郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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遊佐町沖風力発電
「県漁協に問題」と漁業者反発
海底地盤調査の合意に向けた手続きで

 遊佐町沖に導入する洋上風力発電の発電事業者に選定された「山形遊佐洋上風力合同会社」(本社・東京都)が進めている海底地盤調査を巡り、山形県漁業協同組合(本間昭志代表理事組合長)が組合員から同意を得るために執った手続きに問題があったと、酒田市の漁業者が反発している。同調査は、大型洋上風車の建設に必要な海底地盤情報の収集を目的に、4月上旬~8月下旬の実施を予定していたが、調査期間は荒天の影響などで9月末まで延びている。漁業者側は、4月に県漁協に対して質問状と反論書を提出しているが、県漁協からは5カ月近く経った現在も回答は示されておらず、「県漁協の対応は、大変不誠実」と批判している。(編集主幹・菅原宏之)

質問状を提出も回答無く

 県漁協の手続きに問題があったと反発しているのは、遊佐町沖の促進区域の一部海域で刺し網漁などを営んでいる酒田地区刺し網有志の会(斎藤公人、五十嵐敏彦共同代表)。同会は、促進区域の一部海域は2000年2月10日に酒田地区と協定を決議した入漁権漁場(入会漁場)となっており、入漁権に基づく漁業行使権の侵害行為は、漁業法第195条で刑事罰の対象になる、などと主張している。
 五十嵐共同代表や関係資料などによると、同会では、県漁協の説明や発言に疑義を抱いていたこともあり、同漁協に対して今年4月9日付で質問状を提出した。
 質問状で特に問題視したのは、遊佐町沖は再エネ海域利用法に基づく促進区域に指定されたので、漁業法ではなく、再エネ海域利用法が適用され「海を使う可能性のある人からの同意に変わる」との発言が度々行われてきた、ということ。
 その上で「経済産業省資源エネルギー庁のホームページを確かめ、同庁と山形県庁に問い合わせてもみたが、確認することができなかった。そのような表記がどこにあるのかを、書面で提示してほしい」と求めた。
 さらに促進区域になっても、そこに共同漁業権が存在すれば、組合員行使権が存在するものと理解しており、組合員行使権を侵害すれば罰せられるのは必然と考える、と指摘した。
 そして「そうならないようにするのが、水産業協同組合法(第4条)に基づいて設立された漁業協同組合の使命だが、その使命を果たしていると考えているか聞きたい」とただした。
 これを受け県漁協は、同会に▼山形県庁の誰に、いつ、何を確認したのか、証拠も含めて提出▼資源エネルギー庁のホームぺージとは、具体的に何かを提示▼水産業協同組合法(第4条)に基づいて設立された使命とは何か、貴殿から説明―することなどを求めた質問書を、今年4月14日付で出してきた。
 同会は、県漁協の質問書に対する反論書を同16日付で提出。その後、県漁協に7月1日付で回答を求める文書を出したが、回答は現在も示されていない。

漁業法に反すると批判

 県漁協の西村盛専務理事は8日、本紙の取材に応じ「酒田地区刺し網有志の会に対し、今後回答を出す予定は無い。組合員からの同意を得るための手続きは、水産庁の指導を受けながら進めてきた」と説明した。
 これに対し五十嵐共同代表は、県漁協が遊佐町沖は「海を使う可能性のある人からの同意に変わる」と発言していることを取り上げた。
 そして組合員の同意を規定した漁業法第108条では「当該漁業権の内容たる漁業を営む者の同意」と定めていることに言及し、「これは、実際にその海域で操業し、生活している組合員の3分の2以上から、書面か電磁的方法による同意を得なければならない、ということ」と解説した。
 その上で「県漁協が『海を使う可能性のある人』と範囲を広げ、(県漁協内の)遊佐・酒田部会の3分の2以上から合意を得たのは、漁業法第108条に反する。これは、ごまかしと言われても仕方なく、この手続きは間違い」と批判した。
 遊佐町沖の洋上風力発電事業は、吹浦漁港南側から、同町と酒田市との境界近くまでの南北約8・3キロと、海岸線から沖合約1・8~5・0キロに囲まれた海域4131・1ヘクタールに、15メガワットの着床式大型洋上風車を30基建設し、発電設備出力は450メガワットを想定している。
 スペインのシーメンスガメサ社製の発電機を採用し、資機材の搬入や洋上風車の組み立てなどを行う基地港湾は、酒田港を利用する。洋上風車の基礎工事を2029年3月に始め、運転開始は30年6月を予定する。
 海底地盤調査には4月上旬から入り、鋼製やぐらを用いたボウリング調査や、円錐形のコーンを海底に貫入させて抵抗を測定するCPT調査などを行っている。
 山形遊佐洋上風力合同会社は、総合商社の丸紅(株)(東京都)、総合建設業の(株)丸高(酒田市)、関西電力(株)(大阪市)、国際エネルギー企業BP(英・ロンドン)100%子会社のBPIOTA、東京瓦斯(株)(東京都)の計5社で設立した事業会社。国から昨年12月、同町沖の発電事業者に選定された。

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