郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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全文掲載

遊佐洋上風力発電
住民から懸念や質問、要望相次ぐ
発電事業者が初の住民説明会

 遊佐町沖に導入する洋上風力発電の発電事業者に選定された「山形遊佐洋上風力合同会社」(本社・東京都)主催の住民説明会が、3月22日に同町内で初めて開かれ、洋上風車までの離岸距離や低周波音による健康被害、海底湧水への影響を懸念する声のほか、冬場の事故対応、地震津波対策などで質問や要望が相次いだ。事業予定海域では、4月から海底地盤調査が始まっている。一方、松永裕美・遊佐町長宛に、日本海東縁部地震帯で発生する地震津波対策などに関する要望書を提出していた、庄内地域の住民団体は3月18日、町長と面談し、回答を踏まえ意見交換を行った。(編集主幹・菅原宏之)

15メガワットで2キロ先は世界初

 山形遊佐洋上風力合同会社は、総合商社の丸紅(株)(東京都)、総合建設業の(株)丸高(酒田市)、関西電力(株)(大阪市)、国際エネルギー企業BP(英・ロンドン)100%子会社のBPIOTA(ビーピーイオタホールディングスリミテッド)、東京瓦斯(株)(東京都)の計5社で設立した事業会社。
 経済産業、国土交通の両省から昨年12月24日、同町沖の発電事業者に選定された。説明会は、事業予定海域で4月から海底地盤調査を始めることから、地域住民に事業への理解を深めてもらうおうと開いた。山形県と遊佐町も共催した。

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遊佐町内外から約120人が参加した住民説明会

 当日は、町内外から約120人が参加した。合同会社側が事業概要や事業実施体制、工事計画、地域共生策の概要などを説明した。
 その後の質疑応答では、参加者Aから「遊佐町沖では15メガワットの大型洋上風車30基を、海岸線から2~5キロの至近距離に建てることになっている。だが10メガワット以上の風車を、海岸線から10キロ沖以内に建てている例は、これまで世界のどこにも無い」との指摘が出た。
 その上で「昨年11月30日の日本科学者会議で、風車騒音の観点と鳥類の研究の観点から、洋上風車を海岸線から10キロ以上沖に建てないと、不眠症による健康被害や渡り鳥への影響が増大することが明らかになった。今の計画で騒音による健康被害と渡り鳥への影響が生じないという科学的根拠を示してほしい」と迫った。
 これに対し合同会社側は「我々も15メガワットの洋上風車を、海岸線から2キロ沖に建てた例は確認していないが、だから事業ができないとは思っていない。前例がなければやれないとなると、何もできなくなってしまう。環境省が定めているガイドラインに沿い、予測・評価をしていく」と述べた。
 合同会社側の説明に参加者Aが「欧州では予防原則に立って海岸線から洋上風車までの距離を取っている。なぜそれができないのか」と反論する場面があった。  複数の参加者からは「欧州では、風車の超低周波音による健康被害が『風車病』として認定されている」「酒田市でも陸上風車で不眠や頭痛、耳鳴りなどの被害に遭っている人がいる」などと、低周波・超低周波音を含む風車騒音による健康被害を懸念する声が上がった。

生活環境「守る」と断言

 このうち参加者Bは、合同会社が地域共生策の重点領域の一つに「生活環境の維持・向上」を提案していることを取り上げた。
 そして「風車病が出た場合は、生活環境を維持できなくなるし、向上とはならずに生活環境が悪化してしまう。健康被害などの悪影響が発生し、生活環境の維持・向上が図られなくなった場合は、事業を中止する、事業から撤退すると考えていいのか」とただした。
 合同会社側は「継続的に環境影響評価を行っており、その手続きの中で健康被害があるのかどうかを確認させてもらう。そして何らかの懸念がある場合は、原因を確認した上で対応し、健康被害が生じないように対処していく」と答えた。
 これに対し前出の参加者Bが「生活環境の維持・向上は絶対に守ると理解していいのか」と強い口調で問うと、合同会社側は「守っていく」と断言した。
 参加者Cからは「不安を払うため、ある事態が生じたら、洋上風車の運転を『夜間は停止する』『即停止する』などといったことに関する書面を取り交わす必要がある」との意見も出た。
 参加者Dからは「海底に30基の支柱を打ち込むことで、鳥海山がもたらす海底湧水にどのような影響があるのか心配される。環境影響評価に地下水の流動状態を調べる調査を追加し、データを明らかにし、大丈夫だと実感できる形にしてほしい」との要望もあった。
 合同会社側は「これまでの文献と現地確認の結果、事業予定海域内に湧水点は存在しないことを確認している。今後どのような調査をすれば納得してもらえるのか検討したい」と答えた。
 これに対し要望した参加者Dは「事業予定海域内に湧水点は存在しないということだが本当か。地元の漁業者は『船の上から目視で確認できるような場所が何カ所もある』と言っている。事業予定海域内を全て調べた上で出た結果なのか」と不信感を露わにした。
 合同会社側は「これから湧水の有無を確認し、環境影響評価準備書で説明したい」との考えを示した。

