第51回衆議院議員総選挙(1月27日公示、2月8日投開票)の山形3区は、自民党前職の加藤鮎子氏(46)=日本維新の会推薦=が、立憲民主、公明両党で結成した中道改革連合の落合拓磨氏(28)、国民民主党の喜多恒介氏(36)、参政党の遠藤和史氏(60)の3新人に圧勝して幕を閉じた。野党は立憲民主党と国民民主党の両山形県連、連合山形の2党1団体で共闘してきた従来の「山形方式」を築けず惨敗した。水面下でどのような思惑が交錯したのか。異例ずくめだった今冬の決戦を振り返り、何が勝敗を左右したのかを検証する。(本紙取材班)
加藤氏は山形3区内での高い知名度と厚い組織力に支えられ、終始優位に戦いを進めた。高市早苗内閣の高い支持率も追い風となり、報道各社の情勢分析でも無党派層を含む幅広い層に浸透し、最終盤では全域で圧勝することが予想された。
しかし一部陣営関係者が8日の投開票日まで懸念していたのは、酒田飽海地区での勝敗だった。加藤氏は過去4度の衆院選で、酒田市を地盤とする元市長で無所属の阿部寿一氏(2014年12月)、希望の党の同氏(17年10月)、無所属の阿部ひとみ氏(21年10月)、立憲民主党の石黒覚氏(24年10月)と戦い、同市で4連敗、遊佐町では1勝3敗と、同地区での苦戦が課題となっていたからだ。
加藤氏は投開票日5日前の3日夕、JR酒田駅前のル・ポットフーに支援者ら約250人を集め、酒田飽海地区総決起集会を開いた。
いずれも自民党で酒田市・飽海郡区の森田廣と梶原宗明、県議会議長の田澤伸一、党山形県連幹事長の伊藤重成の4県議からの激励を受け、あいさつに立った加藤氏は、これまでの実績に▼日本海沿岸東北自動車道の秋田県境県内区間の開通▼山形県沖洋上風力発電に向けた酒田港の基地港湾指定▼2024年7月の大雨災害直後の早い段階での激甚災害指定―などを挙げた。
その上で「これまで培った人脈や経験、実績を礎に今後も皆様方の力になれる仕事をしていく決意と覚悟なので、どうか酒田飽海で勝たせてほしい」と訴えた。
結果は、酒田市で初めて最多得票数を獲得し、山形3区を構成する庄内、最上両地域の13市町村の全てで勝利を収めた。
県内の政治事情に詳しい保守系のある関係者は「加藤氏が酒田飽海地区で苦戦してきたのは、阿部寿一氏を支えた勢力が残っていることによる。しかし、その影響力は徐々に弱まっており、今度の衆院選では動きがほとんど見えなかった。酒田飽海地区での加藤氏の勝利は、父親の加藤紘一自民党元幹事長が築いた加藤王国復活の第一歩になる可能性がある」と分析した。
鶴岡市のある自民党関係者によると、自民党と長年協力関係にあった公明党が連立政権から離脱し、立憲民主党と中道改革連合を結成したことで、今回の選挙戦は厳しい戦いになると見込んでいた。
しかし、喜多氏が国民民主党から立候補を表明し、野党分裂が決定的となってからは、加藤氏の陣営に楽勝ムードが漂い始めた。
この関係者は「加藤氏が勝てたのは、高市総理の人気に乗った部分はあるが、野党の分裂が大きい。喜多氏が立候補を表明して『勝った』と思った」と話す。
さらに「加藤氏の実績も評価された。加藤氏は衆院議員を4期務め、大臣も経験した。かたや対立候補の喜多氏は鶴岡に移住して1年も経たず、昨秋の鶴岡市長選挙では惨敗している。落合氏は政治経験が未熟な28歳。遠藤氏はそもそも庄内に住んでもいない。この顔触れなら、もっと圧倒的な差を付けなければならなかった」とも指摘した。
野党が国政選挙で自民党に勝つために共闘してきた「山形方式」。立憲民主党山形県連と国民民主党山形県連、労働組合組織の連合山形の2党1団体が統一候補を擁立して戦ってきた枠組みが今回は崩れた。
立憲民主党の落合氏は、昨年6月に2党1団体の統一候補として、山形3区から出馬することが決まった。しかし、立憲民主党と公明党が中道改革連合を1月16日に結党し、喜多氏が14日に国民民主党の公募に応募したことを受けて、状況は一変した。
