建設・採石業者の川越工業(株)(秋田県にかほ市、川越恵次代表取締役)が、鳥海山麓の遊佐町吉出臂曲地内の所有地で岩石採取事業を計画している問題で、同町は5月26日、町が制定する遊佐町の健全な水環境を保全するための条例(以下、水環境保全条例)に基づき、同社が提出した事前協議書の対象事業は、事業を実施できない「規制対象事業に該当する」と認定した。
町は同日午後、髙橋務副町長と担当者の2人が同社に出向き、規制対象事業とする旨の通知書を手渡した。
岩石採取の場合、事業者は立地自治体と事業に関する協定を結ぶ必要があるが、今回の決定によって協定を結ぶことができず、必要書類に不備が生じるため、採石法に基づく県に対する申請は事実上、できなくなる。
同日午前に町長、副町長、教育長の3役と課長7人などで構成する課長会議を開き、規制対象事業に該当する、と決定した。
町はその理由に、同社の事前協議書の対象事業が▼地表から地下2メートルの深さを超えて土石を採取し、地形を改変する事業▼事業区域の面積が1万平方メートルを超えるもの▼一部事業区域が過去に土石の採取が行われた区域―であることを挙げた。
その上で、これらは規制対象事業を定めた水環境保全条例第16条第1号「森林等の水源涵養機能を著しく阻害し、水源涵養量の減少をもたらすおそれがある事業」の基準を定めた、同条例施行規則第9条第1号から第4号までの規定に該当している、と判断した。
同社は事前協議書に、「十分に長期的な安全性を考慮しても、標高329メートル(掘削深度34・4メートル)までなら、地下水は湧出することなく、地下水への影響を及ぼさずに掘削は可能と考えられる」などとする、秋田大学が行ったボーリング調査の分析と考察を添付している。
これに対して町は「提出された資料からは、水源涵養量の減少を伴わないことが明らかであるとは評価できない」と結論づけた。
これに先立ち町環境審議会委員、農林水産業関係団体代表、学識経験者で構成し、同社の事前協議書を調査審議していた町水環境保全審議会(畠中裕之会長、委員8人)は同月19日、「同社の協議対象事業を規制対象事業と認定すべき」とする意見書をまとめ、松永裕美町長に提出していた。
松永町長は「町水環境保全審議会からの意見書などを踏まえ、『水源涵養量の減少をもたらすおそれがある規制対象事業に該当するもの』と判断した」などとする談話を発表した。
同町の担当者は「今回の決定によって事前協議書に対する町の対応は終わっており、事業者側の動きを注視している状態」と話した。
同社は16年にも今回計画した事業予定地の隣接地で採石を計画したが、町は同条例の規制対象事業に該当するとして認めなかった。同社はこれを不服として処分の取り消しを求めて提訴したが、最高裁は22年に同社の訴えを棄却している。