酒田市沖への洋上風力発電の導入可能性を地元関係者らで議論する県地域協調型洋上風力発電研究・検討会議「酒田沿岸域検討部会」(部会長・三木潤一東北公益文科大学公益学部長、委員35人)の第6回会合が2月25日、酒田市内で開かれ、地震津波や低周波音による影響を懸念する意見や、内水面漁業への配慮不足を批判する意見が相次いだ。会合では、地震津波や低周波音の不安解消に向けた提言も出たが、傍聴した一般住民からは一部委員の認識不足を指摘する声も聞かれた。県は再エネ海域利用法に基づく法定協議会の設置を提案したが、同日の意見を踏まえて論点を整理し、設置するのかどうかを国と調整していく考えを示した。(編集主幹・菅原宏之)
酒田沿岸域検討部会は、地域住民の代表者や漁業関係者を含む海域利用者、有識者、経済団体の代表者らで構成する。この日はオンラインを含め委員など関係者約60人が参加した。
活発に意見が交わされた酒田沿岸域検討部会
尾形修一郎・山形県鮭人工孵化事業連合会長理事は「山形県から放流したサケは、秋田、青森、北海道を大きく回遊するが、放流した時の稚魚はわずか1センチ。洋上風車の周りに魚を増やす装置を設置すれば、稚魚が海に出た時に傷んで(食べられて)しまう。これは山形県だけの対応で済む問題ではない。どういう配慮があるのか聞きたい」と迫った。
関連して桂和彦・山形県内水面漁業協同組合連合会参事は「これまでの酒田沿岸域検討部会で『事業化想定海域の南側に海面漁業者の定置網があり、サケだけでなく、内水面漁業者が放流したサクラマスも海面漁業者の収益につながるため、海面と内水面を一体的に考えていく必要がある』と訴えてきた」と指摘した。
その上で、県が同部会で示した海面漁業の協調策・振興策として想定される取り組みイメージ図に言及し「どうして内水面漁業の協調策・振興策の想定取り組みイメージ図は出てこないのか。イメージ図に集魚灯と書いていること自体、内水面のことを全く考えていない」と厳しく批判した。
同部会では、事務局の槙裕一・県エネルギー政策推進課長が「今後は学識経験者の知見を交えながら、酒田市沖洋上風力発電の導入可能性について、さらに検討を深めていくことが適当と考えている」と、法定協議会の設置を提案した。
部会終了後、槙課長は本紙の取材に「事前の論点整理が必要と感じた。今日の議論を踏まえ、法定協議会を設置するのかどうかを国と調整していく」と話した。
同部会を傍聴した一般住民の間からは、一部委員の認識不足や情報不足に基づく発言に対し、批判や反論の声などが聞かれた。
洋上風力発電の事業化に疑念や不信感を抱く庄内の住民でつくる「鳥海山沖洋上風力発電を考える会」事務局の梅津勘一氏は、日本で津波地震研究の第一人者の今村文彦・東北大学災害科学国際研究所教授と鈴木猛康・山梨大学名誉教授の2人は、昨年9月に酒田市で対談と講演を行い、鈴木名誉教授は同5月にも同市で講演をしている、とこれまで経緯を説明した。
そして「今日は地震津波や低周波音による影響などを、専門家に説明してほしいという声があったが、当会では、こうしたテーマで学習会を開き、専門家の知見を聞いている」と話した。
その上で、洋上風力発電施設が地震や津波の安全基準をクリアしていることをアピールするべき、との意見を取り上げ「地震や津波に関し、どれだけの強度があれば大丈夫かといった数値、安全基準は無いのが現状。今村、鈴木両教授の見解は『未実施の文部科学省による海底活断層調査が終わり、具体的な設計方法や強度が決まるまで(事業化は)待つべき』というものだった」と指摘した。
同会の菅原善子共同代表は「専門家の話は聞くべきだが、県や市が主催する場合は、講師などに事業化の推進に不都合なことは言わない御用学者を選ぶ可能性がある。秋田県がその典型例」と話した。