外航クルーズ船の酒田港への寄港が増える中、受け入れ側の意識や取り組みに変化も出てきた。小学校や高校では、おもてなしと生の英語学習や国際交流の機会として積極的に関わりを持っている。来年度は今年度の9回の2倍以上となる20回の寄港が予定される。今後の受け入れ態勢や波及効果を広げる方策を考えることで、さらに地域の活性化に生かしたい。(本紙取材班)
山形県ではふ頭での歓迎と見送りイベントを企画し、物産展の出店を県内一円に公募して取りまとめている。イベントは山形県民謡協会や花笠協議会、酒田舞娘、羽黒山伏などに出演を依頼した。小学生や高校生が独自に企画して県に提案し、太鼓を演奏したり、ウオーキングガイドをしたりすることも増えている。

幼稚園児が踊りで出迎え(10月23日)
庄内交通(株)は、クルーズ船寄港時のツアーバスとシャトルバスを担当した。
乗客と乗員で3千人を超えるダイヤモンド・プリンセスなどの大型クルーズ船では、ツアーバスとシャトルバスが計25台ほど必要になった。同社だけでは手配できず、山形市や寒河江市、新庄市などのバス会社5~6社にも協力を求めた。
バスの内訳はツアーバスが6割、シャトルバスが4割ほど。ツアーバスには1台当たり30人前後が乗車する。
行き先は、日和山公園や山居倉庫、土門拳写真美術館などを巡る酒田市内ハイライトや、羽黒山、加茂水族館、善寳寺など。遠くても戸沢村の最上川舟下りまでで、蔵王や銀山温泉などの内陸までは行かない。酒田市内ハイライトや加茂水族館など近場のツアーを好む傾向があり、乗客はゆったりと余裕のある旅程を求めているようだった。
同社では「クルーズ船は平日の寄港が多いのでありがたい。酒田港の地域を挙げたおもてなしが好評のようだった。寄港の増加に伴ってクルーズ船関連の売上も増えている。運転手不足によるバスの台数確保が課題だが、広域的な連携で対処していきたい」と話した。
酒田市では、中町モールで開いていたクルーズマーケットを今年やめた。民間で自主的に動いてもらい、持続可能なやり方で受け入れていくためという。同マーケットの出店者には、ふ頭のイベントへの出店を促した。
同市では観光案内所をふ頭と中町などに開き、シャトルバスの発着場所には交通誘導と安全確保のための人員を配置した。観光施設8カ所には通訳をそれぞれ1~4人配した。行く先を決めずに下船する客もいて、大型船の時は観光案内所がかなり混雑するため、最低4人の通訳を置いた。同市観光交流課では「通訳がいるのといないのとでは随分と満足度が違う」と言う。
また、高校生ガイドをはじめ、中町やふ頭で何らかのおもてなし活動をしたいという学校が増えてきていて「学習や国際交流の場になっている」と話した。
一方、クルーズマーケットが無くなったことで、シャトルバスで最初に中町の発着所に降りたら、閑散としていて酒田市のイメージが悪いのでは、と指摘する声もある。
無理をせず持続可能な形で民間がおもてなしをするにしても、市として大きな方針を示し、取り組もうとする民間が情報共有する場などが必要ではないか、と提案する声も上がっている。
酒田市観光交流課によると、来年度は今年度の2倍以上の20回の外航クルーズ船が寄港する予定。同市が目標としていた20回を達成するに当たり、どのような態勢で迎えるのか、改めて考えてみる必要もありそうだ。
酒田市中通り商店街振興組合(菅野弘幸理事長)では、クルーズマーケットが開かれなくなったことから、同商店街での滞在時間を増やしてもらうため、乗船客の多いダイヤモンド・プリンセス2回とウエステルダム1回の計3回、中町モールの1区画を通行止めにし、椅子やテーブルを出してオープンテラスの雰囲気を作り、コーヒーやビールなどを販売した。同商店街が酒田警察署に通行止めを申請し、警備員も雇った。
商店街の各店は通常通りの営業時間に開店したが、夜営業の飲食店で店を開けて協力したところもあった。
