郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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本紙主催 新春座談会
「楽しい」が原点、広い世代で習慣に
東京五輪開催、庄内のスポーツ振興を語る[中]

 本紙主催新春座談会「東京五輪開催、庄内のスポーツ振興を語る」の2回目は、健康寿命を延ばすためにもスポーツを習慣化することが大切なことや、スポーツを始めるためのきっかけづくり、広い世代が親しむための取り組みなどについて掲載する。司会は本紙編集委員・戸屋桂。文中敬称略。

小林恵氏
トライアスロン選手
小林 恵
1972年酒田市浜中生まれ。2004〜16年全日本ロングトライアスロン強化指定選手、12〜15年国体県代表。佐渡国際トライアスロン女子優勝、ウルトラマン世界選手権女子総合5位ほか入賞。庄内みどり農協営農指導員。

杉野森大輔氏
鶴岡東高等学校卓球部監督
杉野森大輔
1969年青森市生まれ、中央大学卒、鶴岡東高校教諭。日本スポーツ協会卓球公認コーチ、山形県卓球協会常任理事。県総体14連覇、東北大会5連覇。全国高校総体6年連続入賞(2008年3位、14年3位、18年2位、19年3位)

横田謙人氏
東北公益文科大学硬式野球部監督
横田謙人
1970年神奈川県生まれ。小学2年〜大学は米カリフォルニア在住。ローソン硬式野球部で内野手として活躍。羽黒高校硬式野球部長、監督を経て現職。公益大は14、19年に南東北大学野球連盟1部秋季リーグ優勝。

木村 守氏
日本海総合病院副院長
木村 守
1964年山形県西川町生まれ。山形大学医学部卒。1998年より地方独立行政法人県・酒田市病院機構日本海総合病院に勤務し糖尿病、甲状腺疾患を担当。日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。日本内科学会認定内科医。

菅原正志氏
庄内町教育長
菅原正志
1950年庄内町(旧余目町)生まれ、立正大学卒。鶴岡東高校でサッカー部監督を長く務め、モンテディオ山形アカデミーグループコーチ・統括を経て現職。全国高校サッカー選手権大会3回、インターハイ2回、天皇杯1回など。

佐藤香奈子氏
NPO法人元気王国理事長
佐藤香奈子
1972年酒田市生まれ。中央大学経済学部卒業。2006年に元気王国を設立し、各種スポーツの普及や強化、地域の体力アップ事業などに取り組む。健康運動指導士、産業カウンセラー。(有)とがしスポーツ代表取締役社長。

健康寿命の期間延長にも大切

司会 健康づくりにおけるスポーツの役割は。
木村 寿命が延びて高齢化が進んできている。寿命が延びることは良いことだが、それに伴って介護が必要な期間も延びてきているのが問題。介護期間は男性も女性も10年くらいある。この期間を短くしていかないと、介護費用と医療費がかさむ。そのため介護を必要としない健康寿命の期間を延ばすことが目標になっている。
 介護が必要になる原因としては、60〜70歳代ではメタボリックシンドロームに伴う脳卒中が多いこと。さらに70歳以上の高齢者になってくると、体力的な衰え、筋力低下に伴って転びやすくなり、骨折して動けなくなることや、関節疾患、認知機能低下が原因になることが多い。また体力が落ちてくると感染しやすくなり、そこから寝たきりになることもある。
 その辺を予防するために必要なものというと、体を動かすことが一番医療費のかからない予防になる。メタボリックシンドロームを予防するのにも、高齢による筋力低下を予防するのにも、スポーツは有効だが、高齢者にスポーツを始めましょうとはなかなか言えないので「なるべく体を動かしましょう」と勧めている。しかし、病院に来た患者さんに「運動をしていますか」と聞いても、やっている人は少ない。
 私は糖尿病の患者さんを多く診ている。糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本で、プラスアルファで良くならない時にお薬を使ったりする。運動療法は誰でもすぐにできるが、なかなか皆さんやらない。
 入院治療の際には、以前はリハビリ室を使わせてもらい、自転車のペダル漕ぎをするなど、そういう運動をお願いできていたが、残念ながら入院中の患者の運動療法には保険の点数が付かないため、病院が忙しくなってくるに伴って手が回らなくなり、できなくなってしまっている。
 酒田市で2017年度から「さかた健康チャレンジ」をやっているのを、ご存じだろうか。 タニタ健康プログラムを利用して活動量や体の状態を見える化し、楽しみながら健康づくりができる仕組み。1800円の参加料を払うと6千円の活動量計をもらえる。これで1日の歩数や総消費カロリーなどを見ることができる。市役所や中町にぎわい健康プラザなどに持って行くと、歩数がカウントされて、それが皆さんの競争のような形になってポイントが付く。
 3カ月間で歩数計によって順位が付いたり、賞品をもらえたりする。とっても良いと思っているが、まだ参加している人が500人くらい。少し宣伝が足りないと思う。
 あとは運動の指導もできればいい。元気王国では高齢者向けの教室を開いていないのか。コミセンなどでやってもらうと良いのでは、という気がする。そういうことも行政が動いてくれないとなかなか進まない。
佐藤 この間、私たちはどれだけの方々に運動指導をしているのだろう、ということで集計してみた。1回のみの指導は省き、月2回、週1回などと常に接している運動教室では週に591人を数えた。その9割は65歳以上で、酒田市内だけでなく遊佐町にも非常に多く、庄内町も多い。男女比では98%が女性。集団指導となると男性はあまり出てこなくて、女性が大半を占める。
 無料ではなく1人当たり1回千円弱の指導料をいただく形式で教室を運営しているが、週2回なり月4回なり、月額3500円くらいを払って運動しに来ている。こんなにたくさんの方がいるのだ、と感じている。
 ただ、そういうところに参加しようとする方は情報受信能力が優れ、健康への意識が高い人がほとんどだと思うので、そうでは無い方へのアプローチが課題だと常々感じている。


