酒田市の矢口明子市長は5月30日の定例記者会見の席上、庄内、最上、村山、置賜の県内4地域を結ぶことで県土の一体的な発展につながる山形新幹線の庄内延伸に対する認識を問われ、「状況も変わってきている。どういった形で(実現に向けた)運動を進めていけるのか、改めて考えていきたい」と述べた。吉村美栄子県知事は5月14日に本紙が行った単独インタビューの中で「山形新幹線を新庄から庄内に延伸し、秋田県に行くという経路は、大いにあると思っている」との考えを示していた。一部市民からは「延伸が実現すれば庄内は大きく変わる。行政と経済界が一体となって進めてほしい」「矢口市長の政治判断で沿線自治体による推進組織を復活させるべき」などといった声が出ている。(編集主幹・菅原宏之)
本紙は、吉村県知事が単独インタビューの中で山形新幹線の庄内延伸に前向きな意向を示し、「酒田で延伸に向けた声が大きくなればいいと思っている。地元から要望を出してもらえると、県としてもやりやすい」などと語ったことを踏まえ、矢口市長が庄内延伸に対してどのような考えを持っているのかを、定例記者会見で改めてただした。
定例会見で述べる矢口市長
山形新幹線の庄内延伸を巡っては、同構想に強い意欲を見せた故髙橋和雄元県知事が、庄内地域の意見を一本化するよう求めたことから、02年3月、庄内地域の15経済団体(当時)で「山形新幹線庄内延伸促進期成同盟会」を設立した。
庄内地域の鉄道高速化を取り巻く状況は、ここ数年で大きく様変わりした。
JR東日本は22年7月、管内を走る地方路線のうち、19年度に1キロ当たりの1日の平均利用者数を示す「輸送密度」が2千人未満だった、35路線66区間の収支が全ての区間で赤字だった、と初めて公表した。
庄内地域を走る鉄路では、羽越本線の村上(新潟県)―鶴岡間と、酒田―羽後本荘(秋田県)間、陸羽西線の新庄―余目間の2路線3区間が対象となった。
66区間のうち赤字額が最も大きかったのは羽越本線の村上―鶴岡間で、酒田―羽後本荘間は3番目に大きかったことから、住民の間に存廃含みの動きを危惧する声や山形新幹線の庄内延伸を再検討するよう求める声などが広がった。
県は奥羽新幹線の足掛かりとなる米沢トンネル(仮称)の早期整備に注力しているが、資材費や労務費の高騰で、事業費が従来の約1500億円から800億円増えて約2300億円に、工期も働き方改革の影響を受けて約15年から4年延びて約19年になることが、今年2月にJR東日本の試算で明らかになっている。
吉村県知事が山形新幹線の庄内延伸に前向きな意向を示した背景には「羽越新幹線の実現には時間がかかることが見込まれることに加え、米沢トンネルの整備効果を庄内地域にも及ぼし、整備運動を県全体に広げたい狙いがあるのではないのか」とみる向きもある。
酒田市・飽海郡区の元県議会議員で現職時代は庄内地域の鉄道高速化の推進に尽力した佐藤藤彌氏は、今後について「庄内延伸の実現に向けた推進活動は経済界が中心となり、行政がそれを支える官民一体の形で進めてほしい。多くの同志がいることも大事なことから、沿線自治体の庄内、遊佐、戸沢の2町1村の皆さんと一緒に新たな推進組織をつくることも必要になってくる」と指摘する。
さらに吉村県知事が単独インタビューで「庄内地域の子どもさんから『山形新幹線を庄内に延伸したらいいと思う』という声が出たが、それに対し『それは私も賛成。そうした声が大きくなっていくと、県としても動きやすい』と答えた」と述べたことに言及した。
そして「(吉村県知事は)子どもたちにうそはつかないと思っている。経済界や行政、地元選出の県議会議員と酒田市議会議員は吉村県知事の意向を生かし、県知事の任期中に庄内延伸の実現に向けた確実な道筋を立ててほしい」と話した。
県内の政治事情に詳しい酒田市の70歳代の会社経営者は「丸山前市長が推進組織を解散したように、矢口市長の政治判断が必要になる。吉村県知事の発言を踏まえれば、沿線自治体による推進組織を復活させるべき」と話し、同市の60歳代のある会社幹部は「推進組織を再編成した方がいい。その際は酒田、庄内、遊佐、戸沢に加え、鶴岡市にも入ってもらえるよう、お願いするべき」と提言した。