同商店街では昨年秋にインバウンド対応の勉強会を開いた。1店から複数人参加したところもあるが、加盟店が約30店の中、参加者は20人を超えた。
勉強会では簡単な英会話や、トイレをレストルームと言うなど、外国人が普通に使う言葉を習い、外国人の要望について「特別な用意をする必要はなく、普段の品ぞろえと接客を楽しみにしている。飲食と買い物だけでなく触れ合いを求めている」などと教わった。
各店は慣れてきたこともあり、外国人への苦手意識は薄れている。臆せず日本人と同じ対応とサービスをすればいい、と捉えている。
菅野理事長は「洋服店にも客がたくさん入り、サイズが無くて困るほどだった。売上にはつながらないが、各店をのぞいていく客も多かった。3年ぶりに来たという客が『楽しみにしていた』と寄ってくれた。何か特別にしなくても楽しんでもらえる」と話した。
来年度は日本人客中心の外航クルーズ船の寄港も予定されていることから、菅野理事長は「日本人客はよく買ってくれるという。シャトルバスが停まる、山王くらぶといろは蔵パークの間を歩いてもらうためにどうするか。朝市やマルシェのようなにぎわいを作れないか検討している。船にもよるが千人くらいが歩いてくれるクルーズ船の寄港はありがたい」と期待を膨らませた。
中古着物を売って売り上げを被災地などに寄付している酒田着物プロジェクト(佐藤幸美代表)も、中通り商店街で椅子とテーブルを出した3回、同商店街の空き店舗で店を開いた。
昨年までより着物を買う客が減り売上は落ちたが、着物を着てみたいという関心はあり、中には買った着物を着せてもらって船に戻った客もいた。着付けができないからと羽織を買い求める客もいた。
佐藤代表は「スタッフは日当も無い全くのボランティア。ワイワイとにぎやかにしているとこころが外国人にも伝わるのでは。触れ合いも醍醐味」と言う。
ふ頭での小学生の出迎えや中心街での高校生のガイドなど、自主的なおもてなしの取り組みが増えている。
酒田市立浜田小学校では2022年度から、児童の英語を話す壁を低くし、片言でも交流して喜んでもらえる経験にしようと、中町モールで、英語で自己紹介したり、酒田の自慢を簡単な英会話で伝えたり、音楽の発表をしたりしている。
25年度は5月28日に3、5年生が、10月21日に3~5年生が行った。折り紙、牛乳パックで作ったけん玉やぶんぶんごまなど、昔のおもちゃをプレゼントした。
児童は「次はこんなことを話したい」などと英語学習への興味が増した。帰国した客から、おもちゃを使っている写真が送られてきて、外国が近くに感じられるようになった。
酒田南高校では4月12日と5月28日に、ふ頭から日和山まで歩いて乗船客を案内した。昨年10月にふ頭でガイドした際、シャトルバスが混み歩いて市街地に向かう客を見たことから企画した。

酒田南高生が中町まで歩いてガイド(4月12日)
酒田光陵高校ビジネス流通科では、酒田市おもてなし市民会議の一員として、(株)たんばや製菓(酒田市)と共同開発した「さつまいも塩どら焼き・さがだ運命の出会い」(1袋3個入り、1080円)を5月28日にふ頭で販売した。ふ頭で約400袋、いろは蔵パークなどに卸した分を含めると1日で約500袋が売れた。
庄内砂丘で取れた酒田産サツマイモと「さかたの塩」を使った菓子で、「さがだ」と地名を入れたパッケージが土産として人気を呼んだ。
生徒が乗客を販売対象に、昨年9月から授業で商品開発に取り組み、今年4月に完成させた。
同科では地元にお金を落としてもらうことを考えて、ものづくりや流通・販売分野で乗客を迎えている。ウエステルダムが寄港した10月21日には、日吉町の古民家でコーヒーとカステラなどを販売した。この日は天候が悪かったこともあり、日和山周辺を歩いている客が少なかったが、今後もさまざまに取り組む予定。