郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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酒田元気応援花火
開催趣旨や方法に賛否の声
市 酒田の花火実行委に公費拠出

 8月3日に開催予定だった「酒田の花火」を中止した酒田の花火実行委員会(実行委員長・矢口明子酒田市長)が12日、7月の大雨による被災者を勇気づけ、支援者への感謝の気持ちを込めた「酒田元気応援花火」を酒田市内で打ち上げたことに、賛否の声が上がっている。花火の打ち上げには、市が実行委員会に負担金として拠出した企業版ふるさと納税寄付金が使われ、打ち上げ会場も明らかにしなかった。市民の間からは「復旧・復興が道半ばの時期に、花火を打ち上げる理由が理解できない」「打ち上げ会場を非公開にするなど、開催方法には違和感を覚える」などといった声が聞かれる。(編集主幹・菅原宏之)

予算は約150万円

 酒田元気応援花火は、7月25日からの大雨によって被災した人たちを勇気づけ、寄付金や義援金、支援物資、災害ボランティア活動などを通じて支援をしてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えようと、酒田の花火実行委員会が主催した。
 当日は、午後6時から同6時半までの30分間に約3千発の花火を打ち上げたが、酒田北港緑地展望台周辺だった打ち上げ会場を非公開とし、同展望台付近に観覧会場は設けなかった。
 実行委員会事務局の松永隆・酒田市交流観光課長や複数の関係者の話を総合すると、今回の酒田元気応援花火は、開催趣旨に賛同してもらった企業の支援によって実施した。
 花火の打ち上げは、実行委員会の構成メンバーで、中止になった8月3日の「酒田の花火」でも約1万発を打ち上げる契約を結んでいた、同市の(有)安藤煙火店が担った。
 今回の酒田元気応援花火は、酒田の花火中止後の8月中~下旬に実行委員会の中で、一部メンバーから大雨による被災者を勇気づけ、支援者たちへの感謝を伝える花火の打ち上げができないか、という意見が出されたことがきっかけとなった。
 これを受け実行委員会が安藤煙火店に相談したところ、同店から「追加の経費負担無しで打ち上げてもいい」との申し出があった。
 花火の打ち上げ総数が3千発程度になったのは同社から「投入できる人手や体制を考えると、(酒田の花火で打ち上げる予定だった約1万発のうち)3千発程度であれば対応できる」との意向が示されたことによる。
 こうした経過を経て、実行委員会は9月25日に、花火の打ち上げに充てる開催予算約150万円を承認し、酒田元気応援花火を実施することが正式に決まった。

大半は警備費に充てた

 実行委員会では、必要経費を賄うために約150万円を予算化したが、その内訳は▼企業2社から「酒田の花火に使ってほしい」と申し出のあった企業版ふるさと納税寄付金が100万円▼実行委員会の構成メンバーを含め、市内企業から新たに募った企業協賛金が約50万円―となっている。打ち上げ会場付近の道路を封鎖して会場周辺を立ち入り禁止にしたことから、ほとんどは警備費に充てた。
 これを踏まえ、本紙では松永課長がこれまでの取材で「今回の花火の打ち上げに公費は使っていない」と説明していたことから、事実関係を改めてただした。
 本紙が「企業版ふるさと納税寄付金は、酒田市が寄付先となっている。市に入った金銭を拠出した場合、公費を使ったことにならないのか」と問うと、松永課長は「そこは考え方による。実行委員会では、2社から企業版ふるさと納税寄付金の100万円を酒田元気応援花火に使うことで了承を得ており、賛同企業の支援によって実施したものと捉えている」と言い張った。
 これについて小林正巳・市財政課長補佐は取材に「企業版ふるさと納税寄付金は公金。酒田元気応援花火では、市が実行委員会に対し負担金として(企業版ふるさと納税寄付金を)拠出している」と解説した。
 実行委員会ではこれまで、予算額や内訳など経費の詳細を公にしてこなかったが、今回の花火の打ち上げには、公費が使われていたことが明らかになった。
 企業版ふるさと納税寄付金の100万円は、中止になった「酒田の花火」の収支予算には組み込まれておらず、収支予算編成後に寄付の申し出があったもの。実行委員会では、酒田の花火に向けイベント中止保険に加入していたが、企業版ふるさと納税寄付金の100万円は、同保険の契約には含まれていなかった。
 イベント中止保険は、「会場設営費などの開催準備経費に、チケットの払い戻し手数料などの中止に伴うかかり増し費用を加えた金額」に、「企業協賛金」と「酒田市負担金」を充当してもなお不足する金額が、保険金として給付される。