落合氏は19日に酒田市で開いた会見で「2党1団体の支援の方針を受けて3区を回ってきた。国民県連と連合山形に恩義があり、自分一人では判断できない」と話し、基軸は2党1団体という姿勢でいた。中道への入党届け出は期限が迫った20日午前となった。
一方で2党1団体は20日午前に協議を開いた。立憲県連は「反自民でこれまでと何も変わらない」と説明したが、連携に関しての話し合いは合意に至らず、2党1団体の枠組みは一旦棚上げされることになった。
舟山康江国民民主党県連会長は喜多氏と共に21日に鶴岡市で会見を開き「構成組織の一つ立憲民主党が衆院選挙で消滅することに伴い、一旦2党1団体を棚上げする。これまでの関係を重視し最大限の敬意をはらい、立憲民主党の現職がいる1区には大きな配慮をして国民民主からは出さない。一方で3区は国民民主の旗を立てて党勢拡大を図る」と説明した。
国民県連の動きを立憲県連の関係者は「恩も義理もない。前回の衆院選の際には、山形2区で立憲の議員も『国民』と言って応援した。これまでの(舟山氏)支援者も困っている」と複雑な心境を明かした。
連合山形は落合、喜多両氏を支持する実質上の自主投票となり、各労働組合で中道と国民に分かれて支援に動いた。非自民系の県議や市議は、立場を明確にして支援に動く議員もいたが、両陣営から距離を置く議員もいた。
舟山氏の判断に対しては、自身の後援会幹部の間から反発や反対の声が上がった。
複数の関係者の話を総合すると、舟山康江酒田飽海地区後援会(本多茂会長)は公示日2日前の1月25日に役員会を開き、自主投票とすることを決めた。
自主投票としたのは「落合氏のほかに喜多氏を擁立すれば、野党票が割れてしまい、加藤氏を利することになる」との意見が多数を占めたため。役員からは「後援会は舟山氏個人を支援している組織であり、国民民主党を支援しているわけではない」との意見もあった。
しかしその後、当初は擁立に難色を示していた本多・酒田飽海地区後援会長に加え、酒田市・飽海郡区の阿部ひとみ県議会議員(無所属)、酒田市議会内の第2会派で保守系の無所属議員でつくる「志友会」(後藤仁会長、構成員6人)が、公示日直後の1月末に舟山氏からの要請を受け入れ、喜多氏の支援に回った。
志友会は、阿部寿一氏の市長選と衆院選を一貫して支え、「酒田市から代議士の誕生を」との意向が強いといわれる。舟山氏が協力を要請したのが鶴岡市在住の喜多氏では、運動も限定的にならざるを得なかった。
阿部ひとみ県議は本紙の取材に答え「(自身が)衆院選に立候補した際に、舟山氏から応援してもらった経緯があり、それに対する恩返しという意味合いで、喜多氏への支援を了承した。しかし体調を崩してしまい、目立った活動はできなかった」と振り返った。
酒田飽海地区後援会の有力幹部は本紙の取材に「舟山氏と後援会との間にはしこりが残り、このままでは空中分解しかねない。活動の再開には一定の時間を要するが、崩壊した後援会を再構築できるのかどうかは分からない」と明かした。
その上で「今になって振り返れば、舟山氏は『裸の王様』状態だった。2党1団体の候補者として落合氏が立候補していれば、与野党対決のムードが高まり、もう少し接戦になったのではないのか」と指摘した。
衆院選では、公明票の行方にも注目が集まった。
鶴岡市のある公明党関係者によると、今回の選挙戦では落合氏への票を固め切れず、公明票は一定数が加藤氏に流れたようだ、と分析しているという。
選挙前は「まずは比例票を固めるように」と指示されていたが、落合氏が中道改革連合の公認候補になってから急きょ、落合氏を支援するように求められた。
