遊佐、酒田沖洋上風力発電
疑問や不安、懸念の声根強く
住民団体、首長に要望書と公開質問状
遊佐町沖と酒田市沖で洋上風力発電の事業化に向けた国の手続きが進む中、庄内地域の住民団体は、1月29日に松永裕美遊佐町長に日本海東縁部地震帯で発生する地震津波対策などに関する要望書を、31日には矢口明子酒田市長に一般住民を対象とした意見交換会の開催などを求める要望書を、相次ぎ提出した。同市沖の洋上風力発電事業では、庄内地域の別の住民団体も24日に、矢口市長に洋上風車の耐震性や審査体制などで見解を求める公開質問状を出しており、住民の間では事業への疑問や不安、懸念の声が根強く残り、いまだに解消されていないことをうかがわせた。(編集主幹・菅原宏之)
住民団体が提出した要望書と公開質問状
安全性の根拠、効果の説明会求める
松永町長と矢口市長に要望書を提出したのは、事業化に疑問や不安、疑念を抱く庄内住民でつくる「鳥海山沖洋上風力発電を考える会」(菅原善子、三原容子、佐藤秀彰共同代表)。同会では、松永町長と矢口市長に対し要望書への回答を示す際に、それぞれ面談の場を設けるよう求めている。
松永町長に提出した要望の項目とその主な内容は―
項目①=日本海東縁部地震帯で生じる地震津波対策と洋上風車の安全性について。
内容=庄内沖で最大クラスの津波を伴うことが想定される海底断層は3カ所が確認され、今後30年以内に地震が発生する確率はほぼ0%と公表されている。また洋上風車の設置基準は電気事業法、建築基準法、洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説等で示されている―と解説した。
そして清宮理・早稲田大学名誉教授は「地震津波対策で具体的な設計方法と強度がどれだけ必要かは示されていない」と懸念を述べ、鈴木猛康・山梨大学名誉教授と今村文彦・東北大学教授も、昨年9月のシンポジウムで同様の見解を述べた。今村教授は「地震津波はいつ来てもおかしくない」とも強調した―と指摘した。
その上で「地震津波がいつ来てもおかしくないというのが町長の認識ならば、遊佐町沖洋上風力発電事業の中止を求めてほしい。洋上風車の安全性は現行の安全基準で十分満たされていると考えるならば、その根拠(着床式洋上風車の設計方法と必要とされる具体的な強度の数値)を示してほしい」と要望した。
項目②=山形県が行った洋上風力発電による経済波及効果調査結果について。
内容=夕日の景観や沿岸漁業・漁獲高、観光客、移住者など洋上風力発電により失われるものや、健康被害への対応など新たに必要となる費用の記載が無い。山形県の調査結果は、売上だけを積み上げて有望な事業だと宣伝しているようなもの―と指摘した。
その上で「経済波及効果調査結果の説明会を開いてほしい。町で説明できなければ、山形県と共同で開いてほしい」と要望した。
項目③=遊佐町沖洋上風力発電の責任の所在について。
内容=再エネ海域利用法では、発電事業者には責任が生じるが、我々は政策として推進してきた国・山形県・遊佐町にも責任があると考えている―と指摘した。
その上で「遊佐町長は、責任の所在を明確にしてほしい」と要望している。
開かれた意見交換会の開催を
同会が矢口市長に提出した要望書では、山形県と酒田市が昨年6月14~28日に、市民を対象に市内の7中学校単位で開いた意見交換会に言及した。
その中で同会は、懸念や疑問、反対意見が圧倒的多数を占めた意見交換会の結果を受け、市商工港湾課長は「学習会の開催を検討している。経済波及効果調査の報告が示される時期が一つのめど」(本紙2024年8月2日号2面)と話していたが、いまだに開かれていない、と指摘した。
さらに昨年11月29日の市長定例記者会見で、記者の質問に対し市商工港湾課長が「若い方、具体的には酒田商工会議所青年部の皆さんや東北公益文科大学生などの若い方を対象とした意見交換会を開催する予定」と回答し、一般の人への説明会は考えていない、と説明したことに疑問を呈した。
そして「昨年の意見交換会は、参加者が7回で計256人と少ない上に、先行する遊佐など近隣市町住民の声を排除しての開催であり、出された多くの意見は何も解決せず、住民理解とはほど遠い状況となっている」と批判した。
その上で「酒田市沖洋上風力発電の法定協議会が設置されれば、住民代表は酒田市長になる。住民の声を真摯に聞くことなく法定協議会に参加することを、我々は真に危惧している」と主張し、改めて開かれた形での意見交換会を開くよう求めた。
同会では、意見交換会の開催に際し―
①参加対象は、酒田市民か同市に勤務する人に限定せず、地区別ではなく大会場で一堂に会して開催する。
②市長、市議会議員、酒田市・飽海郡区選出の県議会議員は全員出席し、幅広く住民の生の声を聞く。
③開催は土日曜の午後など参加しやすい時間とする。
④学習会や説明会ではなく、意見交換に重きを置く。
⑤説明は短時間で簡潔にし、参加者の発言時間を制限する3分ルールは行政側にも適用する。
⑥参加者の発言は、賛成反対を問わず、理由や根拠を持って発言するよう促す。
⑦洋上風力発電に関わる団体には、それぞれの代表者による発言を認める。
―の7点を検討することも併せて求めている。
地震津波対策は確立しているのか
酒田市沖洋上風力発電事業に対しては、庄内住民で組織する「庄内の海と山を守る会」(世話人・伊藤えり子、梅勝恵の両氏)も矢口市長に公開質問状を提出した。回答期限は2月末。
同質問状では、今後予定されている文部科学省地震調査研究推進本部による日本海東縁部海底活断層調査では、より正確な地震規模と発生確率の測定が行なわれる。こうしたことから調査の結果が出るまで、法定協議会の設置など、経済産業大臣・国土交通大臣による促進区域の指定に向けた手続きを行うべきではないと考える、などと指摘した。
さらに洋上風力発電設備は、外国製の設備の導入が想定されており、日本で要求される耐震設計基準がどこまで組み込まれ、日本の気候条件に合った日本仕様に改良されているのか、と疑問を投げかけた。
その上で同会が質問した主な内容は次の通り。
①文科省による海底活断層調査がいまだ行われておらず、最大規模の地震と津波が正確に把握されていない段階では、洋上風力の耐震性と津波耐強度の審査はできないのではないのか。
②発電事業者が提出する洋上風力発電設備の構造に対する耐震設計、津波耐強度設計の審査体制と基準は確立されていると考えるか。
確立されているとの考えに立つ場合は、利害関係を持たない公正な専門家による審査体制が確立されていると考えるか―など3点。
構築途上との考えに立つ場合は、現段階でどこまで検討が進んでいるか。今後の計画も含め説明してほしい―など2点。