復興宣言後でも遅くない

 酒田元気応援花火に対し、一部市民の間からは「慰霊への思いや被災者への励ましのメッセージが感じられた」「沈みがちだった酒田に華やかな雰囲気が戻り、元気をもらった」と評価する声がある一方で、開催趣旨や開催方法などを疑問視する声が数多く聞かれる。
 背景には、矢口市長が酒田の花火の中止を発表した7月29日の臨時記者会見で「未曽有の大雨災害への対応に全力を尽くすべきと判断した。来年度に改めて盛大な花火大会を開催できるよう、検討を進めていく」と述べていたことがある。
 県内の行政や政治に詳しい70歳代の企業経営者は「市長は『来年度に盛大な花火大会を開催したい』考えを示していたが、被災して不自由な生活を強いられている人も多くいる今、花火を打ち上げる必要があったのかどうかは疑問に感じる。支援をしてくれた人たちに感謝を伝えるのは、これから先『復興宣言』をしてからでも遅くはない。復旧・復興が道半ばのこの時期に、花火を打ち上げた理由が理解できない」と批判した。
 長年幹部を務めていた元市職員の一人は、国が7月の大雨災害を激甚災害に指定し、県も過去最大の一般会計補正予算697億2千万円(うち大雨関連645億3千万円)を計上して被災地の復旧・復興に対応していることに言及した。
 そして実行委員会が運営経費に企業版ふるさと納税寄付金の100万円を充てていたことに触れ「国や県の対応を考慮すれば、花火の打ち上げに公金を使うべきではなかった。酒田元気応援花火への使用を了承していた2社も、市から『被災地の復旧・復興に使わせてほしい』と要請されれば、快く受け入れてくれたのではないのか」と指摘した。
 複数の関係者からは「一般論として、酒田の花火で打ち上げ予定だった花火は廃棄しなければならないはずだが、それを打ち上げることで処理費用を節約できた」との見方も出ている。

会場は非公開に批判多く

 打ち上げ会場を非公開にしたことへの批判も多い。
 松永課長は本紙の取材に、打ち上げ会場を非公開にした理由を「観覧会場を設けて観客を入れるとなると、開催予算の約150万円では不可能という判断から、非公開にした。必要最小限でできることを考えた結果だった」と説明する。
 これに対し60歳代のある市民は「打ち上げ会場を非公開にしなければ開催できないような花火を、実施すること自体おかしなこと。これでは『市民不在の、実行委員会関係者のための酒田元気応援花火』と言われても仕方がない」と憤る。
 別の70歳代の市民は「被災者を勇気づけるのならば、八幡地域で打ち上げるのが開催趣旨にかなう進め方だった。それが難しければ、被災者だけでも打ち上げ会場に招待するべきだったのではないのか」と話した。
 最上川に飛来する白鳥など、冬の渡り鳥への影響を危惧する声も聞かれる。
 松永課長は取材に「実行委員会の中でも、懸念事項として挙がっていた。白鳥の第一陣が飛来するのは例年10月10日前後と聞いており、12日はぎりぎりの時期だった。打ち上げ会場もここ(酒田北港緑地展望台周辺)であれば、影響は少ないと考えた」と述べた。
 これに対し複数の市民は「全国各地の白鳥飛来地の中に飛来数が減っているところがあり、その要因の一つに季節外れの花火の影響が疑われている。白鳥など冬の渡り鳥が飛来する時期に、花火を打ち上げた実行委員会の判断は、適切さを欠いている」と話した。

商業花火を市民花火へ

 実行委員会は酒田の花火の中止決定直後、協賛金を出した企業・団体に「『酒田の花火』中止のお知らせと協賛金の取り扱いについて」と題する文書を送付した。
 同文書では、酒田の花火を中止にした理由と謝罪を述べた上で、イベント中止保険の仕組みを説明し、「貴社から頂戴した協賛金は返せないので、理解してほしい」旨が記されていた。
 しかし、これを受け取った企業・団体の多くは「酒田の花火が中止になった場合、協賛金が返却されないという説明は受けていなかった」(複数の企業・団体関係者)と不信感を隠さない。
 酒田の花火をめぐっては、酒田花火ショーに代わり昨年初めて開いた「全国二尺玉花火競技大会」の収支が約1900万円の赤字となり、市が赤字分を全額補てんした経緯がある。
 今年は有料観覧席と駐車券のチケット販売額が、6月19日時点で収支が均衡する販売予定額を約837万円下回っていた。
 市は今年の酒田の花火の最終的な収支を10月末にも実行委員会に説明するが、市民の間には「実行委員会に商業花火を開催するノウハウが無いのだから、従来のような市民花火に戻してほしい」との声が根強い。

表

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