郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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鶴岡・酒田 市勢を検証〔中〕
地域経済縮小の影響、随所に
事業所減少、経済成長率で明暗も

 鶴岡、酒田両市の市勢を探る2回目は、経済産業面に焦点を当てる。両市では事業所数が減り、経済成長率で明暗が分かれるなど、経済縮小の影響が随所に見られる。地域経済は新型コロナの影響から復調の兆しが見え始めたが、それをどう成長軌道につなげ、産業力の強化を図っていくのかなど、待ったなしの課題は多い。県内主要5市の経済指標などと比較しながら、現状と課題を探った。(本紙取材班)

 事業所数・従業者数   事業所7年間に約10%減

 国の経済センサス基礎調査と活動調査に基づいて県がまとめた「山形県の事業所」(民営事業所)によると、鶴岡市の2021年6月1日の事業所数は6044事業所、酒田市は5225=下表参照=。

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 鶴岡市の14年7月は6663事業所だったので、この7年間に619事業所9・3%減った。それに伴い該当事業所で働く21年同日の従業者数も5万3849人と、14年同月の5万4715人から866人1・6%減っている。
 酒田市の14年同月は5828事業所で、同603事業所10・3%減った。従業者数も4万7403人と、14年同月の4万9117人から1714人3・5%減っている。
 鶴岡、酒田両市を除く山形、米沢、天童、東根、新庄の県内主要5市の、同じ7年間の事業所増減数と事業所増減率は、減少率が低い順に東根市150事業所8・1%減、天童市251事業所8・1%減、山形市1409事業所10・4%減、米沢市572事業所12・3%減、新庄市365事業所15・0%減となっている。
 県内主要市の中で、事業所減少率は新庄市が最も高く、次いで米沢市、山形市、酒田市、鶴岡市、東根市・天童市の順だった。事業所減少数は山形市が最も多く、次いで鶴岡市、酒田市、米沢市、新庄市、天童市、東根市が続く。
 同じ7年間の従業者増減数と従業者増減率は、東根市だけが165人0・8%増、以下、減少率が低い順に鶴岡市866人1・6%減、米沢市989人2・3%減、酒田市1714人3・5%減、天童市1044人3・6%減、山形市5324人4・2%減、新庄市1578人8・7%減だった。
 県内主要市の中で、従業者増減率は東根市だけがプラスで、減少率は鶴岡市、米沢市、酒田市、天童市、山形市、新庄市の順で低かった。従業者増減数は東根市だけが増加し、減少数は山形市、酒田市、新庄市、天童市、米沢市、鶴岡市の順で多かった。
 このように酒田市の事業所減少率と従業者減少率の高さ、鶴岡、酒田両市の事業所減少数と酒田市の従業者減少数の多さは、県内主要市の中でも上位に位置する。人口減少を背景に地域経済が縮小する中、産業競争力をどう強化していくのかは、両市にとって大きな課題となっている。

医療、福祉の従業者増加

 鶴岡、酒田両市の21年6月1日現在の産業大分類別従業者数を見ると、鶴岡市では「製造業」の従業者数が1万2144人で最も多く、全産業の22・6%を占める。
 次いで「卸売業、小売業」9594人(全産業に占める構成比17・9%)が続き、以下「医療、福祉」8494人(同15・8%)、「建設業」4793人(同8・9%)、「宿泊業、飲食サービス業」4269人(同7・9%)、「サービス業」3473人(同6・5%)の順だった。
 鶴岡市では「製造業」「卸売業、小売業」「医療、福祉」の上位3産業で全産業の56%超を占める。7年前の14年6月1日時点から大半の産業で従業者数は減っているか横ばいだが、「医療、福祉」と「教育、学習支援業」、「学術研究、専門・技術サービス業」では従業者数が増えている。
 一方、酒田市では「卸売業、小売業」の従業者数が9822人で最も多く、全産業の20・4%を占める。
 次いで「製造業」8878人(同18・4%)が多く、 以下「医療、福祉」7276人(同15・1%)、「建設業」4878人(同10・1%)、「サービス業」4394人(同9・1%)、「宿泊業、飲食サービス業」3172人(同6・6%)が続いている。
 酒田市では「卸売業、小売業」「製造業」「医療、福祉」「建設業」「サービス業」の上位5産業で全産業の73%超を占める。鶴岡市と同様に、従業者数は14年6月1日時点から大半の産業で減っているか横ばいだが、「サービス業」と「医療、福祉」、「教育、学習支援業」では従業者数が増えている。
 鶴岡、酒田両市を除く山形、米沢、天童、東根、新庄の県内主要5市との比較でも、高齢化を背景に米沢市以外の4市で14年同日から「医療、福祉」の従業者数が増加している。
 鶴岡、酒田両市を含む県内主要7市の産業構造はそれぞれだが、雇用の受け皿を確保する観点から第1~3次産業でいかに付加価値の高いものを開発・定着させていくのかが重要となってくる。

