任期満了に伴う山形県知事選挙で5選を果たした吉村美栄子県知事は、県知事就任から丸3カ月後の5月14日、県庁知事室で本紙の単独インタビューに応じ、庄内空港に整備予定の国際線ターミナル施設や滑走路の延長、庄内地域の鉄道高速化の方向性、洋上風力発電に対する地域住民の理解醸成に向けた対応などについて語った。鉄道の高速化では「山形新幹線の新庄から庄内への延伸は、大いにあると思っている」との見解を示した。庄内地域と村山地域に地域間格差があるとの指摘には、生活がしやすくなるよう、庄内地域からどんどん要望を出してほしい、との意向も示した。(編集主幹・菅原宏之)
―先の県知事選では、庄内、山形両空港の滑走路を現行の2000メートルから2500メートルに延長する検討を公約に掲げた。延長を考えているのは一空港なのか、それとも両空港ともなのか。
金額は物価上昇などで変わると思っているが、県土整備部ではすでに整備にかかる概算事業費として庄内空港が推計400億円、山形空港が同210億円と発表している。どちらかの空港を早く整備することになるとは思うが、将来的には両空港とも延長する必要があると思っている。
ただ滑走路の延長を含めた両空港の在り方を検討していく上で、まずは空港の将来ビジョンを決めなければいけない。そのため今年度に、庄内、山形両空港ごとに将来ビジョン検討委員会を設け、それぞれの地域で空港の活用を核とした将来ビジョンを検討してもらうことにしている。庄内空港の地域と山形空港の地域で将来の空港の在り方について、しっかりと議論を深めてほしい。県は、それに基づいて国土交通省に支援を求めていくことになる。
吉村県知事(5月14日)
―県は庄内空港の国際化に向け、庄内空港ビルの東側に3階建ての国際線ターミナル施設を、概算費用50億円で新設する整備計画案をまとめている。ただ国際チャーター便の便数が少ない庄内空港に必要な施設なのか、との声がある。加えて格安航空会社(LCC)の運航再開、羽田便以外の国内線の運航拡充、国際チャーター便の誘致促進などを望む声も多く聞かれる。
庄内空港ビルは、国内線と国際線の動線が分離されていないことから、庄内―羽田便が5便化されている時期を中心に、国際チャーター便の受け入れを円滑にできない状況になっている。
今年度は、2024年度に策定した庄内空港ビルの施設整備計画を踏まえ、事業スキーム(仕組みや枠組み)など整備するべき事項の検討を、空港将来ビジョンの検討と連動させながら進めていくことにしている。
そして庄内―羽田便の通年5往復化、羽田便以外の国内線やLCCの運航拡充と、国際チャーター便の誘致を両立させたい。そのために国際線ターミナル施設は必要だと考えている。
県内の人口、庄内地域の人口は減少が加速している。これに伴い経済も縮小していくことから、海外の活力を取り込むことはとても大事なこと。魅力のある庄内地域だが、訪日外国人旅行者はまだまだ足りない。まだまだ取り込めると思っているので、国際チャーター便を受け入れて地域活性化を進めてほしい。
―県はJR東日本と奥羽本線の米沢トンネル(仮称)の整備を目指しているが、庄内地域の住民の間からは、米沢トンネルの整備効果を庄内地域にも及ぼすため、山形新幹線の庄内延伸を求める声が出ている。庄内地域の鉄道高速化の方向性をどのように考えているのか。
小学生から県政に関心を持ってもらおうと、子ども知事室を夏休みに開いているが、その中で庄内地域の子どもさんから「山形新幹線を庄内に延伸したらいいと思う」という声が出た。
それに対し「それは私も賛成。そうした声が大きくなっていくと、県としても動きやすい」と答えた。そうした声があるならば、どんどん大きくしてくれれば、県も本腰を入れていける。
これが実現すれば、内陸地域と庄内地域が道路でつながるだけでなく、新幹線でもつながることになる。本県としては山形新幹線を新庄から庄内に延伸し、秋田県に行くという経路は、大いにあると思っている。