スポーツ専門員が町全体で指導

菅原 木村先生のおっしゃっているように、年を取ってから運動習慣を身に付けることは、なかなか難しいように感じる。できれば若い時から運動習慣を持ってもらえればと考えている。
 庄内町では18年から総務省で実施している地域おこし協力隊制度を利用して、スポーツ専門の推進員を1人採用した。
 この人は神奈川県内の私立高校サッカー部でコーチを務め、インターハイでチームを準優勝に導いた30歳の若い男性。総合型地域スポーツクラブと関わり合いながら3年間の任期で、庄内町のスポーツ全体の指導をしてもらっている。
 町内に五つある町立幼稚園を順番に回り、鉄棒や跳び箱、サッカーなどのボール遊びで運動の楽しさを伝えてもらっている。かなりの効果があり、園児が鉄棒の蹴上がりをできるようにしてくれたり、小学校の体育にはTT(チームティーチングの補助教員)として入り実技をやってみせたりしている。中学校の部活も足りないところを見てもらっている。
 それから公民館に呼ばれて、おじいちゃん、おばあちゃんたちの体操教室も実施する。スポーツ専門の指導者が人口2万人の町を回り、保育園の3歳児から一番上は95歳くらいまでの高齢者と接しながら「スポーツ指導は彼にお願いしよう」というふうになってくれればと願っている。
 彼が来るまでの健康指導は、保健師さんや町の保健福祉課の職員が出向いて、おじいちゃん、おばあちゃん用の体操をしてきたが、若い彼が指導に行くと、おじいちゃん、おばあちゃんたちがとても喜んでくれる。
 指導が終わって帰ろうとすると、呼び止められて、お茶や漬物をごちそうになったりしているとか。


音楽とペアで訪問指導

菅原 彼の奥さんも体育学部出身の陸上専門の方で、彼と一緒に庄内町に来てくれた。彼女も中学校の部活動の指導を担っていて、時間がある時は夫婦で一緒に高齢者の事業に出向いている。子供が昨年生まれたが、高齢者の集いに赤ちゃんを連れて行くと、おじいちゃん、おばあちゃんたちが大喜びしてくれる。
 幼児から高齢者までスポーツをする習慣を持てるような指導の体制をつくろうというつもりで、彼に活動してもらっている。
 また、今回のテーマとは直接関係ないが、庄内町では、スポーツだけでなく音楽活動でも同じような仕組みを作れないかと考えている。地域おこし協力隊の制度を活用して、音楽(声楽)の若い女性の専門家に来ていただいている。
 響ホールを拠点として幼少児や中学生、町内の合唱グループ、高齢者の音楽活動などで指導してもらっている。スポーツ指導の彼とペアで訪問すると、体操の後に歌を歌ったりして幅広い活動が可能になり、特に高齢者の方々からは好評。
 音楽とスポーツ指導を両輪として盛んにしていきたい。できればスポーツ指導で来ている彼には、任期後も町内で活動していただきたいと考えているので、総合型地域スポーツクラブなどと調整していこうと思っている。


