郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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矢引風力発電計画
市環境審では反対意見も
学識者は「住宅から2キロ離すべき」

 鶴岡市環境審議会(会長・俵谷圭太郎山形大学農学部教授、委員18人)が9月30日、同市役所で開かれ、エネオスリニューアブル・エナジー(株)(旧ジャパン・リニューアブル・エナジー(株)、以下エネオス社、東京都港区、竹内一弘代表取締役社長、資本金等287億円)が、同市矢引地区で計画している三瀬矢引風力発電事業(仮称)の環境影響評価準備書をオンラインで説明した。学識者が「健康保護のため住宅から2キロ以上離すべき」と指摘した意見書も配布され、委員1人が計画に反対した。(編集部課長・土田哲史)

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9月30日に開かれた鶴岡市環境審議会

住宅から約1・0キロに計画

 三瀬矢引風力発電事業は、矢引、由良、三瀬の最も近い住宅から、それぞれ1・0キロ、1・0キロ、1・5キロ離れた標高約200メートルの山中に、高さ最大172メートル、出力4200キロワット(4・2メガワット)の発電用大型風車6基を設置する計画。
 発電量は一般家庭約1万4千世帯分の年間電力消費量に相当する。運転期間は20年間で、発電した全量を東北電力に売電する。
 現在は、エネオス社が環境影響評価の調査結果を記した準備書を、山形県と鶴岡市に提出した段階。この準備書に対する意見を市は県に、県は国に出して、環境大臣と経済産業大臣が意見を示す。両大臣の意見を受けて、エネオス社が環境影響評価の最終結果となる「評価書」を25年度に作る。風力発電所は26年度の着工、28年度末の運転開始を予定。
 準備書では①騒音②振動③水質④風車の影⑤動物⑥植物⑦生態系⑧景観⑨人と自然の触れ合いの活動の場⑩廃棄物等を調べた。
 ①の耳に聞こえる音は、由良、三瀬、中山、矢引、中沢、大荒の各地区で、昼夜とも現在の30~52デシベルから0~6デシベル増えると予測したが、騒音を感じる目安35~57デシベルを下回るとした。
 ①の耳に聞こえにくい超低周波音は、現在の46~76デシベルから0~15デシベル増えるが、超低周波音を感じる目安100デシベルを下回るとした。
 ④風車の影は、国内に指針が無いため、ドイツなどの指針「年間8時間を超えない」を参照したが、住宅12戸で8時間を超えると予測した。
 ⑤⑥の動植物では、哺乳類・コウモリ類が26種、鳥類が125種、植物845種などを確認した。このうち⑤動物では、環境省が絶滅危惧ⅠB類に指定するクマタカが2つがい生息し、風車に接近・接触して影響を受ける可能性があると予測した。コハクチョウとコウモリ類にも影響があると予測した。
 ⑥植物では、環境省が準絶滅危惧に指定するコシノカンアオイ、県が絶滅危惧Ⅱ類に指定するムラサキニガナが生育している。
 これらの予測結果から、環境保全措置として▼風車は可能な限り住宅等から離れた場所を選ぶ▼風車の影の影響が確認されれば、住民の必要に応じて遮光カーテンやブラインドを設置する▼クマタカの営巣中心域外に風車の配置を変える▼重要な植物は移植などする―などと記した。

意見書で睡眠障害を指摘

 市は同審議会で、田鎖順太・北海道大学地域環境研究室助教と影山隆之・大分県立看護学科大学精神看護学研究室教授が、9月30日付けで皆川治鶴岡市長に提出した意見書「風車騒音による睡眠への影響を考慮すれば、4・2メガワット風車では、民家と風車の離隔距離は2キロが必要である」を、参考資料として委員に配った。
 同意見書では、環境省が17年に発表した「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」は、睡眠への影響を除いている点で問題があり、風車騒音による健康への影響は十分な科学的知見が無い、などと指摘した。
 田鎖助教らの試算では、出力4200キロワット(4・2メガワット)の風車騒音を「被験者の10%が入眠時に気になる」水準まで減らすためには、風車との距離を約2キロにする必要があると記した。
 そして「住民の健康保護のためには、風車騒音のレベルを不眠症リスクの上昇閾値(しきいち。境界となる値)より低くすることは当然である。今回の試算例でいえば民家と風車の間には2キロ以上の離隔距離が確保されるべきと考えるのが妥当である」と述べている。

重要な植物や鳥にも影響

 エネオス社の計画に対し、委員6人からは「環境的に再生可能エネルギーを増やすことは自然の流れ。三瀬地区の風車では地元からどんな意見が出ているか」「故障時の保障はどうなっているか」「田鎖助教らの意見書が届いた経緯は」といった質問や意見が出た。
 一方で委員の水野重紀・県希少野生動物調査会調査員は、計画に反対した。
 水野委員は「風車から2キロ離れないと公害が発生する可能性があるとのこと。風車の2キロ圏内には住宅が1195戸あり、由良保育園は1・2キロ、豊浦小学校は1・5キロの距離にある。子供への影響を心配している」と話した。
 植物については「風車の運搬道路を造ると、植物へのダメージが大きい。大雨時に土砂崩れの被害が大きくなる可能性がある。重要な種は移植するとしているが、移植は自然のままの保全とは言えない」と指摘。
 鳥類では「猛きん類や渡り鳥に被害が出る可能性がある。既存の鶴岡八森山風力発電所は、道路がフェンスでふさがれて入れないため、バードストライク(鳥の風車への衝突事故)があっても分からない。見つかっても公表されない可能性がある」と述べた。
 エネオス社は、矢引近隣の三瀬地区で鶴岡八森山風力発電所を21年11月から運転しているが、クマタカが衝突死した事故が23年6月に発生した。加茂地区でも22年に風力発電所の建設を計画したが、皆川市長や日本野鳥の会などが「ラムサール条約登録湿地に近接しており、一定の地域に複数の事業が集中するため累積的な影響が懸念される」などとして建設の中止を求め、同社は計画を断念した。

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