郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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遊佐酒田洋上風力発電問題
海底活断層と同位置に風車建設
地震工学の専門家が学習会で指摘

 洋上風力発電の事業化に向けた3段階ある手続きのうち、最終段階の「促進区域」に指定された遊佐町沖では国が発電事業者の公募を進め、2段階目の「有望な区域」に選定された酒田市沖では住民を対象に山形県と同市が意見交換会を始めようとする中、庄内住民による学習会が18日、遊佐町生涯学習センターで開かれ、海底活断層とほぼ同位置に促進区域や有望な区域が指定・選定されていることが報告された。学習会では、地震や津波の影響は指定・選定の検討項目に無いこと、洋上風力発電施設では耐震設計は行われておらず、その方法が見つかっていない実態も明らかになった。(編集主幹・菅原宏之)

本県沖の活断層は未評価状態

 学習会は、洋上風力発電事業に不安や不信感を抱く庄内地域の住民でつくる「鳥海山沖洋上風力発電を考える会」(菅原善子・三原容子・佐藤秀彰共同代表)が主催した。酒田、遊佐両市町の住民を中心に、秋田県由利本荘市の住民など県内外から計170人が参加した。

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参加者からの質問に答える鈴木氏(左)

 地震工学が専門で耐震設計に詳しいNPO法人防災推進機構理事長兼山梨大学名誉教授の鈴木猛康・全国再エネ問題連絡会共同代表が「日本海東縁部地震帯による地震災害のリスク~能登半島地震の教訓を生かす~」と題して講演した。
 日本海沿岸には日本海東縁部地震帯と呼ばれる地震の巣があり、能登半島地震(マグニチュード7・6)を発生させた沿岸地震断層を含め、新潟県から山形県、秋田県、青森県、北海道沖では、数多くの海底活断層が確認されている。
 これを踏まえ鈴木氏は、奥尻島に短時間で30メートル超の大津波が押し寄せた1993年の北海道南西沖地震(マグニチュード7・8)、津波で児童を含む100人超が犠牲になった83年の日本海中部地震(同7・7)、64年の新潟地震(同7・5)など、日本海東縁部地震帯と過去の大地震を取り上げ、能登半島地震もこの中の一部になる、と解説した。
 その上で「この海底活断層とほぼ同位置の日本海東縁部の沿岸に、(政府は)再エネ海域利用法に基づく『促進区域』や『有望な区域』を指定・選定しているが、地震や津波の影響は指定・選定の検討項目に挙げられていない。能登半島のような地震が日本海東縁部で発生すれば、洋上風力発電施設はどうなるのか。本当に大丈夫なのか心配になる」と危機感を露わにした。
 関連して、文部科学省の地震調査研究推進本部による地震発生可能性に関する長期評価が、新潟県~北海道は、まだ終わっていない現状も取り上げた。
 日本に分布する内陸活断層約2千のうち、マグニチュード7以上の地震を起こすような、主要な活断層約100の長期評価は終了している。しかし日本海沿岸の海底活断層の長期評価は実施中で、能登半島地震を引き起こした震源断層の長期評価は実施中だった。新潟県~北海道は未評価状態となっている、と説明した。
 その上で、遊佐町や酒田市で策定している地域防災計画に触れ「長期評価が出て初めて、その地震が起こった際の揺れを計算できる。長期評価の震度があれば、家屋の倒壊件数、死者数、ライフラインの被害が決まるので、震度が無ければ地域防災計画を作ることはできない。石川県では震度5強の揺れしか発生しない地域防災計画になっていたが、海底活断層を入れると震度は7になる」と述べた。

