庄内と最上を中心に甚大な被害が出た昨年7月25日の豪雨災害から1年が経過した。酒田市では住民の速やかな避難行動につなげようと、被災地域に対する避難指示を状況によって基準より一段階早めて発令することを決めた。同市西荒瀬地区では、日向川の水位情報や避難警報の出し方なども含め、被害が起こった原因や対応の検証を求める要望書を、鶴岡市藤島地域では京田川改修に関する要望書を、それぞれ当該市に提出するなど、災害時の安全対策を念頭に行政に対する地域住民側からの働き掛けが活発になっている。(編集主幹・菅原宏之、編集副主幹・戸屋桂、編集部次長・土田哲史)
酒田市は、昨年7月の豪雨災害で被災した市内地域のうち、特に被害の大きかった3地域に対する避難指示を、状況によって本来の基準より一段階早めて発令することを決めた。
被災した道路や河川が仮復旧状態のため、想定している避難経路を使えない場合が考えられることから、地域住民の速やかな避難行動につながるよう対応した。
発令対象となるのは―
▼荒瀬川流域の八幡地域=想定地区は北青沢、大蕨、観音寺、上青沢、下青沢、一條の一部。本楯、上田、東平田の一部。
▼日向川流域の西荒瀬地区=想定地区は南遊佐、西荒瀬、観音寺の一部。
▼最上川と竹田川流域の松山地域の竹田地区=想定地区は柏谷沢、荒興野、成沢、上大川渡、下大川渡、地見興屋、下新田、山田、引地、上竹田、中竹田、下竹田。
八幡地域では、最も近くにある市条水位観測所の水位が避難判断水位の3・20メートルに達するか、白玉橋危機管理型水位計の水位に急激な上昇が見られる場合などに、「高齢者等避難」に相当する警戒レベル3の段階でも、警戒レベル4相当の「避難指示」を検討する。
西荒瀬地区では、最も近い穂積水位観測所の水位が避難判断水位の4・90メートルに達し、さらに水位の上昇が見込まれる場合などに、警戒レベル3の段階でも、避難指示を検討する。
松山地域の竹田地区では、最も近い臼ケ沢水位観測所の水位が避難判断水位の16・20メートルに達するか、竹之下橋危機管理型水位計の水位が危険水位(堤防天端まで0・6メートル)に達した場合に、警戒レベル3の段階でも、避難指示を検討する。ただし竹田排水機の排水ポンプが正常に稼働している場合は、一段早めた発令はしない。
一段階早めての発令は、その後の天候や河川水位の見通しなどを、山形地方気象台や国土交通省酒田河川国道事務所、山形県に確認した上で実施する。
矢口明子市長は7月1日の定例記者会見で「避難指示が出たら、安全な場所への立ちのき避難や、堅牢な建物への避難などの行動を取ってもらいたい。山間地や土砂災害警戒区域などに住んでいる場合は、沢の水が濁ったり、崖の割れ目から水が湧き出したりといった前兆現象が見られたら、市からの避難指示によらず、速やかに安全を確保してほしい」と話した。
八幡地域大沢地区の被災の大きさに隠れてしまった面があるが、西荒瀬地区の被害も大きかった。西荒瀬コミュニティ振興会(鈴木勝会長)では、被災の記録をまとめた冊子を作り、さらに日向川の水位情報や避難警報の出し方、日頃の治水の在り方なども含め、大きな被害が起こった原因や対応の検証を求める6項目からなる要望書を、1月に酒田市に提出した。同市は要望書を受けて、8月19日に荒瀬コミュニティ防災センターで地区住民に説明会を開く。
鈴木会長は「復旧・復興も大事だが、豪雨災害を振り返って検証し、適切な対応につなげていくことが大事だと考えている」と話す。
西荒瀬地区は15自治会約680世帯2200人のうち、床上浸水44世帯、床下浸水109世帯、農作業小屋や車庫への浸水も約50件という被害を受けた。日本海沿岸東北自動車道の橋脚が2本立っている辺りの、日向川の護岸が決壊したために生じた。
同振興会では、当日に同コミセンに入ってきた情報を、時系列で詳細に記録した。その一部を見ると、25日午後1時17分に地区内の建設業者から、鮭孵化場建物の屋根まで水が来ているとの情報があった。午後2時13分、住民から日向川越水と連絡があり、同15分、消防団が日向川の決壊を知らせた。
市が西荒瀬地区に警戒レベル5の「緊急安全確保」を発令したのは、午後7時5分だった。日向川の氾濫情報が早くから上がっていたにもかかわらず、緊急安全確保の発令はずいぶん遅かったことが分かる。