地震津波対策に不安の声

 複数の参加者からは、船が連続欠航となる冬の荒天時に、油漏れや火災といった事故が起きた場合の対応をただす声も上がった。
 合同会社側は「災害対応で最も必要となるのは、船で現場まで行けるのかどうか。このためセップ船と呼ばれる足が4本付いている船など、冬の厳しい海象条件の中でも運航できる大型船を選択肢に持って対応していきたい」と答えた。
 複数の参加者からは、地震工学・地域防災学の専門家の鈴木猛康・山梨大学名誉教授が「日本では風力発電設備の技術、基準はあるが、震度6以上の大地震でも倒れないレベルの設計方法は確立されていない」と指摘していることなどを取り上げ、地震津波対策への不安を訴える声も出た。
 合同会社側は「日本では、地震は500年に1度の地震、台風は50年に1度の台風に耐えられるのかどうかの手続きを経ないと、適合性確認の承認が下りない。承認が得られる限りにおいて事業を進めていくことから、日本の厳しい基準に耐え得るもので設計を進めていきたい」と述べた。
 参加者からはほかに―
 ①漁業権に関する損失補償は、県漁協のほかに、1人1人の漁業者との関係もある。県漁協だけではなく、個別の漁業者たちとの話し合いは考えているのか。
 ②米国では、耐用年数の過ぎたブレード(風車の羽根)は、砂漠に埋設処理している。洋上風車の羽根の長さは1枚120メートルほどだと思うが、陸上輸送のできない大きさ。羽根や支柱のリサイクル方法を聞きたい。
 ③遊佐町沖での事業が終わった後、海をどのようにして返してもらえるのか。撤去方法はどうするのか ―といった質問もあった。
 これらに合同会社側は―  ①には「これまでは県漁協と今後の進め方を中心に議論してきたが、これからは漁業振興策を中心に議論するため、(個別の漁業者たちと)どうしていくのかを積極的に話し合っていきたい」と述べた。
 ②には「撤去後の処分方法では、洋上風車の羽根を細かく砕いて埋め立てるのが一般的。撤去は30年後になることから、最新技術を用いた処理方法を考えていきたい」と答えた。
 ③には「海中の杭を切断し、海面上の洋上風車は撤去するが、海底に埋まっている杭は抜くことができないので残置する。最新の技術動向を注視し、環境に最も負荷のかからない形で撤去したい」と回答した。

4月に海底地盤調査始まる

 槙裕一・県エネルギー政策推進課長(4月に異動)は「遊佐町沖における協議会(法定協議会)意見取りまとめでは、発電事業に伴い超低周波音や景観などで住民から不安の声が示された場合、発電事業者は必要な措置を検討することになっている。それが守られなければ、事業は止めなければいけない」と話した。
 松永裕美・遊佐町長は「『(洋上風力発電事業を)推進する』とは一度も言ったことはない。さまざまな意見を吸い上げ、対話を重ねなければできない事業。世界で例の無いことを遊佐町で行っていくことを重く受け止めている」と述べた。
 遊佐町沖の洋上風力発電事業は、吹浦漁港南側から同町と酒田市との境界近くまでの南北約8・3キロと、海岸線から沖合約1・8~5・0キロに囲まれた海域4131・1ヘクタールに、15メガワットの着床式大型洋上風車を30基建設し、発電設備出力は45万キロを想定している。
 スペインのシーメンスガメサ社製の発電機を採用し、資機材の搬入や洋上風車の組み立てなどを行う基地港湾は、酒田港を利用する。洋上風車の基礎工事を29年3月に始め、運転開始は30年6月を予定している。
 海底地盤調査には4月初旬から入っており、鋼製やぐらを用いたボーリング調査や、円錐形のコーンを海底に貫入させて抵抗を測定するCPT調査などを行う。