秋田県に行くとなると、酒田に延伸することになるため、酒田でそうした声が大きくなればいいと思っている。地元から要望を出してもらえると、県としてもやりやすい。
庄内地域の振興策を熱く語る吉村県知事
―庄内地域が抱える課題の一つに、高速道路網の整備の遅れがある。整備に充てる毎年度の負担金には国、県とも一定程度の枠があり、優先順位によって負担金に多寡が生じ、県が負担金を出さなければ、整備ができない仕組みになっている、といわれる。庄内地域を通る高速道路の整備に向け、負担金の配分も含め、どのように対応していくか。
県知事に就任した2009年度当時、県内の高速道路供用(開通)率は50%ほどにとどまり、全国で46位と聞いた。地方にとって高速道路をはじめとする社会インフラ(生活や経済活動を支える施設や設備のこと)は非常に重要であることから、これまで力を入れて整備に取り組んできた。
その結果、県内の高速道路供用率は24年度末には県全体で86%まで伸び、全国46位から35位に順位が上がっている。内陸地域と庄内地域の供用率を25年4月1日現在で見ると、内陸地域が91%で、庄内地域が77%となっている。16年前の09年度からは、それぞれ約30~40%伸びており、全体的に整備は進んでいるものと思っている。
負担金の制度は、道路法によって定められているもので、国が道路整備を行う場合、県がその費用の一部を一定の割合で負担することになっている。箇所ごとの負担金は、国の予算成立後に国から県に対して示される仕組みになっており、県が負担金の配分を判断する仕組みにはなっていない。
関係機関、沿線の自治体や商工会議所などと一緒になって何度も要望してきたが、これからも高速道路の早期整備、完全整備に向けて引き続き、しっかりと政府に働き掛けていきたい。
―県内陸を縦断する東北中央自動車道(東北中央道)の整備が、庄内地域を南北に縦貫する日本海沿岸東北自動車道(日沿道)より進んでいるのは、国から「東北中央道を早く整備するから、県もそれに伴う負担金を出してほしい」と言われてきたということなのか。
県がどちらかを早く(整備してほしい)ということは申し上げないが、東北中央道と日沿道は二つの大きな縦軸。今度は横軸の整備に向け、しっかりと働きかけていきたいと思っている。
―県は、遊佐町沖と酒田市沖の洋上風力発電による、約30年間の県内への経済波及効果の試算を昨年11月下旬に公表した。そうした中、庄内地域の住民の間には、低周波音による健康被害や漁業、景観への影響を不安視する声のほか、地震津波への対応や離岸距離を疑問視する声などが根強くある。洋上風力発電の事業化に対する住民の理解は進んでいるとは言えない状況だと思うが、今後の対応は。
遊佐町沖については、これまで町と連携しながら町内6地区での住民説明会、区長研修会、経済産業省資源エネルギー庁と環境省の担当者を招いての住民説明会を計31回開催し、制度の説明や意見交換などを丁寧に行ってきた。
住民説明会では地域の方々から、騒音などによる健康への影響、地震津波対策など安全性を懸念する意見などを頂いた。一方で、雇用などの地域振興に期待の声も頂いている。
こうした意見を踏まえながら、地域住民の代表や漁業者などを含めた関係者からなる遊佐沿岸域検討部会(遊佐部会)や、再エネ海域利用法に基づく法定協議会で議論を重ね、最終的に法定協議会において意見取りまとめという形で地域の合意形成がなされている。
意見取りまとめでは、発電事業者に対し地域住民から不安の声が示された場合には、その払拭に向け必要な措置を検討し、丁寧な説明をするよう求めている。今年3月には、選定された発電事業者の「山形遊佐洋上風力合同会社」と、町、県による住民説明会を開催し、計画している事業概要や今後のスケジュールなどの説明を行っている。
今後も地区ごとの住民説明会を開催する予定で、県としても地域住民の更なる理解醸成に向けて、引き続き丁寧に取り組んでいく。