しかし実際に選挙区を回ってみると「落合氏の人物を知らない。知らない人の名前を投票用紙に書けない」「これまで加藤氏を応援してきた。加藤氏を応援したい」という声が聞こえ、党員と支援者にとまどいが広がっていた。
この関係者は「選挙戦での支援の度合いには温度差があったように思う。落合氏の支援で固まるまでにタイムラグが生じた。落合氏の敗因は出遅れによる知名度不足。公明党との連携はほぼ選挙戦の公示と同時にスタートし、選挙区への浸透は投開票日までに間に合うかどうかという感じだった。公明党の党員と支援者がこれまで支援してきた加藤氏を応援したいという気持ちは理解できる。特に鶴岡では落合氏が酒田の人だからというので評価されなかった。加藤氏に一定数の票が流れたと思うが、どれだけの票が流れたかは分からない」と話す。
今後の立憲民主党、自民党との関係も手探りだと言い、「県議選、参院選は上からの指示次第。実際にどう動くことになるかは分からない。鶴岡市議会では、自民党系の佐藤聡市長を昨秋の市長選で応援した経緯があるため、市議会ではこれまで通りに市長与党の立場で変わりはないと思う」と語った。
酒田市の公明党関係者によると、衆院選では落合氏の支援で動き、街頭演説の動員などでは一定程度の協力はできたが、時間が足りずに投票行動では浸透し切れなかった、と話した。
公明党の酒田市議2人は現在、自民党の市議と市議会内の最大会派「新和会」(佐藤伸二会長、構成員13人)を結成していることから、同会派の動向が注目されている。
公明党酒田支部長の佐藤猛市議は本紙の取材に「所属会派についてはこれまで通り、新和会で活動することになると思う」と語った。
今後の焦点は5期目を迎えた加藤氏が、山形3区の有権者の期待にどのような形で応えていくのかに移る。今回の衆院選では、有権者の間から庄内最上地域の交通インフラの整備を望む声が、数多く聞かれた。
ある自民党関係者は加藤氏に求めることとして「庄内のインフラ整備が進まないと批判を受けるが、日本海沿岸東北自動車道と新庄酒田道路は予算が毎年きちんと付いている。決して整備が進んでいないわけではない。しかし、スピードアップが求められていることも事実。予算のさらなる増額と早期開通を目指して、これまで以上に活動してもらいたい。酒田港と庄内空港の整備にも期待している」と話した。
酒田市の事情に精通している関係者は「吉村美栄子県知事と一緒に、山形新幹線の庄内延伸を進めてほしい。酒田港の物流機能を向上させるためにも、日本海沿岸東北自動車道の新潟、秋田県境区間の整備など、地域の発展にこれまで以上に力を発揮してもらいたい」と要望した。
一方、舟山氏が改選期を迎える2年後の次期参院選について、山形3区のある政党関係者は「舟山氏が(次期参院選に)立候補するのかどうか、中道改革連合がどうなるのかは分からないが、舟山氏が取った一連の行動に対する反発は根強く、立憲民主党県連の一部関係者からは『舟山氏に対抗馬を立てるべき』という声も出ている」と打ち明けた。
来年は春に県議選、夏には酒田市長選も控えているが、自民党の圧勝に終わった衆院選の結果が、これらの選挙にどのような影響を及ぼすのかを、各政党関係者は注意深く見守っている。
▼酒田市・70歳代・男性・自営業=小選挙区は加藤氏に、比例区は自民党に投票した。日本海沿岸東北自動車道の新潟県境区間や石巻新庄道路・新庄酒田道路、山形新幹線の庄内延伸を含む鉄道の高速化といった交通インフラの整備を進めてほしいと思っている。実現するには現政権に近い加藤氏を国会に送り出した方が早く進むと考えた。加藤氏には自民党の国土交通部会長として、庄内最上の高速交通網整備に、これまで以上に力を尽くしてもらいたい。比例区では、消去法で自民党に投票したが、外交・安全保障の面で高市早苗首相に危うさを感じている。
