郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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酒田市
矢口市長「関係者で進め方を検討」
山形新幹線の庄内延伸、再注目の兆し

 酒田市の矢口明子市長は5月30日の定例記者会見の席上、庄内、最上、村山、置賜の県内4地域を結ぶことで県土の一体的な発展につながる山形新幹線の庄内延伸に対する認識を問われ、「状況も変わってきている。どういった形で(実現に向けた)運動を進めていけるのか、改めて考えていきたい」と述べた。吉村美栄子県知事は5月14日に本紙が行った単独インタビューの中で「山形新幹線を新庄から庄内に延伸し、秋田県に行くという経路は、大いにあると思っている」との考えを示していた。一部市民からは「延伸が実現すれば庄内は大きく変わる。行政と経済界が一体となって進めてほしい」「矢口市長の政治判断で沿線自治体による推進組織を復活させるべき」などといった声が出ている。(編集主幹・菅原宏之)

状況変わったとの認識示す

 本紙は、吉村県知事が単独インタビューの中で山形新幹線の庄内延伸に前向きな意向を示し、「酒田で延伸に向けた声が大きくなればいいと思っている。地元から要望を出してもらえると、県としてもやりやすい」などと語ったことを踏まえ、矢口市長が庄内延伸に対してどのような考えを持っているのかを、定例記者会見で改めてただした。

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定例会見で述べる矢口市長

 矢口市長は「酒田市の立場は(以前と)変わっていない。本日も吉村県知事に2026年度酒田市重要事業要望をしてきたが、要望書の中にも『山形新幹線(在来線特急)を庄内まで延伸すること』という項目が入っている。引き続き要望していきたい」と述べた。
 山形新幹線の庄内延伸に向けては、酒田、庄内、遊佐、戸沢の1市2町1村の首長と議会議長を会員とする推進組織「陸羽西線高速化促進市町村連絡協議会」(会長・丸山至前酒田市長、以下市町村連絡協)が中心となって推進活動を進めていたが、21年9月に組織を解散した経緯がある。
 これを踏まえ引き続き要望していく際の組織体制が脆弱ではないのか、と問うと▼山形県は当時、オール山形でフル規格の羽越・奥羽新幹線の整備実現の取り組みを優先して進めていた▼山形新幹線の庄内延伸と利用促進については、県知事が会長を務める山形県鉄道利用・整備強化促進期成同盟会と、新庄市長が会長を務める陸羽東西線利用推進協議会の中でも活動していた―ことを挙げ、それが市町村連絡協の解散理由だった、と説明した。
 そして「それ以降、首長が交代した自治体もあり、(県内の鉄道高速化を取り巻く)状況も変わってきている。県知事からは庄内延伸だけではなく、庄内地域で進めているさまざまな取り組みに対して、非常に前向きな発言があった。それを受け、我々がどのような運動、活動をしていけるのか、これから改めて考えていきたい」と語った。
 庄内延伸の推進に向けた今後の具体的な進め方をただすと、矢口市長は「まずは庁内、その上で経済界、そして酒田市全体にどういうふうに広げていくのかを、関係者で検討していきたい」との考えを示した。

市町村連絡協を解散

 山形新幹線の庄内延伸を巡っては、同構想に強い意欲を見せた故髙橋和雄元県知事が、庄内地域の意見を一本化するよう求めたことから、02年3月、庄内地域の15経済団体(当時)で「山形新幹線庄内延伸促進期成同盟会」を設立した。