洋上風力発電による地域振興では、昨年7月に遊佐町商工会を中心に、洋上風力関連事業者とのマッチング(引き合わせ)などの役割を担う「遊佐町沖洋上風力産業振興プラットホーム」が設立されている。
洋上風力発電による地域への波及効果については、県のほか、選定された発電事業者でも試算しているが、その最大化に向けて同産業振興プラットホームと連携しながら、遊佐町や庄内地域、県全体の産業振興や人材育成に取り組んでいく。
今後は酒田市沖ということになるが、酒田市沖についても、24年度に市内7カ所で住民の皆さんとの意見交換会を酒田市と共催で開催した。酒田沿岸域検討部会(酒田部会)で議論を重ねてきており、今年度はこれまでの地域の方々の意見を踏まえ、騒音や地震津波対策の専門家を招いて勉強会を開催する予定でいる。今後とも地域との意見交換などを丁寧に行いながら、漁業者や地域住民の理解醸成を図りつつ、酒田市沖での導入可能性を検討していきたいと思う。
―庄内地域には、アランマーレ山形の活動拠点となる新アリーナや、移転新築が検討されている県立博物館の庄内分館など、県内陸地域に集中している県営の体育施設や文化施設を庄内にも整備してほしい、との声がある。そうした声に対する考えは。
スポーツ施設など地域住民のための施設は、それぞれの市町村で整備することになっている。そして県内に一つという施設は県が支援する、県が造る、と大枠ではそうなっている。
庄内にほしい、置賜にほしいという声はあるが、山形県の総人口の4分の1は山形市にいる。そういうことを考えると、いろいろな意味で、(県営施設が)村山地域に集中していると見えてしまうのかと思う。
県営の施設を建てる時には、有識者会議や審議会のようなものをつくり、意見を出してもらい、県民から見える形で進めている。
―庄内地域と内陸地域、特に庄内地域と村山地域との間には地域間格差があり、その要因の一つに内陸偏重・村山優先の県政が続いていることを挙げる声が根強くある。こうした声をどう受け止めるか。そして、こうした声にどのように対応していく考えか。
庄内地域には海があり、港があり、魚があり、平野が広がり、出羽三山といった精神文化もある、魅力的な地域だと思っている。
県知事の立場からは、県内四つの地域が公平にそれぞれ発展するようにといつも考えている。そして社会インフラをはじめ、観光や経済などいろいろな面がしっかりと発展するように、これまでもやってきたし、これからもやっていきたいと思っている。
庄内地域には、これまでの県知事の中で一番足を運んでいると思うのだが、庄内地域の人たちからは「庄内にあまり来てくれない」「もっと来てください」などと言われる。まだ足りないということなのか分からないが、それは期待されているのだと受け止めている。
とかく無いところに目が行きがちだが、庄内地域には酒田港があり、その酒田港が基地港湾になり、洋上風力発電にも力を入れている。東北公益文科大学の公立化もしっかりと進めている。こうした事実を受け止めていただきたい。
住民の皆さんが生活しやすいようにしていくのが私たちの役割だと認識している。将来に向けては、庄内地域からどんどん要望を出してもらえればと思う。
―任期満了までの4年間に、庄内地域の振興に向け、具体的にどのようなことを実現したいと考えているか。
東北公益文科大学は公立化しただけでなく、自走できるようにこれからもしっかりと支援していきたい。
庄内空港に国際線ターミナル施設を整備し、国際チャーター便を増やしたい。国内線はビジネス客でにぎわっているが、訪日外国人旅行者を増やして地域経済を活性化したいと思う。
昨日、東京でクルーズ船の会社に顔を出してきたが、新しい船が就航するということで、「再来年には酒田港に寄港するクルーズ船の便数を増やせそうです」ということだった。クルーズ船は一度に数千人が上陸して地域経済を潤すことから、そうしたことにもしっかりと取り組んでいきたい。