クマ(ツキノワグマ)の目撃(痕跡含む)件数が、鶴岡、酒田両市で10月に急増し、すでに年間目撃件数が過去最多となった。山の餌不足が要因で、中山間地だけでなく市街地での目撃も相次いでいる。小学校では屋外行事を中止し、保護者は車で登下校の送迎をするなどしている。両市では、クマの隠れ場所となるやぶを刈り、柿の実を残さないよう、市民に呼び掛けている(本紙取材班)
鶴岡市農山漁村振興課によると、同市の2025年度10月末までの目撃件数は366件。24年度の66件より300件454・5%増えた。過去最多だった23年度の159件を大幅に上回り、過去最多を更新した。

小真木原公園のクマへの注意を促す旗
酒田市環境衛生課によると、同市の25年度10月末までの目撃件数は349件。24年度の53件より296件558・5%増となった。過去最多だった23年度の202件も大幅に上回った。
月別で見ると、10月が138件で最も多く、9月の65件より73件112・3%増えた。24年度の10月は1件しかなく、過去最多だった23年度でも43件だった。10月に出没した地域は、旧3町の八幡、平田、松山地域と、浜中や坂野辺新田などの川南地域。
両市によると、目撃件数が過去最多となった要因は山の餌不足。ブナの実が大凶作になり、ナラやミズナラの実も夏の高温と渇水で不作になっている。昨年はブナが豊作で、クマの出産数が増えたと考えられる。
増えたクマを十分に養える餌が山には無いため、畑の作物や果樹、生ごみなどを求めて、人里まで下りてきていると思われる。子グマをオスに食べられるのを避けるためか、親子で目撃されることが多い。
例年であれば11月下旬以降は冬眠に入るが、近年は冬眠しないクマがいる。鶴岡市では昨年度12月に7件、1月に5件、2月に3件、酒田市では同12月と1月に各5件、2月と3月に各1件が目撃されているため、今後も注意が必要となる。
両市では人的被害を防ぐために、クマを市街地に寄せ付けないことが肝心と話す。対策は①隠れ場所となるやぶを刈り払う②柿は全て採る。採れない木は伐採を検討する③生ごみは前日や早朝に出さず、なるべく遅く出す④活動が活発になる早朝と夜間の散歩を控える⑤屋外では音の出る物を身に着ける⑥移動経路となる川やせき沿い、草木が生えたのり面のある高速道路沿いなどには、なるべく近づかない⑦家や倉庫の戸締まりを厳重にする―など。
鶴岡市農山漁村振興課では「人に慣れたクマが増えてきている。放置された柿の実が樹上で熟成する時期が最も危ない。人的被害を防ぐためにまずは自衛を徹底してもらいたい」と話す。
酒田市環境衛生課でも「人里にとどまらせないようにすることが肝心。一人だけで対策しても近隣が対策していなければ十分な効果は出ない。面の対策が必要。クマは自治体に関係なく移動する。他の自治体、農協、国、県などと広域的な連携と対策が必要」と話した。
国は「緊急銃猟」を9月1日から施行した。緊急銃猟は、クマなどが人の日常生活圏に出没した場合、住民への銃使用の安全を確保した上で、市町村長の判断で発砲を許可する制度。酒田市と鶴岡市では判断を現場の職員に委任している。
鶴岡市では9月20日、錦町の住宅敷地内に居座ったクマに、皆川治市長(当時)が全国で初の緊急銃猟を判断したが、準備中にクマが人に襲いかかろうとしたため、従来通りの警察官職務執行法に基づく警察官の指示で、猟友会員が駆除した。
酒田市では警察、猟友会、県庄内総合支庁と、市街地の倉庫にクマが立てこもったと想定した緊急銃猟の訓練を、10月29日に行った。
緊急銃猟の実施には①クマが人の日常生活圏に侵入している②人への危険を防ぐための対策が緊急に必要③銃猟以外での捕獲が難しい④住民に銃器による危害が及ぶ恐れがない―の4条件を満たす必要がある。①~③は市街地に侵入した時点で条件を満たすが、④を満たすことは難しい。
銃弾が跳ね返ったり貫通したりして人に当たらないようにしたり、被弾したクマが暴れないようにしたりすることが求められるため、道路を歩いているクマは撃てない。基本的に建物内などに居座っている場合の対応策となっている。
夜に緊急銃猟を行うには、ハンターが的に全弾命中させる試験に合格する必要がある。合格したハンターは両市にも県内にもいないため、クマが活発に行動する夜間は行えない。
酒田市環境衛生課では、6月に同市若竹町の法輪寺床下に6日間居座った件は、①~④の条件を満たせた可能性があったとみている。
同衛生課では「これまではクマが屋内に侵入すると、わなにかかるまで待つ持久戦になり、住民や警察、猟友会などの負担が大きくなった。緊急銃猟には慎重な判断が必要だが、これまでの警察官職務執行法、麻酔、わなの設置などに、緊急銃猟のオプションが増えたことは良いこと」と話した。
鶴岡市教育委員会学校教育課によるとクマが学校周辺に出没した影響で、朝暘第六小学校が10月14日に、大山小学校が30日に臨時休校した。朝暘第三小学校では授業時間を切り上げて、一斉下校した日があった。黄金小学校では毎年恒例の全校金峰登山を中止した。
ほかにも授業時間が終わってからの一斉下校、保護者による送迎や通学の見守りなど、各学校でさまざまな対応をしているが、同学校教育課では件数などを取りまとめていない。
大山小では、大山駅周辺などでクマが目撃されたため、一斉メールで保護者に連絡し、25日の学習発表会から朝は送ってもらい、下校時は迎えに来てもらう体制を取った。26日は振替休日だったが31日まで続けた。この間、グラウンドでの体育や休み時間の遊びなど外での活動を中止した。
30日は、学校周辺で捕獲用わなの設置や関係車両の駐車、通行止めなどがあったため、校長が市教委とも相談して臨時休校を決め、午前7時に各家庭へ一斉メールを送った。
市内にクマが頻発した夏も、保護者に一斉メールでクマ鈴をランドセルに付ける検討を要請し、10月31日も同じ一斉メールを流した。
市教委では学校にクマ鈴やクマよけスプレーなどの配備を指示していないが、登校班の班長にクマ鈴を配って付けさせたり、火薬を用意したりする学校もある。
酒田市教育委員会では目撃情報を確認次第、緊急連絡アプリでその地区の校長や教頭に連絡している。学校はこれを基に注意喚起の一斉メールを保護者に送る。
浜中小学校では今年度、保護者に送迎依頼のメールを約20件送った。屋外行事では大きな音を鳴らすなどしている。2学期には、学校が購入したクマ鈴を全児童のランドセルに着けさせた。自宅から出掛ける際は、自分のかばんにクマ鈴を付け替えるように徹底した。浜中の児童には見守り隊が毎朝同行し、集団下校にして教頭と教務主任が車で付き添う。広岡新田の児童は保護者の送迎にした。
亀ケ崎小学校では、6月3日午後8時に学区内の法輪寺でクマが発見されたのを受け、4日午前6時に保護者へ送迎か付き添いによる登校を一斉メール等で流し、一斉下校した。地区担当教諭が途中まで児童に付き添った。同対応を6日まで続けた。屋外活動はやめ、7日は3年生の自転車教室を体育館での座学にした。