津波の考慮方法は未記載

 国土交通省が策定している着床式、浮体式それぞれの洋上風力発電に関する施設技術基準と津波の取り扱いの実態にも言及した。
 鈴木氏は、このうち同省海事局が2023年3月に策定した浮体式洋上風力発電施設の安全ガイドラインを紹介。その問題点に―
▼津波の影響は「その他の荷重(構造物の全体か構成部分に加わる力)として考慮する」とあり、係留装置の安全性評価について何ら具体的な記述は無い。
▼同基準の付録に「最大津波の想定を行うこと」と記述しているが、日本海東縁部では津波シミュレーションは行われておらず、津波による影響を考慮する具体的な方法(解析モデル)は未記述となっている。
▼船舶などと浮体式洋上風力発電施設の衝突は、シミュレーション例が示されているのみとなっている―ことなどを挙げた。
 さらに、沿岸の海底活断層で破壊が生じると、数分~10分で津波が海岸に到達することから、船舶は沖へ避難する時間的余裕が無い。このため東日本大震災の時と同様に、津波の動きとともに船舶、自動車、倒壊した住宅などが、陸と海の間を往復することになる、との見方を示した。
 そして「日本海東縁部で海底活断層が動けば、(洋上風力発電施設に)船舶や住宅が衝突する確率は高く、これに関して検討してもらいたい。防災上では、計画を一旦ストップし、洋上風力発電施設の耐震設計をやり直してもらえれば良いと思っている」と述べた。

著名研究者らが次々と問題指摘

 鈴木氏はまた、国内の著名な研究者たちが洋上風力発電施設の問題点や課題を、どのようにとらえているのかなども紹介した。
 旧運輸省(現国土交通省)の外郭団体・一般社団法人沿岸技術研究センターの清宮理参与(早稲田大学名誉教授)は▼欧州では地震経験が無く耐震設計法が未熟▼日本での審査は高層建物を対象とした建築基準法に準拠▼上部構造と支持構造物の耐震性能の再整理が必要―などと指摘。
 風車規格の風条件では、風速毎秒50メートルがクラスI、同42・5メートルが同Ⅱ、同37・5メートルが同Ⅲとなっているが、台風の大型化への対応として同50メートル以上のクラスSをつくらなければいけないと話している、と語った。
 その上で「清宮参与は、我が国では台風や地震、落雷などがあり、地盤を含めて根本的に欧州と自然条件が違う。海外の技術導入が前提となっている日本の洋上風力発電施設では、設計計算モデルや解析のための入力定数の取り扱い方法などが十分に固まっていないため、『耐震設計法を再検討する必要がある』と述べている」と話した。
 さらに一般社団法人防災学術連携体が1月末に開いた、能登半島地震・1カ月報告会の際に、大型海洋構造物の津波に対する安全性は検討されているのか、と質問したことを紹介した。
 これについて津波研究の第一人者で東北大学の今村文彦教授は「浮体式の洋上風力発電施設に対する津波設計法は、私の知る限り研究されていない、と回答した」とも説明した。
 鈴木氏は最後に、安全・安心な洋上風力発電の開発に向け、促進区域の指定、有望な区域の選定などの前に行うべきこととして①海底活断層の地震活動を評価する②海底活断層地震による揺れ、地盤変動、津波を評価し、最悪の事態を考える③台風、地震、津波、落雷などを考慮し、日本の自然条件を正しく評価した洋上風力発電施設の設計方法を確立する④陸上風力を含め、ブレード(風車の羽根)やナセル(タワーの上に取り付けられた機械室)のモデル化と風、揺れ、衝突に対する挙動を明らかにし、台風、地震、津波の影響を正しく評価する⑤設計の妥当性を審査する第三者機関を設け、その審査結果を公表する―ことを挙げた。
 そして「発生する事故・被害と、その規模・確率は明示することができる。それを示した時に、受け入れるのかどうかの二択になる。洋上風力発電による恩恵と、それによって発生する事故の確率を考え、受け入れても良ければ事業を実施し、拒絶するのであれば中止するべき」と述べた。