 市内総生産・市民所得   酒田市の成長率マイナス

 市町村内で1年間に生み出された付加価値(総生産額から原材料費や燃料費などを差し引いた金額)の総額を示す市町村内総生産は、鶴岡市が21年度6327億4200万円、酒田市は同4016億6千万円だった=下表参照=。

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 鶴岡市の15年度は4211億2700万円だったので、この7年間に2116億1500万円50・3%増えた。酒田市の15年度は4126億9200万円で、同110億3200万円減っている。
 鶴岡、酒田両市を含めた山形、米沢、天童、東根、新庄の県内主要7市の、同じ7年間を比較した経済成長率(増減率)は、高い順に1位鶴岡市、2位東根市、3位山形市、4位米沢市、5位新庄市、6位天童市、7位酒田市となっている。
 県内主要市の中では、製造業の活発な生産活動を背景に、鶴岡市の経済成長率が著しい伸びを見せた。これとは対照的に、酒田市は県内主要7市の中で唯一のマイナス成長となっており、同市では産業力が勢いを失い、県内での経済的優位性が薄れている実態が浮き彫りとなっている。
 市町村内総生産の順位は人口規模におおむね準じているが、この7年間では15年度に6位だった東根市が17年度に天童市を抜いて5位に浮上している。
 一方、雇用者への報酬や企業の利潤など付加価値の分配を示す市町村民所得は、鶴岡市が21年度3640億800万円、酒田市は同2798億4900万円だった=下表参照=。

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 鶴岡市の15年度は3266億900万円で、この7年間に373億9900万円11・5%増えた。酒田市の15年度は2895億3800万円で、同96億8900万円3・3%減っている。
 県内主要7市の21年度の市町村民所得の順位は、15年度と同じ1位山形市、2位鶴岡市、3位酒田市、4位米沢市、5位天童市、6位東根市、7位新庄市。
 21年度と15年度を比べた伸び率は、高い順に1位鶴岡市、2位東根市、3位天童市、4位山形市、5位新庄市、6位米沢市、7位酒田市となっている。酒田市はここでも伸び率がマイナスとなっており、同市の経済が低迷していることを裏付ける形となっている。

 製造品出荷額等   鶴岡県内1位、酒田5位

 製造品出荷額や加工賃収入、修理料収入など、製造業の一年間の生産活動の状態を表す「製造品出荷額等」の県内主要7市の16~22年の推移は表の通り。

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 統計データは、集計対象が2022年以前は従業員4人以上の事業所の全数だったが、22年以降は従業員1人以上の全数(売上高上位9割層からの推計)に変更したため、22年以前と以降では単純比較ができない。
 その上でデータを見ると、22年は鶴岡市が5835億8759万円で県内トップとなった。酒田市は2528億685万円で順位は鶴岡、米沢、東根、山形に次ぐ5位となっている。鶴岡は20年の3位から1位に躍進し、酒田は20年と順位は変わっていない。
 16年から22年の伸び率では、鶴岡が89・1%増で最も高く、次いで新庄28・5%増、山形16・1%増、米沢11・4%増、東根9・9%増、酒田1・2%増、天童0・1%増だった。
 鶴岡の製造品出荷額等が伸びた背景には、鶴岡大山工業団地の分譲が進んだことやバイオベンチャー企業の創業が相次いでいることなどが考えられる。市は新産業団地を鶴岡西工業団地隣で27年度から分譲できるように計画しており、さらなる上積みが期待できる。
 一方で酒田は工業団地の用地に空きがほぼ無く、新産業団地の計画も今のところ無い。

 農業産出額   米価や天候が左右し増減

 農業産出額(推計)は、天候や米価の影響などで毎年変動しているが、23年は鶴岡市が286億2千万円と16年の306億5千万円から20億3千万円6・6%減、酒田市は203億円で同202億6千万円から4千万円0・2%増となった。
 主要7市では天童市が181億9千万円と同10・2%増、東根市が202億円で同13・4%増と10%以上増えた。米沢市は同6・4%増、山形市は同5・6%減、新庄市は同15・6%減となった。県内では鶴岡市が最も産出額が大きく、2番目に酒田市という状況は変わらないが、東根市が迫っている。
 鶴岡市の産出額の内訳を見ると23年は米が128億1千万円で16年の132億5千万円を3・3%下回った。米以外の野菜・花・果実等は125億5千万円で同143億9千万円を12・8%減と大きく下回り、畜産は32億6千万円と同8・3%増と上回った。
 23年は米が産出額全体の44・8%を占め、野菜・花・果実等が43・9%を占めたが、16年は米が43・2%、野菜・花・果実等が46・9%と米の割合を超えていた。産出額における米価の影響は大きいが、野菜・花・果実等の減少も大きく響いた=グラフ参照=。