▼鶴岡市・30歳代・女性・会社員=小選挙区は加藤氏に、比例も自民党に入れた。高市氏を初の女性総理として応援している。特に子育て支援と若者支援、経済対策に期待している。加藤氏にも子育て世代として国政と地元の活性化に貢献してもらいたい。物価が上がっているのに賃金は上がらず生活は苦しい。まずは経済対策を進めて手取り収入が増えるようにしてほしい。
▼鶴岡市・40歳代・女性・自営業=小選挙区では、さまざまなことを変えてくれるのではないかとの期待から喜多氏に、比例区は消費税減税よりも社会保障の問題が大切と考えてチームみらいに投票した。自民党圧勝の結果に、小さな声は届けようにも無理なのかと諦めにも似た気持ちになった。消費税を無くした分の財源はどこから持ってくるのか、防衛費は増額していいのか。武器が売れると誰かにとってうま味があるのではないか、などと国のやることに疑いを持ってしまう。
▼鶴岡市・50歳代・女性・自営業=小選挙区は落合氏に、比例は中道に投票した。裏金や統一教会の問題をごまかしている自民党政権は信用できない。対抗勢力になるところに期待した。野党共闘が壊れたことには怒りを感じている。今後、野党の弱体化、小さな声の切り捨てなども心配される。自民党が進めていくことの一つ一つに関心を持ち、注視していかなければならない。力で制圧していくような世の中になっては困る。
▼酒田市・女性・40歳代・会社員=加藤氏、落合氏、喜多氏のいずれにも強い支持を持てなかったため、小選挙区は消去法で遠藤氏に投票した。既存の政治への閉塞感から、今までと違う選択をしてみたいという気持ちが大きかった。比例区はチームみらいに入れた。他党批判より、自分たちの目指す社会像を語っている姿勢に共感した。特にテクノロジーを活用して国民生活を豊かにしていこうという理念は前向きに感じた。
▼酒田市・男性・40歳代・会社員=加藤氏は、庄内のためにどれだけ具体的な成果を上げてきたのかが見えにくく、不満があった。与党議員として、もっと地域への働き掛けや発信があってもよいのではないかと感じている。落合氏は政策より選挙対策が前面に出ている印象を持った。喜多氏にも不安があったし、遠藤氏にも決定打を感じなかった。直前まで悩み喜多氏に投じた。比例代表はチームみらいに入れた。加藤氏は選ばれた以上、庄内のために本気で働いてほしい。地域の声に耳を傾け、目に見える成果を示してもらいたい。
▼酒田市・80歳代・男性・無職=小選挙区は落合氏、比例区は日本共産党に投票した。共産党を支持してきたが候補者がいなく、白票を投じようかとも思ったが、現首相の独裁を抑えたいと考えて中道改革連合の候補者に投票した。国と国との戦争に備えるような姿勢には抵抗がある。
▼酒田市・80歳代・女性・無職=小選挙区は落合氏、比例区はこれまでどおり日本共産党に投票した。既存政党には期待していないので、一番若い候補者に1票を託した。現首相と国民の感覚にずれを感じる。国同士の競争より国民の生活にもっと目を向けるべきでないか。
▼酒田市・80歳代・女性・無職=棄権した。自民党支持だが、山形3区を含めて自民党がかなり優勢という報道と、足元の悪さもあって投票所に行かなかった。
▼酒田市・50歳代・女性・自営=特定の支持政党はないが、初の女性首相を応援しているので、小選挙区は加藤氏、比例区は自民党に投票した。高市首相の考えや政策に共感しているのではない。
▼酒田市・女性・30歳代・個人事業主=小選挙区は落合氏に、比例は中道に投票した。公約を読んで、自分と年齢が近く、若い世代が活躍できる場、庄内の1次産業にも目を向けていてうれしかった。
▼酒田市・男性・30歳代・団体職員=落合氏に投票した。自民党には期待できないので、他の政党に投票したいと思った。候補者の中で一番若く、変えてくれそうな期待を持てた。比例は支持できる政党がなく、白票を入れた。