子供がきっかけで運動を再開

司会 スポーツは若いころから習慣化することが大事ということだが、小林さんが運動を始めたきっかけは。
小林 きっかけは完全に息子。子供がちょうど自転車を欲しがったので与えたのがきっかけで走り始めた。子供は自転車に乗り、自分は走ろうかと。走り始めると、大人になってから運動を始めるのは大変というのは本当にその通りで、最初は100メートルも走れなかった。
 小学校のころはあんなに走っていたのに100メートルも走れないんだ、と自分に自分でびっくりした。それから少しずつ距離を延ばして、子供が30キロ先まで自転車で行くという時に、伴走してもらいながら一緒に走れるようになった。
 そうすると土、日になると「今日はどっち方面に行こうか。鶴岡の方、酒田の方」と聞かれるようになった。「今日は鶴岡方面に行こう」となると、子供は自転車で、私は走って鶴岡までの約20キロを往復した。
 鶴岡に着いたら、ちょうど毎年開催している鶴岡100キロマラソンをやっていて、子供は小学校3年生だったが「自分も走ってみたい」と言うので、乗ってきた自転車を置いて参加した。これは日本で一番古い100キロマラソン。北海道のサロマ100キロマラソンが一番古いと皆さん思っているが、本当は鶴岡が日本で一番古い。砂利道などもある10キロのコースを10周する、つらいコース。
 1周くらいと思って走らせたら、もっと走りたいというのでもう1周走り、結局3周して30キロ走った。小学3年生でも1キロ6分ペースで走れるんだ、と感心した。でも、この子は浜中まで20キロを自転車で戻らないといけないのが分かっているのかなと思っていた。それでも「もしぇけ(面白い)、もしぇけ」と言いながら帰ってきた。
 少しずつ楽しみながら体力が付いていたようで、小中学校では陸上の専門の練習もしていないのに、光ケ丘で開かれる酒田市の大会では、いつも長距離で市内1位とかを取っていた。でも練習ではない。毎回毎回、ただ自転車で自分が好きな所に行きたいだけで、走る練習はほとんどしなかった。


集落を歩くだけで体力は付く

小林 職場の上司の三人娘が使った真っ赤な自転車をお下がりでもらって息子に乗らせた。それでも息子は「俺の自転車だ」と喜んで結構な距離を走り、それが体力づくりになったのかなと思っている。小さいころは、特に男の子はお母さんと一緒にいるだけでもうれしい。一緒にその辺を歩くだけでも体力は付くのではないかと思う。
 私と息子が村の中を走っていると、同級生たちや同じ浜中小学校の上級生たちがついてきて、面白そうだからと言ってだんだん増えていった。体力の無い子はこのくらいでと途中で脱落したり、また途中で入ってきたりして、村の中をおしゃべりしながら回っているだけでも、子供たちが結構ついてきた。
 そのくらいで、息子はスポ少などに一度も入ったことが無い。お金が無いと行政が言うのであれば、またクラブには女性しか顔を出さないというのなら、村を歩くぐらいでも、いくらでも体力は付くよと思う。
 子供たちはゲームに夢中という話があったが、息子は25歳になった今でもゲームには触ったことが無いくらいで、やっと今、携帯(ガラケー)を持ったというくらいなのだが、小さいころから体を動かすのが好きだった。庄内町のようにどなたかに住んでもらい、任せられる環境があればよいが、親も大事なのではないか。
司会 選手たちは社会人になってどのようにスポーツを続けているか。
横田 野球部で今年も4年生4人が硬式で社会人野球を続ける予定。羽黒高校の教え子にはNTT東日本、東京ガス、三菱等の社会人野球で硬式野球を続けた選手もいる。プロ野球に進んだ選手もいる。