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 03年7月には市町村連絡協が発足し、県やJR東日本など関係機関への要望活動を展開したほか、地域住民の機運醸成を図るために学識経験者などを招いた講演会も開催した。
 しかし斎藤弘前県知事が06年7月、同年3月に公表した羽越本線高速化調査と山形新幹線機能強化調査の比較結果に基づき、「羽越本線高速化の検討を優先する」と表明したことから、両団体の活動は勢いを失い、市町村連絡協は08~14年度に活動を休止した。
 この間、故本間正巳酒田市長が山形新幹線の庄内延伸推進を打ち出したことから、同構想が再始動。15年10月には山形新幹線の庄内延伸の早期実現を求め、酒田市自治会連合会連絡協議会が、同市と遊佐町で集めた5万8710人の署名簿を、吉村県知事に提出した。
 その後、吉村県知事がフル規格での羽越・奥羽新幹線の整備を打ち出し、16年5月に両新幹線の早期整備を目指す「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」を設立。庄内地域の鉄道高速化に向けた整備手法は、羽越本線のフル規格整備と羽越本線の線形改良による在来線整備、山形新幹線の庄内延伸の二つの事業計画と一つの地域要望が併存することになった。
 こうした動きを受け丸山前酒田市長は「吉村県知事がフル規格での羽越、奥羽新幹線整備を優先する方針を示しているため、庄内延伸が近々に動き出す可能性は少ない。コロナ対策などの課題が表面化し、庄内延伸の優先度は相対的に低くなっている」などとして市町村連絡協を解散した。
 これに対し市民の間からは▼人口減少が進み、羽越新幹線のフル規格整備も難しい中、庄内延伸の相対的な優先度は、むしろ高まっている▼市長が勝手に「優先度が低くなっている」と判断しているだけで、地域住民はそう感じていない▼庄内延伸は酒田市にとって実現しなければならない課題。市町村連絡協を復活させてほしい―といった反発や不満の声が広がった。

背景に米沢トンネル整備か

 庄内地域の鉄道高速化を取り巻く状況は、ここ数年で大きく様変わりした。
 JR東日本は22年7月、管内を走る地方路線のうち、19年度に1キロ当たりの1日の平均利用者数を示す「輸送密度」が2千人未満だった、35路線66区間の収支が全ての区間で赤字だった、と初めて公表した。
 庄内地域を走る鉄路では、羽越本線の村上(新潟県)―鶴岡間と、酒田―羽後本荘(秋田県)間、陸羽西線の新庄―余目間の2路線3区間が対象となった。
 66区間のうち赤字額が最も大きかったのは羽越本線の村上―鶴岡間で、酒田―羽後本荘間は3番目に大きかったことから、住民の間に存廃含みの動きを危惧する声や山形新幹線の庄内延伸を再検討するよう求める声などが広がった。
 県は奥羽新幹線の足掛かりとなる米沢トンネル(仮称)の早期整備に注力しているが、資材費や労務費の高騰で、事業費が従来の約1500億円から800億円増えて約2300億円に、工期も働き方改革の影響を受けて約15年から4年延びて約19年になることが、今年2月にJR東日本の試算で明らかになっている。
 吉村県知事が山形新幹線の庄内延伸に前向きな意向を示した背景には「羽越新幹線の実現には時間がかかることが見込まれることに加え、米沢トンネルの整備効果を庄内地域にも及ぼし、整備運動を県全体に広げたい狙いがあるのではないのか」とみる向きもある。

庄内延伸の確実な道筋を

 酒田市・飽海郡区の元県議会議員で現職時代は庄内地域の鉄道高速化の推進に尽力した佐藤藤彌氏は、今後について「庄内延伸の実現に向けた推進活動は経済界が中心となり、行政がそれを支える官民一体の形で進めてほしい。多くの同志がいることも大事なことから、沿線自治体の庄内、遊佐、戸沢の2町1村の皆さんと一緒に新たな推進組織をつくることも必要になってくる」と指摘する。
 さらに吉村県知事が単独インタビューで「庄内地域の子どもさんから『山形新幹線を庄内に延伸したらいいと思う』という声が出たが、それに対し『それは私も賛成。そうした声が大きくなっていくと、県としても動きやすい』と答えた」と述べたことに言及した。
 そして「(吉村県知事は)子どもたちにうそはつかないと思っている。経済界や行政、地元選出の県議会議員と酒田市議会議員は吉村県知事の意向を生かし、県知事の任期中に庄内延伸の実現に向けた確実な道筋を立ててほしい」と話した。
 県内の政治事情に詳しい酒田市の70歳代の会社経営者は「丸山前市長が推進組織を解散したように、矢口市長の政治判断が必要になる。吉村県知事の発言を踏まえれば、沿線自治体による推進組織を復活させるべき」と話し、同市の60歳代のある会社幹部は「推進組織を再編成した方がいい。その際は酒田、庄内、遊佐、戸沢に加え、鶴岡市にも入ってもらえるよう、お願いするべき」と提言した。

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