2万2976立方メートルに対し、それぞれ6万7691本110・3%増、3万2668立方メートル142・2%増と、いずれも2倍以上に増えた。
酒田市の被害本数・量が最も多く、同市と遊佐町に比べれば少ないものの、鶴岡市でも被害は前年の2倍以上に増えた。
県庄内総合支庁森林整備課によると、猛暑で8月は記録的に降水量が少なく、松の樹勢が弱っていたことが被害を拡大した。
茶色に立ち枯れた松(酒田市)
守る松を絞り広葉樹も植樹
松くい虫の被害の発生メカニズムは、マツノマダラカミキリが、病原虫のマツノザイセンチュウを体内に入れて6月上旬ごろに羽化し、松の若枝の皮を食べた時に、病原虫を松の樹体に入れることで広がる。
防除は、羽化直後のマツノマダラカミキリが松を食べるのを防ぐために、地上やヘリコプターから薬剤を散布したり、マツノマダラカミキリが羽化する前に、被害木を伐採して粉砕したりすることが必要となる。
マツノマダラカミキリの生態サイクルに合わせた対策が必要だが、被害木の9割を伐採しなければ被害の拡大は抑えられない、とされている。
国は国有林を、県は民有林のうち飛砂防止機能を持つ保安林を中心に、市町は保安林以外の民有林を担当するなど、それぞれ連携しながら対策を打っているが、取り組みには進度の違いも出る。
同森林整備課では、22年度までは被害木を全量伐採する方針できたが、23年度は被害が広がりすぎて伐採が追い付かない状況にある、と明かす。森林組合や民間の林業事業者に伐採を委託し、庄内だけでなく最上などからも業者は入ってきているが、人手は不足気味。
23年度の対策費は、当初予算で県、市町を合わせて約5億円だが、予算が限られている点も対策が追い付かない要因となっている。国からの予算も減らされる傾向にある。
そのため2月の同プロジェクト会議では、全量伐採を目指すのではなく、必ず守らなければならない松を決めて、予算と労力をかけることに決めた。
海から250メートルの範囲の松は、必ず守ることがすでに決まっているが、250メートルより陸側についてはどこを守るべき松とするのか、ボランティアで松の保全に取り組んできた経緯や文化、地域の人の考えなどを聞いて、今年度に決める予定。
一方、県ではマツノザイセンチュウに耐性のある抵抗性クロマツを生産し、2020年度から植え始めている。23年度は苗木6500本を生産した。
さらに、広葉樹がすでに育っている場所もあることから、松以外の樹種を植えても良いのではないか、という話も出ている。被害の調査に時間がかかることから、これまでの調査も続けながら、今年度は試験的にドローンでの調査も行う。
海岸林を多種多様な森へ
菊池俊一山形大准教授が保全策提案
海岸林の保全に詳しい、山形大学農学部の菊池俊一准教授は、庄内海岸林の現状について「昨年夏の少雨・高温を背景にクロマツ林の松枯れ病が進んだため、松枯れ病の被害量は過去最大とみられている。クロマツは庄内海岸林の根幹となる樹種であり、松枯れ病によるクロマツ林の荒廃は、庄内の重要なグリーンインフラ(地域の魅力向上や快適な居住環境、防災などにつながる自然環境)である海岸林全体の危機と言える」と話す。
そして「幅の広い海岸林の内陸側では、クロマツ造林地に潜在植生である広葉樹が自然侵入し、育っている林分(林相が一様な樹木の集団と林地)がある。一方で、飛砂飛塩の影響が大きい海側の厳しい環境では、確実に造林できる技術はクロマツに限られている」と説明する。
これらを踏まえた対策として「松枯れ病の発生状況や自然遷移の進行状況、飛砂飛塩の多寡、クロマツ林造成の歴史と経緯などを考慮し▼松枯れ病に抵抗力のある苗木を植えつつ、クロマツ林を保全していく地域▼侵入した広葉樹を生かし育てていく地域―などのゾーニングが重要。それぞれの地域特性を生かしつつ、クロマツのみに頼る姿から多種多様な森へと移行させていくことが必要になっている」と語った。