グラフ
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 鶴岡市農政課では、23年の産出額は22年より少し増えたものの、産出額全体の半分近くを米が占めるため、米価の変動に左右され、園芸作物は近年の大雨や高温など天候不順の影響で生産量が減ったことが影響したと分析する。
 さらに労働力不足があり、手間のかかる作物の栽培面積が減り、それに伴い収穫量が減っている。農家数は15年から20年の5年間で約800人減り、高齢化も進んでいる。
 酒田市の産出額の内訳を見ると、23年は米が87億円で16年の94億3千万円を7・7%下回った。米以外の野菜・花・果樹等は64億円で同71億5千万円を10・5%下回り、畜産は52億1千万円と同41・6%増と大きく上回り、他の低下を補った。
 米の産出額全体に占める割合は16年の46・5%に対して23年は42・9%に、野菜・花・果実等も35・3%から31・5%に下がったが、畜産の割合は18・2%から25・7%へと上がった。
 酒田市農政課でも、19年は米の産出額が107億円を超えて、23年より20億円も多いことを踏まえ、米の作付面積が大きいため米価に左右されやすく、気象状況の影響で園芸作物も微減したと説明する。農家数の減少と高齢化も進んでいる。

 年間商品販売額   天童市が鶴岡市を抜く

 山形県の商業(経済センサス活動調査―卸売・小売業に関する調査報告書)で21年と調査対象が違うため参考値だが16年を比べた。
 鶴岡市の卸売・小売業の事業所数は1553で、16年の1773から220、12・4%減、従業者数は9395人と同9796人から401人4・1%減、年間商品販売額は1993億2062万円と、同2172億3100万円から179億1038万円8・2%減となった。県内主要7市の中では、新庄市の8・6%減に次いで大きく減った=表参照=。卸売業、小売業ともに、事業所数、従業者数、年間商品販売額すべてが16年を下回った。

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 県全体の年間商品販売額に占める鶴岡市の割合は、16年の8・4%から21年は8・0%に低下。16年までは販売額と割合とも天童市を上回っていたが、販売額では9億6444万円下回り、山形市、酒田市、天童市に次ぐ4番目となった。
 酒田市の事業所数は21年1394で16年の1611より217、13・5%減と、鶴岡市より減少率が大きく、最も減少率の大きな新庄市の17・0%減、米沢市の13・7%減に続き3番目に減少率が大きかった。
 しかし、従業者数は9543人と同9453人より90人1・0%増で、県内では最も増加率が高くなった。年間商品販売額は2427億7883万円で、同2459億759万円より31億2876万円1・3%減と、天童市の5・2%増、山形市の0・2%減に続いて3番目に減少率は小さかった。
 卸売業と小売業を分けて見ると、卸売業の事業所数の割合は26・9%と山形市に次いで大きいが、従業者数、年間商品販売額ともに16年を下回った。小売業の事業所数は16年より減ったが、従業者数は5・5%増え、年間商品販売額も6・9%伸びた。
 県全体の年間商品販売額に占める酒田市の割合は、16年の9・5%から21年は9・7%に微増し、山形市に次ぐ2番目を維持した。
 山形市の21年の年間商品販売額は1兆759億2591万円と、16年より0・2%減ったものの、県全体に占める割合は16年の41・6%から43・1%に1・5ポイント増えた。同様に天童市も7・4%から8・0%と0・6ポイント増えた。県都中心に人やモノの動きが集中し、他市との差が開いているようだ。

 観光客数   両市ともコロナ前に届かず

 県内主要7市の15~23年の観光客数の推移は表の通り。23年は鶴岡市が462万5900人で山形市に次ぐ2位。酒田市は250万8700人で、山形、鶴岡、米沢に次ぐ4位だった。

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 鶴岡は15~21年は県内1位だったが、23年は2位に転落した。山形がコロナ禍前の19年を上回るほど回復しているのに対し、鶴岡、酒田は19年の水準に届かず回復が遅れている。
 鶴岡、酒田が山形に及ばない要因には▼山形新幹線が新庄止まり▼高速道路が秋田・新潟両県境で未開通▼海外チャーター便の就航が山形空港に偏重している―などが考えられる。
 県のまとめによると、山形、庄内両空港の09~24年度の海外チャーター便の便数と乗客数の合計値は、山形空港の780便9万1198人に対し、庄内空港は216便2万2486人。庄内空港は山形空港に対し、便数は27・7%、乗客は24・7%しかない。
 庄内空港が山形空港を上回ったのは、東日本大震災が起きた2011年度だけ。23年度は山形空港の92便1万2720人に対し、庄内空港は6便812人と便数では6・5%、乗客数では6・4%しかない。
 県は庄内空港に国際線ターミナルを整備する方針を示しているが、開業の具体的な時期は無く、国際線ターミナルを整備したとしても、現状の2千メートル滑走路では離発着できる航空機は限られる。庄内空港から海外に出発する旅客をどう確保するかも課題といえる。
 一方、酒田港にはクルーズ船が15~24年度に計41回寄港した。25年度は過去最多の10回が予定されている。酒田市によると船会社の酒田への評価は高い。クルーズ船を誘致して、乗客を庄内一円に誘導することも酒田、鶴岡両市の課題である。

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