遊佐町長が「国県町に責任」
住民団体の要望書に答え

 松永裕美・遊佐町長に要望書を提出していたのは、事業化に疑問や不安、疑念を抱く庄内住民でつくる「鳥海山沖洋上風力発電を考える会」(菅原善子、三原容子、佐藤秀彰共同代表)。同会では、1月29日に要望書を提出し、町長に面談の場を設けるよう求めていた。
 要望書の主な内容と回答の要旨は次の通り。
 ①日本海東縁部で発生する地震津波対策と洋上風力発電の安全性=地震津波がいつ来てもおかしくないというのが町長の認識であるならば、遊佐町沖洋上風力発電事業の中止を求めてほしい。洋上風車の安全性は現行の安全基準で十分満たされていると考えているならば、その根拠(着床式洋上風車の設計方法と必要とされる具体的な強度の数値)を、国や山形県に確認するなどして示してほしい。
回答=地震津波などの自然災害は必ず起こるものであり、いくら防災・減災対策を行っても、完璧はあり得ない。耐震や津波への対策基準を高めても限度はある。町としては、国や県、発電事業者に対し知見の収集と提供を求め、危険性をあおるだけでなく、正しい理解の下で事業が進められることを求めていく。
 ②山形県が行った洋上風力発電による経済波及効果調査結果=多くの疑問がある経済波及効果調査結果の説明会を開いてほしい。町で説明することができなければ、山形県と共同で開いてほしい。
回答=調査結果は、特定の条件の下で試算した参考数値であり、数値そのものに一喜一憂してはいないが、期待されるような効果につながれば良いと思う。遊佐町沖洋上風力産業振興プラットフォームをはじめとする関係者が協力し、積極的に取り組んでいくことが必要であると考えている。
 ③遊佐町沖洋上風力発電の責任の所在=政策として推進してきた国・山形県・遊佐町にも責任があると考える。遊佐町長は、責任の所在を明確にしてほしい。
回答=町としては、国や県、町にも責任があると考えるし、事業完了まで関わっていく責務があると考える。

被害者の救済組織求める

 松永町長との面談には、共同代表の菅原、三原両氏、考える会事務局の梅津勘一氏、同会運営委員の菅原正氏の計4人が出席した。
 三原共同代表は①に関し「東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きる前、国は『原子力発電は安全です』と言っていた。ところがいざ事故が起きると、それを言っていた人たちは、何の責任も取らなかった。町は住民との距離が近い自治体であり、国や県と同じように語るのではなく、防災を含め住民と対話するのが役目ではないのか。国や県に引きずられないで危機感を持ち、情報提供も丁寧にやってほしい」と要望した。
 梅津事務局員は②に関し「県は遊佐町沖と酒田市沖の洋上風力発電による約30年間の県内への経済波及効果が最大で1779億円、就業見込み者数は同1万2474人と公表したが、この数字は全く信用できない。底引きや刺し網ができなくなることによる漁業収入の減、観光客や海水浴客の減といったマイナス要因が考慮されていない。事業推進に、マイナス面は見ない聞かないという、県の姿勢が見え隠れする」と批判した。
 菅原共同代表は③に関し「町長から『国や県、町にも責任があると考える』と言ってもらえ心強い。県は一貫して『責任は発電事業者が持つ』と説明するが、町の考え方が素直な感覚だと思う。洋上風力発電事業に伴う健康被害や漁獲量の減少などは、被害者が立証しなければならず、これでは泣き寝入りしろと言っているのと同じ。被害者の申し立てを扱う救済組織を作ってほしい」と要望した。
 松永町長は「皆さんからの要望や、事業に対するさまざまな声を国や県、発電事業者に届けるのが町の責務。引き続き意見などをいただきたい。町としては『法定協議会意見取りまとめ』の記載事項の確実な順守が、事業が行われる大前提と考えている」と述べた。

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