国策で大悲劇が発生も

 その後の質疑応答で、参加者からは「洋上風力発電の導入海域は、県が国に情報提供するシステムになっている。この情報提供の段階で地震や津波の影響を調べるか、法定協議会の場で地震や津波の影響に関する説明をするようにはできないのか」との質問が出た。
 鈴木氏は「私もできる限りのことはしようと思っている。例えばメディアを通じて、この事実を広く公表すること。そして研究者がこうした問題に関わるように、少しずつ友人を引き込んでいる。経済産業省の役人は、我々から見れば素人。 そういう方があまりはっきりと『安全だ』『こちらが良い』『こう考える』などと言うべきではない。まずは科学者が、本来は科学者の団体が旗を上げ「しっかりと検討しましょう」と言ってくれるのが良い」と答えた。
 「着床式の洋上風力発電施設に対しては、地震による液状化で抜けることを懸念する声がある。それにも関わらず、導入を進める国策を、どう評価したらよいのか」という質問もあった。
 鈴木氏は「あり得ないことで、大悲劇が発生すると思う。1本だけならまだ良いが、それが何百本も並んでしまう。浮いたブレードが中国やロシア、海流に乗って米国に流れ着くかもしれず、本来は日本だけの問題ではない。諸外国は『耐震設計の進んでいる日本が取り組んでいるのだから、大丈夫だろう』と思ってしまう。しかし実態は、耐震設計は行われておらず、その方法がまだ見つかっていない」と述べた。
 さらに「陸上の風力発電施設では、過去8年間で33件の事故が発生している。倒壊やブレードが落下しても人的被害を防ぐ安全対策を、なぜ国は取らないのか」との質問も出た。
 鈴木氏は「私であれば、ナセルやブレードが落下した際に、それを受け止めるような設備を造らなければいけないと言う。洋上風力発電施設も壊れたものが流れたら困るので、それを防ぐようなものを造らなければいけないと思う。設計者として委託されれば、必ずそう答える。能登半島地震では二つのブレードが落下しているが、本来は調査委員会を開いて対策を検討する。それがなされていないのが実情」と語った。

専門家を加え事実を指摘

 参加者からは、出羽三山の大規模風力発電計画と、加茂地区の風力発電事業が中止になった鶴岡市での対応を挙げ「署名のほかに住民に対する働き掛けでできること、(今回の学習会で示されたような)情報を住民に正しく理解してもらうにはどうしたら良いのか」を問う声も上がった。
 鈴木氏は「市民の声が無いと行政は動かない。署名の数も有効だが、専門家を少し加えること。私は全国再エネ問題連絡会の共同代表を務めているが、そこには河川や防災の専門家、鳥類・生態系の専門家などがいて、(住民の)活動を支援する場合がある。事業者側はコンサルタントなどを使って都合の良い見解だけを示すが、専門家が事実を指摘すれば、何も言えなくなる。それをマスコミに伝え、県に伝えることで変わることもある」と答えた。
 そして全国再エネ問題連絡会に触れ「社団法人への衣替えを予定している。全国のネットワークを作ることが、日本のエネルギー政策を変えることになるのではないか、との思いで取り組んでいる」と述べた。
 関連して三原共同代表は「酒田市・遊佐町と鶴岡市とでは違いがある。一つは、市長が『もうやらない』と表明したこと。また出羽三山は全国・世界から修行に訪れるし、加茂の風力発電はラムサール条約登録湿地に近いので、鳥類愛好家たちにうまく訴えることができた」と話した。
 菅原共同代表は「再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電は、国、都道府県、市町村が一体となって進めており、動き始める段階ですでに地元自治体の了解を取っている。このため出羽三山や加茂の風力発電のように、地元の首長が反対や懸念を示すことはまず無い。そこが決定的に異なる。吉村美栄子山形県知事は、出羽三山と宮城蔵王の風力発電に対しては否定的な反応を示したが、遊佐町沖の洋上風力発電には『観光資源になる』と言っている。山形県庁が庄内を向いていない難しさが遊佐町沖と酒田市沖の洋上風力発電にはある」と指摘した。

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