酒田市立第一中学校1年生の石澤準奈さんが、2021年2月に校舎4階から飛び降りて自殺した件で、いじめと自死の因果関係を再調査していた「酒田市いじめ重大事態再調査委員会」(委員長・栗山博史弁護士)が、複数のいじめの事実を認めた一方、遺書の中で特定の生徒について非難する表現は見当たらないなどとして「いじめと自殺との因果関係を認めるに足りない」と結論づけた報告書を、矢口明子酒田市長に7日、同市役所で答申した。(編集委員・戸屋桂)
栗山委員長が矢口市長に手渡した
報告書では▼複数の女子生徒が何度も無視したり、にらんだりする態度をとるようになった▼げた箱に「死ね、キモイ」と書いた紙を複数回入れた▼女子生徒がネットのライン上で頭髪について書き込んだ―ことなど4件をいじめと認定した。
一方で▼合唱祭の練習中の複数の生徒の言動▼創作ダンスでの非協力▼席替えに関する討議の言動―の3件はいじめではないとした。
その上で、中学入学後の他者との関わりの中で不全感を強め、自尊感情を低下させることに影響したと考えられる体験が複数認められ、その中にはいじめと認定した事実も含まれる、と評価した。しかし、生徒自身が抱えていた否定的自己認知や不全感、孤独感は相当大きく、それと比較すると、中学入学後の複数の体験による影響の程度は大きくない、と結論付けた。
一方で、学校と教員の対応に対しては「本件中学校の対応は不適切」「本件生徒の発するSOSをことごとく見落とし、何らの対応もしなかったことは極めて問題」と厳しく批判した。
具体的には―
▼心理テスト(Q―U)の結果、自殺した生徒は学究生活不満足群のうち要支援群に位置付けられていたが、学校全体として情報共有し対応を検討することはなかった。学年教員にも個別面談や保護者への連絡が必要という意見は無く、具体的な対応等は無かった。
▼図書館で借りた本『自殺予定日』の読書感想文に「何度も自殺したいと思ったことがある」などの気持ちが書かれていたのに、内容を把握し学年教員や管理職に情報共有しなかった。
▼教育相談・いじめ発見調査アンケートで「死ね、キモイ」と書かれた紙がげた箱に入れられていたことを相談されたが、いじめの事実確認を怠った。
▼いじめ防止対策推進法に基づき酒田市いじめ防止基本方針で定めている、常設のいじめ防止対策組織が設置されていなかった。2020年度にいじめ防止対策組織の会議を開催したことは無く、事案ごとの対処が場当たり的になり、本来なされるべきことがなされていなかった―など。
学校全体として情報を共有し、個別面談等を実施して丁寧に対応していれば、生徒の心理状態を把握し、必要な心理的・医療的ケアが実施された可能性がある。そうしていれば生徒の心配、悩みも緩和され、自殺を図るという事態に至らなかった可能性も否定できないと思われる、と指摘した。
さらに再発防止のためには、子どもの心理面、精神面を丁寧にとらえる専門性と、学校内組織の多角的視点の確保が必要。学校内の組織体制作り、外部機関との連携を図らなければならない、と提言した。
いじめ重大事態再調査委員会は、酒田市教育委員会が生徒の自殺から7カ月経って設置した「酒田市いじめ問題対応委員会」の調査結果に対し、遺族が納得できないとして再調査を求めたことから、丸山至酒田市長が県外の弁護士や臨床心理士などの専門家5人を委員として、22年10月14日に設置した。今年2月5日まで計42回委員会を開き、報告書をまとめた。
報告書を受け取った遺族は「いじめが自死の主要因ではないと判断されてしまいました。何でもかんでも『それはいじめ』『嫌がらせ』と決めつける判断をしたら大変なことになりますと言われた。亡くなる1カ月前の娘の心身が最大限に弱っていたときに受けた陰湿な行為が何でもかんでもになるのでしょうか。いじめられた事実はあるけれどもいじめで死んだわけではない。全く理解できない判断に、とても悲しい気持ちに打ちひしがれ、娘の遺影の前で涙が止まりませんでした」などと談話を発表した。