この間、コミセン周辺が浸水し、コミセンへの通路が限定的なことや、どの程度浸水するか分からないことから、コミセンに避難していた人やコミセンに隣接する西荒瀬保育園児を、泉小へ移動させる対応をした。
同振興会の調査によると、腰まで水に浸かり孫に2階へ引き上げてもらった住民や、車にしがみついたまま流されて助けられた住民など、危険な状況もあった。
こうしたことから▼事前の気象予報がありながら情報発信の在り方はどうなのか▼当日の地域に対しての警報伝達は適正だったか▼災害本部と災害現場の情報共有はどうだったのか―などの説明を市に求めている。
鈴木会長は「当事者となってみて、情報が錯綜することを実感した。開設した避難所に、行政が正確な情報を発信するやり方を確立してほしい」と話した。
県から日向川の復旧工事の説明はあったが、護岸が決壊した要因などの説明はなく、地区住民からは原因を突きとめなくていいのかという声や、川床が浅くなっていては水があふれやすくなるため、しゅんせつなど適正な河川管理の在り方に疑問を投げかける声も上がったという。
一面に雑草が生えている西荒瀬地区の農地
鶴岡市防災安全課によると、昨年7月の大雨で同市に支援の要請があった住宅と農地、被災した市管理道路、林道、市管理河川は、全て復旧済みか事業着手済みとなっている。
住宅被害は、床上浸水の0・1メートル以上が9件、0・1メートル未満が6件、床下浸水が98件の計113件で、その約8割が藤島地域に集中した。被災した住宅のうち、被災した本人から市に申請のあった応急修理や修繕への支援は、全て完了した。
農地は水田105件と畑12件が被災し、7月23日時点で復旧済み114件、着手済み3件となっている。
農業用施設は水路135件、道路70件、頭首工17件、揚水機7件、ため池1件の計230件が被災し、復旧済み223件、着手済み7件。
藤島地域、京田川沿いの水田
藤島地域の三和町内会は昨年12月、「京田川改修に関する要望書」を鶴岡市に提出した。要望書では市を通して国と県に①京田川に架かる京田橋を延長して川幅を拡張②河川支障木を伐採除根して堆積物を撤去③京田川を最上川から分離して単独で日本海に流す④保水林や遊水池、貯水場所を確保―の4項目を求めた。
さらに京田川沿岸地域の住民が主体となって「京田川改修促進期成同盟会」を3月に発足した。
市土木課では要望書などを受けて同既成同盟会と県、市による現地視察を4月に、同同盟会と国、市による視察を6月に行い、支障木の状況や土砂の堆積場所などを確認した。市は今後、国と県に改修の実現を働き掛けていく考え。
酒田市は、大雨の際に冠水被害が生じる恐れのある市内18カ所の道路の冠水状況を、市民向けオンライン市役所「さかたコンポ」登録者で冠水情報の受信設定者に、4月15日から即時配信している。
酒田市土木課雨水対策室によると、市は市雨水管理総合計画の策定に向け、策定業務の一般競争入札を5月13日に行い、上下水道・環境分野に特化した調査会社「(株)東京設計事務所山形事務所」(山形市)が税込み2035万円で落札した。
予定価格の同2569万6千円に対する落札率は79・2%。入札には4社が参加し、1社は辞退、3社が応札した。契約期間は入札実施日から26年3月13日までの10カ月間。
同計画では、雨水の排除に向けて整備する「酒田市公共下水道計画(全体計画は1915・50ヘクタールで、うち1156・89ヘクタールは事業着手済み)」区域内の地区ごとに、浸水の危険性や投資額、対策方法などを検討する。それを踏まえ短期ではおおむね5年間、中長期では同30年間の期間をめどに、対策方針と対策地区を定めていくことにしている。
豊田宏昭・市雨水対策室次長は「酒田市ではこれまで、浜田貯留槽工事などを行って雨水対策を進めてきたが、全体計画の面積が1915・50ヘクタールと広く、雨水対策が県内の他市町村に比べて遅れていることは否定できない。市雨水管理総合計画の策定に向けては、(市土木課内でも)富士見町1、2丁目と東中の口町について、対策の優先度は高いという認識を共有している」と話している。