憧れをつくる機会が大事

杉野森 「目標=憧れ=競技力の向上プラス地域全体のレベルアップ」という図式になると思うので、生徒たちにはできるだけ早期に意識付けすることが重要になる。
 私は早い段階から実業団やTリーグの指導者、大学生を本校に呼んで、一緒に練習してもらい、コミュニケーションを取る機会も設けている。生徒たちは憧れの選手に接し、ユニフォームやサインをもらうことで夢が膨らむ。生徒たちがそこから得るものは今後の大きな財産になる。
 意識付けや明確な目標、情熱があれば、指導者になりたいと考える生徒は指導者をよく研究し、自分が目標とする指導者をまねるようになる。私も恩師に憧れて教師、指導者を目指した。トップ選手になりたいと思う選手は、そういう環境に入れてやるとトップ選手のまねをするようになる。
 皆まずはまねから入るので、それがさらに強い憧れになって、夢がどんどん膨らんで、目標に向かっていく原動力になる。また生徒も、自分が子供たちにまねされても困らないように、人間力を身に付けようと努力する。
 本校卒業生には実業団の選手もたくさんいるし、プロ選手や教師、公務員もいる。与えられた場所で、それぞれの立場で、子供たちに憧れを植え付けていく役目を自覚していると思うし、そういう役割を果たしてくれているのではないか。
司会 社会人になるとスポーツをする時間を確保するのが難しい面もある。きっかけ作りとかの方法は。
佐藤 一つの切り口として今、言葉が浸透しているのが「健康経営」だと思う。企業にとって従業員の高齢化にきちんと対応していくことがますます求められるし、高齢化に伴うリスクを減らすことが経営力強化になる時代だ。
 会社に運動指導しに来てくれないか、生活習慣はどうやって変えていったらいいのかという相談を受ける回数が増えたと思う。そういう時に、経費や労力を掛けた分、効果はどうなのかを見せていけるようなコンサルタントが必要となる。
 従業員の健康を守ることが、企業にこれだけのメリットがあるよ、と数値化できるのが健康経営の神髄だと考えるが、まずは健康経営を宣言する企業を増やすことも大切。今後は、リスクを抱えている状況を自覚する経営者が増えていくのではないか。
 東京商工会議所では、中小企業経営診断士や税理士など企業と密接な関わりを持つ「士業」の方が、さらに資格を受ける形で、「健康経営エキスパートアドバイザー」という資格を認定している。こうした取り組みで健康経営を目指す企業が増えることで、働いている若い人の運動の機会が増えていけば、それも良いのではないか。


運動する場面を増やそう

菅原 町のスポーツ公園を夜に見に行くことがあるが、サッカーだけでなくソフトボールやテニスなどさまざまなスポーツをやっている。そこでもったいないなと感じるのは、スポーツ少年団の子供たちを迎えに来るお母さんたちが、車の中でスマートフォンをいじっている姿を見受けること。この時間が本当にもったいない。

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座談会は12月7日、三川町なの花ホールで開いた

 町の第2屋内多目的運動場の2階は1周200メートルほどのウオーキングコースになっている。ある時サッカーをやっている子供のお母さんたちに「あそこを歩きながらでも子供たちの姿が見えるよ」と話したら、2〜3人のお母さんたちが誘い合って歩くようになった。全員ができるわけではないかもしれないが、車の中でスマートフォンをいじっているだけの時間は、もったいなくてしょうがない。
 ある総合型地域スポーツクラブでは、子供たちが体育館でバスケットボール、バレーボール、バドミントンをしている間に、お父さん向けのマージャン教室やお母さん向けの生け花教室、踊りの教室などを開いている。総合型地域スポーツクラブでその発想はすごいな、と思った。スポーツは子供がやるものだという考えを変えていかなければだめなのかもしれない。スポーツをする「場面」はまだまだ作っていける。
司会 いろいろなスポーツ、趣味ができるという情報を、どうやって発信するかが重要だと思う。行政で全てをやるというのも難しいと思うが。
菅原 そのためにもぜひ体育協会の活動に期待したい。


楽しさを入り口に継続へ

司会 中高年の健康づくりや生涯スポーツをさらに推進していくためには、どんな取り組みが必要か。アメリカでは高齢者でもスポーツをしているイメージがあるが、それはなぜなのか。
横田 アメリカは土地が広く公園もたくさんある。小さいころからいろいろなスポーツができる環境もある。各スポーツがシーズン制なので、私もバレーボール、野球、アメリカンフットボール、ゴルフをやった。高齢者の運動不足解消は大きな問題だが、大事なのは意識。日本では二世帯で住み、おじいちゃんおばあちゃんが家事をすることが多いと思うが、アメリカでは18歳で独り立ちして親と離れて住むのが当たり前。なので、おじいちゃん、おばあちゃんが自分のために時間を使うことができる。
司会 自分のライフスタイルにスポーツを組み込むことを意識することが大切なのかもしれない。
横田 アメリカではスポーツ=エンターテインメント。プロスポーツの盛り上げ方が非常にうまい。地元のプロチームを地域が一丸となって応援する文化がある。
司会 障害者スポーツについても考えたい。障害者は一般の人よりもさらにスポーツの機会が少ないように思うが、これをさらに推し進めるためにどんなアイデアがあるか。
横田 菅原教育長がおっしゃったように、スポーツを楽しいと理解してもらうことが重要。アメリカではスポーツの楽しみ方から教える。障害者でも、運動をしたことが無い苦手という人でも、楽しみ方から教えると続けることができると思う。庄内町では若い指導者がいろいろなスポーツを教えて歌も教えているということだったが、楽しいということを意識すれば、自然にスポーツを始めると思う。小林さんの息子さんも走ることが楽しかったから走った。スポーツは苦しい、痛いというイメージがあるからやらない。
小林 スポーツの語源には「楽しい」という意味が入っている。楽しくなければスポーツじゃない。


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